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おひつ膳田んぼで、とりささみご飯

私が働く会社のそばには、やけに早く咲く桜の木がある。春になるとまだ裸の木が多い中、濃いめのピンク色に染まるその木を見ると、入社した頃のことを思い出した。今年は不思議と開花が遅く、まだ蕾の状態だ。いつになったら咲くんだろう。3月に入ったくらいから、幾度となくそう思った。

今日は、3月末で辞める会社の最終出社日だった。
それなりに長く通ったオフィスだけれど、行くのは今日で最後になる。そう思うとなんだか不思議で、かといって、いつもと何かが変わるわけではない。

1つ違うのはお菓子の入った大きな紙袋を携えて電車に乗ったこと。今日はこれを持って各所に挨拶に行かねばならない。
在宅勤務の影響で人もまばらだし、そもそもそんなに関わりが無かった人も多い。挨拶、行かなきゃいけないかなあ。面倒だなあ。そもそも、あの退職者がお菓子を配る週間ってなんなんだ、などと思いながらも、最後に挨拶することも社会人として大事な気がして、菓子を買ったのだった。

何をしていても足元の紙袋が視界にちらちらと入り、気になる。こっそりと【退職 お菓子 タイミング】で検索してみたり。そうこうしているうちに定時になって、さすがにこのまま持ち帰るわけにもいかないだろう、と腹をくくって各所への挨拶をはじめた。
立ち話程度の会話をかわすだけだし、向こうにとってはたくさんいる社員のうちのひとりが辞めるというだけの話なのだろう。それでも、一通り声をかけてみるとやっぱり挨拶は行っといてよかったなあと思う。こういうことでもないと人に感謝を伝える機会というのはなかなかないし、なにより自分自身の心の整理がついてくるようなところもある。

大した仕事もしていないのに、帰るころにはぐったりと疲れた。刺激の少ないものを食べたいなあと思い立って、おひつ膳 田んぼへ。鳥ささみのおひつ膳を食べる。

鳥ささみのおひつ膳

おひつを開けると湯気があがり、そこにはほかほかのごはんが。腹がへっているんだかいないんだかも分からないくらいだったが、一口食べるとただのごはんが無性に美味しくて、空腹だったんだなあと分かる。

今日も桜の木の前を通った。例年なら咲いているはずなのに今年にかぎってまだ咲かない。この桜を花を見れないままやめてしまうことは、少しさみしいと思う。



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