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080:初恋|人生#003

・前回


・小学3年生の3学期、父の都合で僕は福岡県柳川市から北九州市へ引っ越した。
・それに伴い、転校した。あやめが周辺に綺麗に咲き誇っている、比較的新しい小学校だった。

***

・通っているピアノ教室も変えなければいけないということで、もっと本格的になる良い機会だからと、推薦を受け少しだけ名のあるピアニストに弟子入りした。
・最初に通い始める前、課題のような形で「子犬のワルツ」の楽譜を渡され、少しだけ自分で練習して弟子入りテストみたいなものを受けさせられた。
・結果としては小学3年生には思えないという評価を受け、無事弟子入りを果たした。

・そして、厳しい指導が始まった。
・練習教則はツェルニー30番練習曲から始まり、40番へと続いたり、バッハのインベンションを練習したりと、それまでピアノにかかわっていた時間が遊びであったかのような気分になったのを覚えている。
・「習い事」から「ピアニストになる勉強」に変わった瞬間であった。
・間違えたら「違う!」とよく手をたたかれていた。

・そういった「楽曲を弾くための練習」に加えて、音大の受験のための楽典と呼ばれる座学の時間があったり、初見(初めて見る楽譜でピアノを弾く)、聴音(楽曲を聴きとり楽譜に書き写す)の練習もかなり増えた。
・今思えば、9歳~10歳の頃から大学の受験勉強をしていたのか、と思う。

・小学生時点でコンクールやコンサートで披露したことを覚えている楽曲はバッハの「イタリア協奏曲第一楽章」(第三楽章も弾いたが、中学生の頃だった気もする。)、ショパンの「幻想即興曲」、ドビュッシーの「グラドゥス・アド・パルナッスム博士」など。
・他にもいろいろ弾いたな。パイレーツ・オブ・カリビアンの「彼こそが海賊」を師匠と連弾で弾いたのは気持ち良かった。

・まぁ、気持ち良いのは舞台に立ってる一瞬だけで、やはり普段は辛かった。

***

・きっかけは全く覚えていないが、小学4年生の頃初めて異性を好きになった。気づいたら目で追ってしまう人ができた。

・明確に好きだと思っていたが、内気な性格だったのでその気持ちは表に出せずにいた。恥ずかしくて、だれにもその子のことが好きだとは言わなかった。
・時々席替えで近くの席になれば話しかけようと頑張るが、緊張してあまり話しかけることができない。
・もどかしく思っていたら放課後になり、気づいたら何の会話もできずに下校している。
・進展のない日々が続いた。

・悶々としている日々を過ごしていたが、そんな僕に光明が差したことがあった。

***

・僕はリコーダーのテストが常に一位だった。別に練習などしなくても、吹けば勝手に先生が一位を付けた。
・余談だが、音感があったので流行りの音楽をリコーダーで吹くという小ネタを休み時間によく披露していた。

・そんな僕に対し、なにかのテストだか学校行事だかでリコーダーを練習しなければならなかった初恋の人が、「リコーダーを教えて欲しい」と言ってきたことがあった。

・内心かなり嬉しかったが、恥ずかしがり屋だったのでそんな感情はおくびにも出さず、そっけなく了承だけした。
・放課後に体育館で2人でリコーダーの練習をするという日々が始まり、それは少しだけ続いた。

・夕焼けの光が差し込む広い体育館を2人だけで占領し、ステージ辺りに座ってリコーダーをぴょろぴょろと鳴らしていた。
・長く続いたわけではないが、あの時間は幸せだった。

・彼女は小学5年生に上がる頃、親の都合で千葉県へと転校していった。

・自分の気持ちを何も伝えることができず、会えなくなる悲しみで夜泣きばかりしていたのを覚えている。
・この失恋・後悔は中学2年生まで引きずった。この頃から、やらない後悔は絶対にしないことにしている。

***

・時を同じく小学4年生の頃、初めて異性から告白もされた。
・全く意識しておらず、ただの友達と思っている人だった。

・何かのタイミングで住所を聞かれ、小学4年生だったが故に特に何の疑問も持たず、住所を教えたことがあった。
・そしたら数日後、その子から家に手紙が届いた。ラブレターだった。

・聡明な子だったことを覚えている。今読み返しても整った文章で、きちんとした言葉で想いが綴ってある。
・おそらく何度も推敲を重ねたのだろう。消しゴムで消した跡がたくさんあった。
・母はあんな賢い子が何でアンタに?と言っていた。おっしゃる通りだ。

・その頃は前述のように好きな人がいたので、その子の気持ちは丁寧にお断りした。
・だが、好きな人のことは隠していたので「好きな人がいるから」ではなく、「そういったことに興味がない」といった形で断った。
・それは良くなかった、と思う。

・彼女は小学校を卒業するまで僕のことを好いてくれていた。
・バレンタインなどには必ず手作りチョコをくれたり、何かの折には手紙をくれたりした。

・今思うと、申し訳ないことをしたと思っている。
・もう少し突き放しておけば、彼女は自分なんかにとらわれず、より良い恋をしていたのではないだろうか。

・まぁそういうことを考えることも烏滸がましいか。
・小学校の頃の印象なのであまりアテにならないが、彼女は本当に大人びていたので、今はかなりまっとうな人生を送っているのだと思う。

***

・恋愛事のすったもんだは他にもいろいろあったが、強く覚えているのはこの2つ。
・ピアノしかないと思っていた僕の人生に、学校生活という要素をつけ足してくれた偉大な2人であった。

・小学校編はもう少し続く。


・次回

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