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【マッチレビュー】2022 J3 第25節 AC長野パルセイロvs福島ユナイテッドFC

昇格争いからの後退

 9月18日、長野Uスタジアムで行われた2022 J3 第25節 AC長野パルセイロvs福島ユナイテッドFCの一戦は、0-1でアウェイチームの勝利となった。
 ホームチームの長野としては、昇格争いから遠ざかる痛い痛い敗戦となった。第23節、第24節に続いて勝利なし。9月に行われたリーグ戦では未だに勝点1しか掴むことができていない。また、敗れた試合は無得点で終了するという得点力不足が影響していると言わざるを得ない結果となっている。第25節の他会場では、首位いわきが今治にシーズンダブルされるという衝撃もあったが、長野は自力で勝点を積むことができず、一気に突き放されてしまった。いわきを追走する鹿児島・松本ともに勢いは衰えず、難しい試合であっても勝点3を積み重ねるという勝負強さを発揮している。
 長野としては痛すぎる敗戦。逆転の基準とされている勝点差と残試合数の関係も、13と9と大きく勝点差が上回る結果となってしまった。可能性が0になったわけではないが、かなり厳しい状況に追い込まれたことには変わりない。アウェイ2連戦で運悪く勝点を失った側面も大きかっただけに、ホームでの敗戦はメンタル面でも悪い影響が出ないか心配である。
 一方の福島は、2連敗からの復調を見せる勝点3を掴み取った。連敗していたとは言え、相手は富山・松本という上位相手。昇格争いの崖っぷちにいる長野を相手に勝点3を掴み取れたことは、チームにとってプラスになる良い材料だと言えるだろう。
 この試合でも得点をあげた長野選手はこれで直近5試合で3得点という素晴らしい活躍。「長野」に対して「長野」が得点を奪うというとんでもない事象になったわけだが、今後も調子をあげて得点王争いに絡んでくると面白い。
 昇格争いというところで行けば、正直ほぼほぼ可能性は消滅した立ち位置。しかし、服部監督を中心に長野対策を仕込み、アウェイの地でも堂々と勝利に向けてプレーできていた。この点は今季に関わらず、来季に向けても好材料になると言える。自分達のスタイルをよく知るからこそできる徹底度で長野のスタイルを完封してみせた。

スタメン&ベンチメンバー

 ホームの長野は前節からスタメンを2名変更。前節は累積警告によってベンチ外だった杉井が復帰し、前線には山本と宮本が同時起用されることになった。システムの大枠としては5-1-3-1→4-2-3-1の形に変更はなし。複数得点が奪えない状態が続いていることから、チーム内トップスコアラーである山本と宮本の同時起用には期待した。
 アウェイの福島は前節からスタメンを5名変更。これまで全試合で先発出場していた山本選手に代わって大杉選手がゴールマウスを守る。他にも3バックで大武選手の両脇を固めることの多かった堂鼻選手と雪江選手がベンチ外に。長野対策シフトなのか、想定よりも中心となるメンバーが変更されていた印象を受けた。
 長野のサブには山中、福島のスタメンには新井選手が抜擢されており、市立長野高以来の再会を楽しみに待つ長野サポも少なくなかっただろう。

福島の長野対策

前節の岐阜戦の試合前コメントでも、シュタルフ監督が明らかな自信を見せた長野のボール保持。保持というより、運ぶ力という方が適切か。「J3で最も上手くボールを運べる」と指揮官が語った通り、現在の長野のボール保持はシーズン序盤に比べると、非常に良くなったと言える。もちろん、ビルドアップの過程でミスがないわけではないが、気づけば相手の急所にボールを運べているというのが最近の長野の特徴だろう。
 福島としても、2連敗中の大きな要因は前半の早い段階から失点をしてしまうところにあった。長野の決定力は富山・松本に劣るかもしれないが、自分達の時間帯を五分のスコアで長くするために守備に重点を置くのは納得だった。

