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川上弘美さん

もっとも好きな日本の作家は誰?と訊かれたら、
わたしは迷わず、「川上弘美さん」と答える。

彼女の文体の美しいやわらかさと、言葉の選び方がとても好きだ。
たとえば愚痴るを「ぐちる」とひらがなで書いたり、酒の匂いを漂わせて深夜に帰宅するという表現を「微醺をおびて夜更けに帰る」と書くところに、なんだかもう、きゅん、としてしまう。うまくいえないけれど。
わたしもこんなふうに書けたらいいのに、と、いつも羨望の眼差しで読んでいる。

そんな「憧れ」の文章を書く川上さんに、ひとりのファンとして、今日は拝謁する機会に恵まれた。
新作の長編小説『森へ行きましょう』のサイン会である。

実際に目の前でお会いするのは初めてで、とても緊張しつつ、サインを頂いている間、「この作品の主人公と同じく50歳で、興味深く読んでいます」と口にしたら、
「50歳っていいですよね」
静かな笑顔でそう応えてくださった。

気がつけばいつのまにかこの年になり、なんだかなあ、と思っていたけれど、川上さんの聡明な、くっきりとしたひとことで、ポジティブな心持ちになれたのだから不思議である。

名前は本名ではなく「木庭撫子」と書いて頂いた。
これからの50代、がんばろう。
新しいわたしで。

追伸。このサイン会は夫が気づいて、整理券をもらってくれたものだった。わたしの後ろに並んでいた夫は「これから新宿でデートですか?」と、にっこりされたらしい。そんな予定はなかったけれども(笑)、なんとなく二人で食事をして帰ろうということになり、『想い出横丁』の居酒屋へ。帰りは「微醺をおびた」夫と陽気に家路についた。たまにはこんな夜もいいな、と腕を組みながら。

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