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手帳に挟まったメモのお話

本を買いに行ったら
ズラリと2023年の手帳が
平積みにされていた。

もう、そんな季節なんだ。

ほとんどのことを
スマホで済ませるようになったけど
手帳だけはずっと紙を愛用している。

手帳を持ち始めたのは
確か中学生の頃からだ。

その年その年で
余白ページの使い方に特徴がある。

プリクラがびっしりの年もあれば、
日記のような
読み返すのも恥ずかしいメモ書きが
残されている年もある。

ダイエット記録や
お小遣い帳をつけている年もあった。

一番心に残っているのは、
「集中できないときは
 ボールの縫い目を見ろ」

というメモを貼り付けた手帳だ。

もともとはテニスの試合の
重要な局面で集中するために
言われている言葉だったと思うが、
これを書いたのは野球少年だった。

高校受験を控えた
ちょうど今頃の出来事だ。

2学期の中間テストで
初めて数学で赤点を取った私は、
めちゃくちゃ焦っていた。

テスト中に頭が真っ白になって
公式を思い出せなかったものがあったのは
自覚していたが、
それ以上に簡単な計算ミスが目立っていた。

すっかり意気消沈して
赤点者向けの補講クラスに出ていたっけ。

補講クラスには
運動部で部活に打ち込んでいた人が多かった。

彼もその中の一人だった。

「あれ〜なっちゃん補講って珍しくない?」

と屈託のない笑顔を向けながら
彼は隣の席に座ってきた。

「うーん。なんかね。
   今までギリギリOKだったのに
 今回は全然ダメだった。」

私も適当に笑顔で相槌を打った。

補講が始まってからも
テストでなんであんなミスをしたのかと
そっちばかりに意識がいってしまい、
肝心の授業は上の空だった。

私が授業を聞いていないのに
気がついたのか、
隣からカサッと差し入れられたのが
例のメモだった。

ボールって…今数学だよ。
と思いながらも、
授業中だからツッコミを
入れることもできず
先生の話に意識を戻した。

補講が終わり、

「これ、どういう意味?
  数学なのに、ボールって。」

と尋ねると、

「これは監督に言われたの。
 試合中、集中できなくなったときは
 ボールの縫い目に集中しろって。
 実際には縫い目までは見えないけど、
 見ようとボールに意識を向けることで
 自然と試合に集中できるんだ。
 なっちゃんなんかボケーとしてたから
 これは集中してないなと思ってね。」

と教えてくれた。

「へ〜。面白いね。
 勉強中は鉛筆の芯にでも
 集中しておけばいいのかな。」

「芯見ても公式は頭に入らなくね?」

「あ、確かに…」

そんなようなやり取りをした気がする。

彼は「あ、じゃあさ。」と言って
カバンの中を探った。

「はい、これあげる!」

と言って差し出してきたのは
野球のボールだった。

「これで、集中できないときは
 ボールの縫い目見れるでしょ。
 補講がんばろうな!」

と、私の手にボールを乗せた。

「ボールの縫い目に本当に
 集中しちゃったら
 本来の意味と違うくない?!」

と思わずツッコミ入れたが、
「でも、ありがとう」と言うと、
彼は満足そうに笑みを浮かべた。

使い込まれて傷もついているけど、
丁寧に磨かれたそのボールは、
お守りのように受験が終わるまで
私のカバンの中に入っていた。

その後ボールは
どこかへいってしまったが、
補講中に貰ったメモは、
手帳に貼ってあったおかげで
今も私の手元に残っている。

私にとっての手帳は、
ただスケジュール管理をするだけでなく
大切な思い出の一部でもある。

来年は、どんな手帳で、
どんな思い出を書き留めようか。

私は本を買いにきたことを忘れて、
じっくり手帳を選び始めた。

うちの犬」を紹介していただきました。
そんなつもりはなかったのですが
「泣いた」と共感してくださる感想が多く、
書いてよかったと思いました。

今日も最後まで読んでくれて
ありがとうございます!

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