 実際に福島の守備対応を見ていく。長野の4-2-3-1の可変システムに対して、守備時は5-2-3のブロックを組んで対応。3トップが狭い幅の中で構え、ダブルボランチが長野のボランチを牽制する形で前に出てくる。ピッチの中で長野のボランチが使えるスペースを非常に限定した形で長野のビルドアップに臨んだ。
 また、長野がこのシステムでうまくハマり出して以降、おそらく初めて積極的にボールを奪いにこない守備と遭遇することになった。いわきや岐阜をはじめ、長野の4バック+GKのポイントに対して圧力を高めて、ミスを誘う守備をするチームと対戦してもある程度保持できていたシステム。当然、この試合でも保持することは容易に達成する。
 しかし、積極的にアクションを起こしてミスを誘う守備をしないということは、長野のビルドアップで動かしにくいということ。動かしにくいという点が、長野の攻撃力を半減させた要因だと考える。
 ここで、長野の攻撃には、段階的な要素があると仮定する。
①GK+4バックでの保持
②ボランチorIHを経由し、相手を食いつかせる
③食いつきによるズレを2列目が流動的に突く
④SBorボランチが再び関わりスピードアップ
⑤相手の深い位置に進入
 
この段階的なステップを一つ一つクリアした時に決定機を作り出すことができるのが、現状の長野の攻撃。福島の守備が食いつかないことを意識して、スペースを埋めて迎撃する形であったということは、②の段階のスイッチが入りづらくなったということ。長野のミスを伺うように、スペースを消し、5-2-3でじっくりと睨みをきかせる福島。
 おかしな話かもしれないが、長野のこれまでの攻撃はリアクションアタックなのである。相手の隙を生み出させてズレに対してアタックをかける形。もちろん、長野としてもブラフ(食いつかせるためのパス)を出して釣っているが、相手が奪う意識が強いことでそのズレは大きく拡大する。スペースを埋める福島に対しては、自らのアクションで隙を作らなければならなかった。

攻撃のボトルネック

 前項で言及した②の段階の難しさが顕著に現れたのが今節の大きなポイントだ。

 福島の1st守備ラインが長野のボランチを意識して、中央に集結しているということは、必然的にSBが攻撃の糸口になってくる。ただ、これまでの組み立てとは違い、食いつかせた直後の隙を狙いまくれる状態のSBではない。SBがアクションファクターとなって、相手の組織に亀裂を生まなければならない。今節のボトルネックはここにあった。

 第一にバイタルエリア進入の差し込むパスが通らない。SBがボールを運び、福島WBを食いつかせた状態で、IH(SH)は内側から外側にDFラインを引っ張る。これによって、SBから中央の山本・宮本へのパスコースが一瞬開通する。ただ、このパスが通らない。敵が密集しているゾーンにいつもより長いパスをグラウンダーで供給するため、難易度は上昇する。技術スキル云々で言えば、J1や欧州リーグと比べて劣るJ3であるから百発百中で通せとは言わない。杉井に至っては、この形のパスがチームトップレベルに上手な選手だと推測できるため、技術の急な底上げはボトルネック解消の大きな要件は満たさない。
 そんなわけでブロックを固められた時の攻撃として、個人的に引っかかる点を列挙していきたい。

スピードアップ手段

 1つ目はスピードアップの方法について。長野の攻撃を細分化した時の5要素の中で、スピードアップは非常に重要な要素である。これまでのいわきや岐阜のように積極的に出てくるチームに対しては、集団でスピードアップすることができていた。しかし、今節のスピードアップの局面ではどうしても個人だけのスピードアップが目立っていた。

 例えば、前方にスペースがあり、そこに対して大きなストライドでボールを持ちながら進入していく。このドリブルは何のためのドリブルなのか。そして、その意図をボールホルダーと周辺の仲間が共有できているか。ここが大きな鍵になってくると考える。
 相手の後ろに構えるDFラインの一部を引き出し段差を作り出すため。ボールを1つ内側のレーンに運び角度を作るため。状況に応じてその目的は異なる。ただ、この目的を共有できていないと、急激に1人がスピードアップしたに過ぎず、相手の守備が慌てることはない。個人としての局面における脅威は増すが、視線が振られることもなく、他の選手に動きはないからだ。1人のスピードアップでは、亀裂は生まれることなく、局面での個人打開に頼る側面が大きくなってしまう。
 同カテゴリーにおいて、圧倒的な個の質での優位性を持つクラブでは有効かもしれないが、現状の長野では、個人の質で殴り続けられるほどのタレントはいない。(強いて挙げるなら途中交代でのデュークくらいか…)組織でのスピードアップで襲い掛かる持ち味が消された状態では、5-2-3のブロックに対して、急所を突くことは少なくなってしまった。

