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ナレーションの書き方、シーン冒頭の切り出し方・3つのパターン

シーンの冒頭のナレーションで見たいかどうかが決まる

映像作品は、映像だけでなく言葉(セリフやナレーション)が大きな役割を果たします。
同じ映像、同じ編集でも、ナレーションのつけ方を変えると、見違えるように面白い作品になります。
その中でも、重要なのがシーンの冒頭の一文。
それぞれのシーンの頭にどのような言葉で切り出すかは、その作品やシーンを「見たい」と思わせるかどうかの分岐点になります。
今回は、シーン頭に使うナレーションの3つのパターンを紹介します。


ノーマルパターン

先に興味を持たせるような特別な仕掛けをせず、普通に物語を始める、あるいは進めるパターンです。
例えば次のようなナレーションです。
「冬子は、今年4月、京都市郊外にある美術大学に入学した。」
「天正10年6月1日。織田信長は京都本能寺に入った。」
「日本では、人口のおよそ3割が年金を受け取っています。」
通常は、5W1Hを意識し、誰が、いつ、どこで、といった情報を必要な順に提示していきます。
このパターンでは、視聴者はこれから始まるシーンの主題を読み取ることはできません。
基本情報が視聴者に打ち込まれることで、視聴者は頭の中でこれから始まる物語の舞台設定を構築していきます。
例えば、信長の例文で考えてみましょう。
このナレーションでは、信長が本能寺に入った、ということしか提示されていません。
ここから始まるシーンが何をテーマに展開するのか、様々な可能性があります。
例えば
①その日の夜本能寺で何が起こったのか
②当時の本能寺はどの辺りにあったのか
➂なぜ信長は本能寺をその日の宿に選んだのか
などです。
視聴者は、そのシーンのテーマを頭の中で確定せずに、次の展開を待つことになります。

疑問形パターン

そのシーンで表現したいことを疑問形で表すパターンです。
例えば次のような表現です。
「冬子は、どのような学生時代を過ごしたのであろうか。」
「信長は、なぜその夜を本能寺で過ごすことに決めたのか。」
「年金生活者は、どのようなことに気をつければよいのでしょうか。」
ここから続くシーンのテーマを、疑問形の形で視聴者に約束するパターンです。
例えば、信長の例文では、これから始まるシーンが「信長が本能寺に宿をとった理由」を説き明かすシーンだ、ということが約束されます。
視聴者は、このナレーションを聞くと、「本能寺に宿をとった理由は何か」という関心を持ちながら次の展開を見る心の準備ができます。
疑問を提示されるとその答えが知りたくなるのは、自然な心の動きです。
視聴者の心には、その解答を得るまでは映像を見続けよう、という視聴継続意欲が湧いてきます。
また、シーンのゴール(本能寺に宿を取った理由)が見えるので、何を目指してこのシーンを見れば良いのかが冒頭から一つに絞られ、安心してシーンに入ることができます。
一方で、この冒頭で提示された疑問がシーンを見終わっても解決されないと、約束が裏切られたことになり、視聴者には不満や割り切れない気持ちが残ってしまいます。

いざないパターン

疑問形を使わずに、次のシーンへの関心を引くために使う表現です。
例えば次のような表現が、このパターンです。
「冬子の学生時代は、一人の人物との出会いによって大きく変わった。」
「信長がその夜本能寺に入ったのは、あるイベントを開くためだった。」
「年金生活者が気をつけておくべき3つのポイントをご紹介しましょう。」
いずれも疑問形ではありませんが、これから始まるシーンのテーマを視聴者に提示しているという意味では、疑問形パターンと似ています。
例えば、冬子の例文では、このシーンで「一人の人物」と出会うことが予言され、信長の例文では、「あるイベント」が開かれることが明示されています。
ただし、すべてを伝えるのではなく一部を隠しておくことで、視聴者の関心を引きつける効果をねらうのです。
「冬子は、学生時代に田中と出会って恋に落ちた」と表現してしまうと、シーンの結論が見えすぎてしまい、シーンを見ようとするモチベーションが下がります。
「一人の人物との出会いによって大きく変わった」と、一部を隠して表現することで、「一人の人物とは誰なのか」「どのように人生が変わったのか」という疑問がわき、それがシーンを見る動機になります。
「いざないパターン」は、シーンを見るモチベーションを適度に喚起し、シーンに「いざなう」ための表現と言えるでしょう。

冒頭ナレーションはワンパターンに陥らないように

以上ご紹介した3つのパターンは、いずれもメリット・デメリットがあります。
疑問形パターンやいざないパターンは、このシーンで見せてくれる内容を予告し、シーンへの期待を高める効果があります。
しかし、だからと言って、使いすぎるのも考えものです。
「〇〇は××だったのだろうか」「なぜ〇〇は▼▼をしたのだろうか」「一体だれが〇〇にそう言ったのだろうか」などと、疑問形が連打されると、視聴者は疲れてしまいます。
疑問形パターンが導入に使われたシーンは、視聴者は無意識のうちに自分でも頭を使って解答を探しながら見ているからです。
また、「〇〇は一人の男と出会い人生が変わった」「〇〇のある行動が××との関係を想わぬ方向に変えていく」「〇〇の一つの決断により事態は進展した」などと、いざないパターンが繰り返されると、視聴者の関心は薄れていきます。いざないパターンの連打は、視聴者をお腹いっぱいにさせ、「もうたくさんだ」と思わせてしまうのです。
ノーマルパターンの中に、時折疑問形パターンやいざないパターンを混ぜていくことが、変化に富んだストーリーテリングを作っていくコツです。









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