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ポワロとポアロ

わたしにとって名探偵ポワロといえば、NHKで放送されていた英国ドラマの、デヴィッド・スーシェが扮する『ポワロ』である。
吹き替えの熊倉さんの独特な声がぴったりはまっていたのも理由の一つだけれど、灰色の脳細胞を駆使しながら、相棒のヘイスティングス君と事件を解決するのは、おでこが丸くてちょび髭がチャーミングな彼をおいてほかにはいない。はまり役とはこのことだと思うほど、このドラマと出会ってからは、クリスティの原作を読むときも、スーシェのポワロが浮かぶ。

その唯一無二のポワロに、名優ケネス・ブラナーが挑戦すると知り、じつは楽しみにしていた映画『オリエント急行殺人事件』。
どんなに忙しくとも映画館で観なければと思っていたので、公開翌日の日曜で混んでいたけれど、夫を連れて、新宿のTOHOシネマズに駆け込んだ。

映画は単純に、とても素晴らしかった。
豪奢なオリエント急行の様子もうっとりしたし、本来は入り組んでいる殺人の背景も謎解きも、すっきりと整理されてわかりやすかった。個人的にはもう少し登場人物にクセのある描き方をしてもよかった気はするが、2時間弱の映画では仕方がない。何より撮影のために作ってしまったという、ホンモノの列車の迫力が半端なく凄かった。やはり映画はスケールが大切だと痛感した。

ケネス・ブラナーのポアロ(表記は『ポワロ』でなく『ポアロ』だった)は、予想以上に良かった。大きすぎる髭もいい。たしかにスーシェのほうが馴染みがある分、イコール度は強いけれども、わたしはブラナーの彼もすんなり受け入れられた。別の新しい名探偵が登場したような、ワクワク感を感じさせてくれたからかもしれない。

役者にとって演じるということは、その役に成りきることよりも、いかに物語を面白く魅力的に見せるか、だとわたしは思う。
そういった意味で期待していたし、その期待は裏切られなかった。監督をしながらこの難役をこなした彼は、新しいポアロ像だけでなく、作品としても、かなり成功したんじゃないだろうか。
わたしのなかでも「ワ」ではない「ア」の、新しい名探偵『ポアロ』として、これから定着していきそうだ。

物語の内容については、語り始めるとどうしてもネタバレになってしまうので割愛させて頂きたいのだが、この映画は小説を読んでいても、スーシェのドラマや74年の映画をご覧になった方でも、きっと楽しめると思う。実際わたしも74年版は子供の頃に観ている。今となってはうろ覚えではあるけれども、丁寧にストーリーを追うあの頃の映画といい意味で違っていて、現代ならではのストーリーテリングを楽しめる作品に仕上がっていると感じた。

次回作は『ナイルに死す』らしい。物語は、豪華列車から豪華客船へ。
そして、どんな豪華キャストなのか。
今からとても楽しみだ。


追伸。思い立って今朝チケットを買おうとしたら、昼頃の回は、有楽町も日本橋も渋谷や六本木に至るまでほぼ満席。
新宿も3館あるのに、残っているのは最前列か最も脇の席くらい。仕方なく『プレミアムラグジュアリー席』を大奮発したのですが、さすがに気持ちいい席でした〜リクライニングできるわ、フットレストもあるわ、何より周りより小高い場所にある席だったから、誰かのアタマで見辛いこともまったくなく。ストレスフリーって素敵!

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