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【翻訳記事】韓国漫画家たちの日本進出【韓国インタビュー】

自分の韓国語の勉強を兼ねて、ウェブ上の気になるエンタメ記事を翻訳します。
今回は、日本で活躍する韓国の漫画家の記事です。文化の差が面白い。
※出版漫画=ウェブトゥーンと差別化するため、印刷されるものを指す

만화다반사(漫画茶飯事)のWEBサイト記事より(2024.07.31公開記事)
誤訳ありましたら申し訳ありません。意訳はあります。


漫画茶飯事:韓国漫画家たちの日本進出

オフザレコードインタビュー_サト先生との出会い

少し前に、出版漫画を描く多くの新人漫画家たちに会う機会があった。驚くことに、彼らが皆口を揃えて言うのが「日本デビュー」だ。韓国ではなく、日本での活動を目標にしていた。実際にチョンガン大学の漫画科でも約3分の1の学生たちが日本進出を、その他の学校の漫画科の学生たちも大多数がやはり、日本活動を念頭に置いているという話を聞いたので気になった。日本ではどのように漫画家が活動し、日本の出版社はどのようなところで、韓国とどのように違うのか?(もちろん知っている。日本は漫画の王国であり、故に日本の出版社はとてつもなく大企業だということを……)
今年の初めに出版された『Deadmeat paradox』(2024)は、日本の三大出版社の一つである講談社で連載された漫画で、ある意味韓国に「逆輸入」された作品と見ることができる。日本進出を夢見る学生たちが多くいるなら、このような例は今後も増えると予想される。そこで『Deadmeat paradox』を生み出した、そして最近SNSで超写実主義猫の絵でも話題を集める漫画家サト先生に会って、日本の出版社でのデビューと連載までの話を聞いてみた。

Q. 超写実主義猫アーティスト、サト先生、こんにちは。短い紹介を付けてみましたが、「漫画茶飯事」を通して先生に初めてお会いになる読者たちに自己紹介とご挨拶をお願いします。

こんにちは。私は「サト」というペンネームで漫画を描いている漫画家です。韓国で日本の出版漫画を描いています。

Q.2019年、講談社の漫画賞である「ちばてつや賞」に入選、その後、同じ出版社で『Deadmeat paradox』を連載されました。ちばてつや賞は韓国の漫画家たちも受賞したことがあり、和山やま先生が入賞した公募展でもあります。このように韓国でなく日本、そして日本の中でも講談社という出版社を選んだ理由はありますか? 初めから自分に合う出版社を目指したのか、多くの出版社に投稿して講談社から選ばれたのか気になります。

私が出版漫画を描くと誓った当時は、ウェブトゥーンが主流で、韓国では出版漫画の方は、ほとんど独立系しかありませんでした。それで自然に日本に流れたんだと思います。私の作風を考慮して講談社という出版社を目指したわけではなく、私が応募したちばてつや賞が、講談社が主催する賞だっただけです。その時、私の知っている賞が手塚治虫賞とちばてつや賞の2つだったんです。それに逆立ちしてみても「私はジャンプではない」と思ったので、ちばてつや賞に応募する選択をしました。今振り返ってみても、良い選択だったと思います。

Q.「ジャンプらしい」。ここでいう「ジャンプ」は、同じく日本三大出版社のひとつである集英社を代表する漫画雑誌『週刊少年ジャンプ』を指します。「ウォンナブル(※)」をはじめ、『呪術廻戦』『僕のヒーローアカデミア』などの有名な漫画が連載されています。大まかな感じは分かりますが、先生が考える「ジャンプ」とはどういうものですか?
※『ONE PIECE』『NARUTO』『BLEACH』

少年漫画、そして「キャラクター」中心です。作品の中でキャラクターをしっかり作って、その後アニメはもちろん、キャラクターごとにグッズをどんどん出していくという感じでしょうか。それが嫌いというわけではありません。キャラクターを中心に漫画を作ることが、私の領域や特技ではないという話です。私はキャラクターにはあまり関心がなく、物語、プロット中心の漫画を描きます。

Q.それなら「講談社らしい」というのもありますか? 少し前に、よしながふみ先生のインタビュー集を編集しながら、よしなが先生が考える「白泉社らしさ」を読んだのが印象深かったです。

『週刊少年ジャンプ』があまりにも代表的な雑誌なので、集英社については話すことができますが、講談社はどうでしょう。『進撃の巨人』が連載された『少年マガジン』にしても大きく違います。

Q.確かに、今おっしゃった『少年マガジン』、『きのう何食べた?』の連載誌『モーニング』、『青野くんに触りたいから死にたい』の連載誌『月刊アフタヌーン』だけでも色が全然違いますね。

けれど講談社は「威厳がある」という感じがします。講談社にはちばてつや賞以外に「四季賞」という公募展がもうひとつあるのですが、2つの公募展に入選した漫画を見ると、そんな印象を受けました。

Q.「正統」らしいですよね。漫画そのもののような。

そうです。集英社は血気、若さでいっぱいです。

Q.SNSやPOSTYPEなどを通しても話をされたことがありますが、日本出版社での投稿から連載までの過程をお話いただけますでしょうか?

