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「クルエラ」で描かれた「悪」の主人公


『クルエラ』は斬新な作品だった。
「善」ではない主人公が描かれたのだ。
これは今までのディズニー作品からするとかなりイレギュラーな手法である。

『クルエラ』は元々反社会的な主人公が、最終的にやっぱり反社会的な人間になる様を描いている。最初から才能豊かで反抗的で、周りの人間から嫌われもするが、同時に理解者もいる。この描き方がすごく斬新だった。

この描き方は今までのディズニーの物語のパターンとだいぶ違っている。


ディズニーが描いてきた「善人」が「幸せ」になる物語

ディズニーは抑圧から解放される人々を描いてきた。特にプリンセスの物語にはお決まりのパターンがある。

「善」である主人公が、「悪」である魔女的な存在に危害を加えられ、最後は王子に助けられて幸せになるというパターンである。最終的に「悪」は裁かれる。

白雪姫、眠れる森の美女、シンデレラ、リトルマーメイド、塔の上のラプンツェルなどがこのパターンに当てはまる。

定番のパターン

近年、『アナと雪の女王』『マレフィセント』のあたりからこのパターンが少し変化する。「悪」と思われていた主人公は実は「善」で、王子ではなく自分たちで「悪」を倒す。という風に変わってきたのだ。

しかし、主人公は「善」であり「悪」は倒されるという勧善懲悪のパターンは変わらずディズニーの定番として引き継がれている。このパターンを『クルエラ』は崩していったのである。

そもそも「善」じゃない主人公「クルエラ」

最初から「善」ではない存在としてクルエラは描かれる。

そもそもクルエラは『101匹わんちゃん』のヴィランとして登場するキャラクターなので、「善」でないのは当たり前っちゃ当たり前と言える。

ただ、最近の映画の傾向として『アナと雪の女王』や『マレフィセント』で描かれたように「悪」とされる主人公が本当は「善」だった、というパターンはけっこう多い。(『ジョーカー』もそうですね)

クルエラも「善」だったのが何か悲劇的なことが起こってしまって「悪」になっちゃうのかな〜。となんとなく予想してしまうが、それは全然違う。そんなお涙頂戴の話ではないのだ。


クルエラ(本名エステラ)は幼少期からとにかく個性的で反抗的。度重なる問題行為で小学校からは退学を命じられる。小学校の時点でもう根っからの「悪」である。(この「悪」は「あく」じゃなくて「ワル」のニュアンス)

そこから反省して「良い子」に、とはならないのがクルエラ。
色々あって、スリとして生計を立てていくこととなる。スリに対して罪悪感もなく、もうゴリゴリ犯罪者で「悪」である。ただし、スリ稼業に満足している訳ではない。心の底ではファッションの仕事がしたいと熱望している。

その様子を見かねた仲間の計らいで、ファッション業界に潜り込んだクルエラは才能を開花させていく。この頃のクルエラは一応社会に適応しようと努めているから、元々社会不適合者である彼女的には自分を抑制していたことになる。

しかし、ある別の「悪」の存在をきっかけに、クルエラは社会に適応することを放棄し、自分の才能を覚醒させていく。
ここからのクルエラはめちゃくちゃカッコいい。

クルエラの変化

パンクロックな「悪」のヒーロになり、ロンドンの街を熱狂させる。
そして「悪」として、敵である別の「悪」に立ち向かっていく。


違法な「悪」と合法な「悪」


面白いのが「悪」のヒーローになったクルエラが行っているのはアートという「合法」な行為という点。彼女が行っているのはアート業界ではいわゆるハプニングというジャンルにあたる。(このジャンルは若い頃の草間彌生さんとかが有名)

暴力的で反抗的で高慢な「悪」だけど作品は最高。しかも法では取り締まれない。
自分を抑制していた頃はスリで犯罪に手を染めていたが、解放されてからはむしろ合法なのである。

今までディズニーが描いてきた「善」が「悪」に抑圧を受け、最後は解放される。
というお決まりのパターンとは違い、クルエラは最初から「悪」で別の「悪」を倒すために最後「悪」として覚醒する。

「悪」言い過ぎてなんだかよくわからなくなってきたけど、とにかくクルエラは最初から「悪」で最終的に行き着く先も「悪」ってことです。

ディズニーが今まで描いてきた、主人公は「善」である。という鉄のパターンとは一線を画している。(ただ、そこはディズニー作品なので「悪」と言えども倫理観はちゃんとしてます。絶対年齢制限に引っかからないぞ、という強い意志を感じる)

「善」だけが果たして本当に良いものなのか?「悪」は存在してはいけないものなのか?「悪」って本当はめちゃくちゃカッコいいでしょ?というメッセージを感じて、初見の時ボロボロ泣き、2回目観た時も泣いた。たぶん劇場で泣いてたのは自分くらいだと思うが....。

クルエラ役のエマ・ストーンの怪演とシビれる衣装が終始冴え渡る最高な作品だった。


「クルエラ」好きの人におすすめの作品

『オーシャンズ8』(2018年・アメリカ) 監督:ゲイリー・ロス
『オーシャンズ』シリーズのスピンオフ作品。
メトロポリタン美術館で行われるファッションの祭典メットガラで超高級な宝石(カルティエ!)を盗むクライム映画。メンバーは全員女性。
共同脚本を手掛けたオリヴィア・ミルチ氏は「女性が犯罪を犯す場合、理由を要求されることが多いが、この作品ではそういう理由を設定しなかった。」と語っている。「悪」でいるのに理由なんている?自分がそうしたいからやるんです。という根本的なテーマは「クルエラ」と通ずるところがある。


文・イラスト:長野

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