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『岸辺のアルバム』

台風一過の今朝。
増水した多摩川で、濁流のなかを救助される男性の様子をテレビで観た。生放送の映像だった。
咄嗟に『岸辺のアルバム』が浮かんで、頭から離れなくなった。

『岸辺のアルバム』は、74年の多摩川水害をモチーフに、ある家族を描いたテレビドラマである。脚本は山田太一。TBSが制作し、77年に放送された名作だ。

当時わたしはまだ子供で、脚本家を目指すようになった高校生の頃にシナリオを読んだ記憶はある。何かの機会に断片的に観たのだろう。冒頭に流れる主題歌も流されてしまう家の映像も脳裏に焼きついているのに、実際に全話をきちんと観たことはなく、いつか観たいと思いながら今日まで来てしまった。

幸いというと語弊があるけれど、昨夜東京に戻ったものの仕事のやる気が起きず、原稿も進まないので、TBSオンデマンドで配信している第1話を観た。

なんというか、様々な感情や思いが一気に押し寄せてきて感じ入ってしまった。

昭和のドラマ作りが今のそれと比べてすべていいとは思わない。その時代に合った作品、求められるものを作っていけばいいし、そのほうがそのときの人々の心を打つと思う。

けれど『今』こそ、こういうドラマを作ってほしいと願うほど、わたしはとても打たれた。静かな語り口で、無駄な説明台詞がなく、登場人物の心の襞が伝わる『日常』が、淡々と、強く観る者に訴えかける。

第1話は、物語の静かな序章にすぎない。
冒頭の多摩川べりを飛んでいたラジコン飛行機(懐かしい!)が家の窓ガラスを割るのは、家族のこれからの波乱を案じさせるのだが、そんな日常の些細な出来事から、夫婦や親子の小さな、まだくすぶってもいない「不満の種」を巧みに描いている。やがてこの「不満の種」が膨らみ、暴発するのだろう。

そんな登場人物たちの危うい関係性を丁寧に描きつつ、物語は『謎の男からの電話』に翻弄される主人公の妻(八千草薫。当時46歳だったらしいけれど、とても美しい!)にフォーカスする。怪しくも魅力的な「雑談をしませんか」という男からの誘い。この電話が物語を引っ張っていくんだという、ドキドキした期待感を持たせて、第2話へ。

そして、2017年の『今』。
主人公の妻と同年代になったわたしは、ドラマのなかに残る過去の風景を懐かしみつつ、この先の展開をドキドキしながら、楽しもうと思っている。

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