第75回ちばてつや賞に入賞した後、日本の出版社の編集者さんにつながりました。すぐ連載準備をしようと言われたのですが、私は連載の自信がありませんでした。体力もメンタルも連載する状況ではなく、連載への関心もあまりなかったんです。すると編集者さんが「それなら長編の1話を想定した短編を描こう!」と迂回した提案をくださり、そう決めたの後、短編作業をしました。一旦は短編ですが、それが続くと長編になる、連作という感じですね。そんな中、講談社の雑誌『モーニング』で、新人漫画家を対象にしたある社内公募展が開催され、参加することになりました。その公募展で運良く読者アンケート(人気投票)1位になり、その時いい成績をおさめた短編を直して今の『Deadmeat paradox』を作りました。

Q.公募展入賞、短編発表、長編連載。日本で漫画家がデビューする典型的なルートです…が、圧縮された過程の中にエピソードがあるのではないでしょうか。紆余曲折があったと思いますが。

公募展で1位になっても「連載会議」を通過しなければいけません。この連載会議を通過する過程が韓国とは少し違い、簡単ではありません。韓国では(ウェブトゥーンでも出版漫画でも)担当者が連載を希望する作品のプレゼンをしたあと、大きな問題の種や何かがない限り連載が確定します。なので連載会議は当落を左右するものではなく、「こんな漫画を企画して連載する」という発表と報告のようなものです。日本は少し違います。編集長のような「上層部」といえる人たちが集まり、当落を決定します。漫画『バクマン。』(2人の少年主人公が原作と作画として手を組み、デビューから連載までを描く漫画で、作品の背景になっている出版社は集英社の事情に近いといわれている)と本当に似ています。私の担当編集者さんも、いつもこの連載会議の結果を待つたびにハラハラされていたそうです。私は連載会議を通過するまでに、導入部、つまり1話から3話までの話を7回くらい直しました。

Q.それほどの修正を求めることができるというのが驚きです。日本の出版社や日本の編集者たちの特徴はありますか?

外国人の視点で見ると、正直言って不思議です。編集者さんから早朝3時にも返信があり、午後12時にも返信があり……いつお休みになるんでしょう? 漫画家ならわかりますが、編集者は会社員です。私が講談社の事務室に訪問した時も、事務室は明るかったです。とにかく保守的で上下関係がはっきりしていて垂直的だということは感じました。まだ私も連載を一度しか経験していないので、話せることはこれくらいしかありません。

Q.7回も修正をするのは大変だったと思いますが、それでも修正すればするほど改善されていくと十分に感じたということでしょうか?

はい、改善が見えたので続けました。より良い漫画を描きたかったですし、フィードバックとティーチングを受けながら得るものは確実にありました。日本の出版社での投稿やデビューを念頭に置いている韓国の方で、フィードバックに敏感な方は、この部分でもしかしたら難しさを感じるかもしれません。

Q.創作にある程度「介入」されたと感じるということでしょうか?

はい、そのように感じることもあります。

Q.では、日本の出版社と働きながら、実際に難しかった点はどんなものがありましたか?

私は大丈夫でしたが、他の漫画家さんたちがよく吐露されていたことは「メールの返事が遅すぎること」でした。もちろん韓国人たちが過度に早い傾向があるというのも事実です。けれど、どのような結果であれ回答を早く受け取れたら、他の出版社を調べたり、他の仕事を調べたりすることができますが、約束のない待ち時間が続くので、疲れる漫画家さんたちが多いようです。本人の担当編集者さんが早く返事をする方だとしても、一度苦汁を嘗めると、次の連載会議が開かれるまで待たなくてはならず、事が決定し伝達されるまで非常に時間がかかります。全然違うなと思ったら、遠回しに断らずに、ストレートにおっしゃってほしいと思います。ただ私はアメリカとも仕事をしてみましたが、日本の出版社はアメリカとヨーロッパ圏に比べるとまだ早いほうです……

Q.普通「日本」というと、慎重さと保守的な傾向が浮かびますよね。韓国ともきっと異なる点がありますよね? 個人的には昨年集英社でさらっと公開された原稿料を見て驚きました。『週刊少年ジャンプ』の連載時、新人基準でモノクロは1枚あたり18,700円、カラー原稿は28,050円。

集英社、特に『週刊少年ジャンプ』は代表的な雑誌なので、原稿料は高い方です。他の出版社の原稿料は新人基準で1枚あたり10,000円です。もう少し小さな出版社は、1枚あたり9,000円から8,000円まで下がる場合もあると聞きます。でも税金を差し引いて円安の影響まで受ければ、韓国出版社と1枚の原稿料は同じくらいだと思います。

Q.なるほど。原稿料ではなく、システムや業務を比較してみるとどうですか?

