生け花と、flower arrangementと
アニメ、マンガ、寿司などの日本文化が世界で広く知られていますが、実は古来、日本は園芸大国でもありました。
江戸時代には、西洋の園芸家は日本の園芸に対する理解の深さと技術の高さに目を丸くしたと言います。
また、花のジャポニズムともいうべき、日本の在来品種が多く西洋に取り入れられ定着したのもこの時代でした。
さらに近年まで、日本が世界一の花の生産国であった時代が長く続いていました。
最近になってオランダやアメリカに後塵を拝したとはいえ、今もってなお日本が世界に誇る園芸大国であることは違いありません。
盆栽が世界中の園芸ファンを魅了しているのはよく知られた話ですが、実は「生け花」も日本文化としてその筋ではよく知られています。
生け花は、英語ではflower arrangementと訳されます。
切り花を花びんなどに美しく飾るものです。
盆栽など、根のついた植物を「育てる」のとは性格が異なりますが、植物を愛でる心は似ています。
ところで、生け花の訳語として、flower arrangementという英語をあてるのに、ちょっとした違和感を覚えました。
花=flowerは問題ないのですが、生ける=arrangeは、ちょっと違う気がします。
arrangeは、文字通り訳せば「きちんと並べる」「整える」といった意味で、「美しく飾る」という点に重点が置かれたワーディングです。
一方、「生ける」は、「生」という漢字が使われていることに象徴されるように、「飾った結果どれくらい美しくなるか」というよりも、「花が生来持つ美しさをよみがえらせる」ことに力点を置いている言葉です。
野に咲く花を切り取って来れば、その花が数日で枯れてしまうことは自明の理です。
しかし、その花を花びんや花入れに「生ける」ことで、まるで野に咲いていた時の命の息吹をよみがえらせようとする。
それが、「生ける」という言葉の本質なのだと思います。
私だけの感覚でしょうか、flower arrangementというと、色とりどりの花々がひしめき合うようにびっしり飾り立てられ、人の手が加わった技術を感じる作品をイメージします。
一方、「生け花」というと、自然に咲いていた時を再現するかのような、素朴で、あたかも計算されていないかのようなランダムな配列の中に美しさを見出す芸術のような印象があります。
同じように「切り花を使って飾る」という芸術的行為の中にも、東西の文化的・精神的な背景の違いが、「生ける」とarrangeという言葉の違いに表れている気がします。
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