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【東京物語01】佐谷倫弘の第二志望【ショートショート】

東京に行けばなにかが変わる、そう信じていた。

名古屋の片田舎から法政に進み、就活で滑り込んだ損保。勤務地は相模原。
本当は早稲田に行きたかった。本当は電通に行きたかった。本当は東京で働きたかった。
初任地は東京を希望したけれど、八戸だった。スタッドレスタイヤで青森を駆け回り、小汚い代理店の営業マンに頭を下げ続け、数字という形で結果を出し、相模原に来た。
東京に異動希望を出していたが、それは叶わなかった。
人生はいつも希望通りにいかない。僕が歩きたかった道を横目に見ながら、今日も生きていく。

街コンで知り合った保育士と、渋谷のリゴレットに行った。
恵比寿の本社で働く同期に教えてもらった店だった。巨大なワインセラーが店の中央に鎮座する、洒落た造りのスパニッシュイタリアンだ。
スウェード張りのソファに座る彼女は、あざみ野に住んでいた。
相模原に住む僕と、あざみ野に住む彼女が、わざわざ渋谷の小洒落た店で中身のない会話をする姿は、はたから見たら滑稽なのかもしれない。
なんら共通項のない二人の、うわべだけの会話。5分前になにを話していたのかすら覚えていない。
けれど僕にとっては、これが精いっぱいの"東京"なのだ。

今ではもう遠い記憶だけれど、成人式の日、大雪が降っていたのを覚えている。
河村市長の長ったらしい演説を聞いた後、高校時代に仲の良かったメンツで栄に繰り出した。寒さに震えながら駆け込んだラシック近くの居酒屋で、同級生たちに東京の素晴らしさを説いていた。
八王子のキャンパスから一時間もかかる、片手で数えるほどしか行ったことのない渋谷や新宿を、さも通い詰めているかのように語った。
「服はいつも原宿シカゴで買うんだ」と、法政二高出身の同期に教えてもらった店を自慢した。そんな店、1回しか行っていない。
けれど、そんなことはどうでもいい。
こんなダサい街でくすぶっているお前たちとは違うんだ、僕はそう言いたかった。
そいつらとは、もう何年も会っていない。

学生時代、1年ほど付き合っていたサークルの後輩とは、僕が八戸勤務になってから自然消滅した。
八戸では仕事と接待に忙殺されていたし、出会いもなかった。
けれど、結局、相模原で働くようになっても、たいした出会いはなかった。
八戸にいた4年間で大学時代の友人とは完全に切れていたし、会社の同期も全国に散っていた。
Facebookを見ると、原宿シカゴを教えてくれた大学の同期が結婚していた。とりあえず"いいね!"を押した。
新卒でオリコムに入った彼は、いつのまにか家業のバス会社の取締役に収まっていた。

もう僕には、帰る場所がない。
名古屋にも、東京にも、相模原にも。
ただ、家と会社を往復する日々が続いていく。


この漫画はフィクションです。
実在の人物や団体などとは関係ありません。

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