2ndラインの突破方法

 前項とも重なるところにはなるが、長野のビルドアップで重要なのが、2nd守備ラインの突破局面。いわきのように4-4-2の相手なら中盤の4枚を越えるスイッチであったり、福島の5-2-3で言えば5バックの前のエリアの制圧というところになるだろう。
 この試合、福島DFラインの背後を狙っていくという約束事があったかもしれないが、5-2-3で構えている局面で放り込む場面があまりにも多過ぎた。

 裏へのパスでも、1人の判断によるスピードアップだけでは有効性が半減してしまう。ボールホルダーに対して、異なる矢印の向きで動き出すことで相手の組織に亀裂を生んだり、相手の守備に迷いを生むことができる。そして、今節で先発起用された山本・宮本のコンビでは、どちらの役割もできるため、そこにも期待していた。しかし、DFラインからの単調な1〜2人の判断によるスピードアップに見えるシーンが散見された。
 メンタル面でのOne Teamはもちろんのこと、プレー中の意図の共有もOne Teamを達成した時の強みだろう。全員の意識とまでは言わないが、アタッキングサードの進入や崩しにおいてイメージの共有は必須だ。ブロックを固める相手に対して、放り込みだけで通用するほど、最近のJ3は甘くない。一番プレー選択時間確保がされているDFラインはそんなタイミングで一か八かのスペースに蹴ってよかったのか、前線同士で味方のスペースの共有はできていたか、受けられないながらも動き出しで相手の中盤を動かせなかったか。何となく引いて守る福島に対して、独立した獅子に見えてしまった攻撃。今一度群れとしての攻撃を振り返る必要があるのではないだろうか。

失点場面は…

 失点場面についても一応言及しておく。一言で言ってしまえば、「あっぱれ」福島の狙い通りの形で先制された。局面局面でデュエルに勝てれば…とも思えるが、水谷の身長における不利は変えようがなく、樋口選手の運び方&クロスの精度、長野選手の落ち着き、全てが噛み合ってロングカウンターが炸裂した。
 カウンターの処理の仕方が悪いというよりは、やはり攻撃の終え方が重要だろう。現状のCBは秋山・池ヶ谷以外は考えづらく、(乾は加入から間もないためまだ計算には入れないものとする)この両者がスペースに走り込まれるカウンター対応に長所がないのは受け止めなければならない事実。その分、この2人でなければビルドアップは機能しないだろうし、空中戦での優位性も作り出せない。
 ポジションの兼ね合いでカウンターをもろに受ける宮阪・秋山・池ヶ谷に瞬発力の利がないのであれば、攻撃の終わらせ方をはっきりさせていく必要があるとも言えるだろう。やはり、集団としていかにゴールに迫っていくか。如何にシュートで完結する形で攻撃を終えられるかが、福島の策を見て真似するチームに対しては重要になってくる。
 いずれにせよ、長野対策という点ではある程度の完成系が見えてしまったわけで、ここからは自分達のスタイルを磨いていくしかない。細かな30cmのズレや立ち位置にこだわりを持ってシーズン終了まで駆け抜けてほしい。

まとめ

 勝点差という変えようがない過去の積み重ねで大きな差が生まれてしまったのは事実。しかし、昇格の可能性が潰えたわけではなし、昇格が消えたからと言って気持ちのない試合をしていいわけでもない。正真正銘、自分達の結果だけを意識すれば良くなったのだから、今節の内容に矢印を向けて、積み上げてきているものに磨きをかけてほしい。今節でも33:50〜や39:25〜など良い形のスピードアップはあった。試合中の修正も含めて、今一度One Teamとなり、勝点3を掴み取ろう。
 次節もホームゲームとなる。相手は前回対戦で0-1と敗れている沼津。シーズンダブルをホームで食らってたまるか。相手はミッドウィークに静岡ダービーを行い、日程としては長野が有利。相手を走力でも雰囲気でも執念でも圧倒して勝利する。勝点3こそが最高の特効薬だ。積み重ねてきたものは間違っていない。もう一度仲間を、チームを、ファミリーを信じて、最高の状態でUスタに集おう。まだまだ闘える。まだまだ闘う。

獅子よ、千尋の谷を駆け上がれ。


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