韓国の出版社は漫画家個人の能力に頼る傾向が強いです。漫画家の能力にオールインし、率直に言えば、原稿に対してのフィードバックも誰にでもできるものです。日本の出版社は、漫画家個人の能力も重要ですが、これまでヒット作の漫画家たちを育てたノウハウとシステムで、ティーチングとフィードバッグを一緒にします。たとえば、私の担当編集者の先輩編集者さんが大友克洋(漫画『AKIRA』の作者)の担当編集者さんでしたが、そのような先例とヒット作の経験を持つ先輩たちのノウハウが私の担当編集者さんに引き継がれ、私にも影響を及ぼしました。韓国が早く作品を公開して連載することを目指すとすれば、日本は苦心し、精魂込めてヒット作ひとつをしっかり選ぶという雰囲気です。おかげさまで大変ではありますが、実力がぐんぐん伸びる感じでした。

Q.日本で歓迎される漫画の特徴はありますか?「韓国の漫画」とは違う点などです。

よく分かりません。読み方が違っていて、韓国よりレベルが高いというくらい? 編集者さんたちもご存じだと思いますが、国で分けるには曖昧な領域が多いので。

Q.前に韓国の漫画家たちの日本進出を促す文章を読みましたが、韓国の漫画家たちはこれ以上絵柄にこだわるな、すでに十分うまく描けていているという話を見ました。ずいぶん前に書かれた文章でしたが、先生は絵柄の重要性についてどう思いますか?

絵柄はある程度読めるなら大丈夫だと思います。韓国の漫画家さんたちは絵が下手ではありません。絵柄そのものにこだわるのではなく、ストーリーに合う絵柄の開発に十分に気を配ることが必要だと思います。

Q.日本の出版社への投稿や日本での活動を目指す方たちに、アドバイスや気をつける点をひとことお願いします。

以前チョンガン大学に行ったことがありますが、3分の1の学生たちが日本進出を目標にしていると聞きました。どの編集者も韓国人だからと差別しません。返信メールが来なかったり、無視されたと感じたりしたら、ただ「自分の漫画がダサいんだな」と、もっと練習すればいいと思います。ですが「年齢」に関しては話しておきたいです。日本の出版社の公募展は、応募時の年齢を記入しますが、私も公募展入選当時「22歳」という年齢がとても注目を集めました。日本は本当に……「天才」が好きです。

Q.日本でよく特筆大書される言葉ですよね。「天才登場」「最年少受賞」。私も日本の漫画雑誌の編集者のインタビューを見たことがありますが、年齢に言及し、若い新人を好むという話をしていて驚いた記憶があります。年齢で差別しているわけではないですが、斬新さと体力の面で年齢を非常に重視しているそうです。

はい、同じ条件なら、若い新人の潜在力と体力を高く買います。それに、若いと作品を一緒に作るにあたって扱いやすいですし。たびたび志望する人の間で「年齢のせいで公募展で『カット』されることがあるのか、漫画さえ上手ければいいのではないか」とおっしゃる方がいらっしゃいますが、日本の編集者たちには年齢を重要視する部分もあるという話をしています。年齢が公募展の入賞に影響を及ぼすことはないですが、「連載」には影響を及ぼすと思います。例えば、ちばてつや賞に乗った韓国人は私を含めて3人ですが、その中のひとりは40代の時に入賞されていました。実力が十分であれば、年齢は問題でないことは当然だと思います。ただ、曖昧な時は、年齢を考慮するという意味です。

Q.率直なお話を聞かせてくださりありがとうございます。韓国の漫画出版社で働いている私にとって、とても貴重なお話でした。最後に、先生は今後どのように活動されるのかお聞きしたいです。

今は短編を集めて短編集を出そうとしています。私は死ぬまで自由に漫画を描きたいと思っています。今のように猫の絵をたくさん描きながら、漫画を描き続けたいです。ありがとうございます!


日本の出版社と編集者の印象に「確かに」と思ったり、「そうなんか(そうなんか?)」と思ったり……。日本で連載を持った海外の先生のインタビューを読むのは初めてで新鮮でした。サト先生の漫画読みましたが面白かったです。

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