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「花は咲く」の英訳が教科書に

中学三年生の英語の教科書「NEW CROWN」をAmazonで3冊購入しました。
今さらながら、英語のやり直し学習を・・・、とそんなことではありません。

中三用の英語教科書「NEW CROWN」

実はこの英語の教科書に、NHK東日本大震災復興支援ソング「花は咲く」の英語版の歌詞が載っています。
この曲は、私がプロデュースに関わった曲で、東日本大震災の被災地を支援するプロジェクトのテーマソングでした。
この曲の英詩が教科書に掲載されたことは、掲載当時から聞いていましたが、実物を見たことがなかったので、ようやく購入したというわけです。

自身がプロデュースした曲が教科書に載るのは、夢の一つでした。

しかも、ベン・E・キングのスタンドバイミーや、シンディ・ローパーのTrue Colors、さらにスティーブ・ジョブズやマザー・テレサの名言などと肩を並べての掲載です。

実物を見ると感無量でした。

この曲の原詩は、映画監督の岩井俊二さん。訳詩はロジャー・パルバースさんです。
パルバースさんは、かつて「E名言の世界」という英語番組でお世話になり、飲みに行くといつも熱い言語・文化論を闘わせた仲です。

英語と日本語の双方の言語だけでなく、東西の文化にも精通したパルパースさんに、「花は咲く」を世界に広げるために訳詞をお願いした、というわけけです。

訳詞の作業にも熱い議論があり、2人で音楽スタジオに入って、ああでもない、こうでもないと話し合ったことを覚えています。

一番熱かった議論は、直接表現と比喩表現の違いです。

真っ白な雪道に春風香る、という美しい比喩表現をそのまま英語にしたい、というと、パルバース氏は「英語では、あるいは英語文化圏では、この比喩の裏に込められた美意識は伝わらない。もっと直接的に心情を表現しないとダメだ」と譲りませんでした。

「花は咲く」の掲載ページの一部

一つの理由としては、英語そのものの言語の特性があります。
しかしそれ以上に、文化・価値観の違いが大きいのです。
「花は咲く」に見られる比喩表現の背景にある、日本人なら誰もが持つ共通の文化・価値観を、他国の人は持ち合わせていない、ということです。

真っ白な雪道に春風香る、という言葉から感じる、純粋さ、清らかさ。
早春の凛とした空気感。
命の芽吹く季節の訪れ。
新しい時を刻む微かな期待感。

そしてまさに3月11日とはそういう季節なのだということ。

そうした様々なニュアンスは、欧米文化圏の人には伝わらず、無意味な情景描写と映ってしまう、というのです。

単語を正確に訳せば意味が伝わるわけではない、というのは英語番組をやっていて何度も感じましたが、「花は咲く」の訳詩作業はそれを最も強く感じた体験でした。

この曲は、春のセンバツの入場行進曲にも選ばれました。
そして紅白歌合戦では、綾瀬はるかさんが涙ながらに歌い、多くの人に感動を与えました。
そうした時にも、この曲に出会えて良かったと思いました。

が、こういう形で若い人たちに歌い継がれ、彼らの心に残っていくであろうことが、何よりの幸せです。
何と言っても、「花は咲く」は、遠い未来にも震災の記憶を語り継ぐために作られた曲なのですから。

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