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戦略人事:部分最適では戦略は成り立たない(新卒一括採用の見直しについて)

■単一化している「採用戦略」

どのような企業であっても、「人材の調達」は経営課題になっている。それは、結局のところ、経済活動は人が起点になるからだ。高度な機械やIT、AIが普及しても、それを使いこなす人がいなければ価値を生み出すことはできない。ChatGTPに対して適切な質問を作れるPrompterという仕事も新たに生み出されたものになるかもしれない。

したがって、「採用戦略」は企業にとっても重要な戦略になるはずである。しかし、私が理解する限り、単独の施策の集まりになっており、戦略とは云えない状況のようである。それは、群盲象をなでるがごとく、部分の最適化を図っても全体最適にはならないことを示している.それは戦略ではない。

■先行する「ジョブ型雇用」という言葉

採用計画を考えると言うことは
・今後の事業推進のためにどのような人々が必要であるのか
・そうした人々を内製化するのかアウトソースするのか
・内製化するとして、どの程度の過不足があるのか
が前提となり、人事制度全体に影響が及ぶ。

しかし、耳障りの良い言葉に踊らされて中身のない施策になっていないか懸念される。
たとえば「ジョブ型雇用」という言葉が昨年度人事関係の記事を賑わした。
優秀な人材確保の為に「ジョブ型」という概念を採用するという文脈であるが、いままでの「職能資格制度」を焼き直しただけでは今までと何も変わることはなく、「革袋を変えたからと言って中身のワインがおいしくなるわけではない」を体現することになる。

当然、ジョブ型雇用であれば、まずは仕事ありきであるのだから、雇用の方法も「可能性」と言う曖昧・無計画なものではなく、文字通り事業計画と対となった採用計画が必要なのだがどうなのだろう。自社の状況が下記の批判に当たらないか見直す必要がある。

○最近よく聞く「通年採用」「ジョブ型雇用」は、就活の選択肢としてアリか?
2023.4.10

 経営学者や経済学者などの論考では、ジョブ型への移行を推奨するケースを多く目にします。とはいえ、こうした新しい制度が定着するには時間がかかるものです。もし、日本企業が本気でジョブ型雇用にシフトするつもりなら、本来的には人事に関わる制度全てを変えて整備しなければならないからです。それは、働き方、採用方法、社内制度、人事制度、評価制度など多岐に渡ります。

 しかし報道などで見る限りでは、採用のときだけ「“とりあえず”ジョブ型雇用」を導入している企業も見受けられます。たとえば、DX推進が企業の重要な経営課題となる中で、不足するIT人材を獲得したいという目先の目的でジョブ型を謳うようなケースです。これは、本末転倒な施策と言えます。

https://diamond.jp/articles/-/320917

■新卒一括採用にこだわる企業

仮に、事業戦略を中核としたら、それらはきれいに会計年度と進行を一致させるわけではない。あくまでも財務的なことである。したがって、4月からの入社を前提とした「新卒一括採用」は習慣としては理解できるものの、ジョブを優先した調達戦略ではないことは明らかである。

しかし、こうした慣習に安穏としている企業は多い。そして「まずは配属してから様子を見る」という事なかれ主義にとりつかれているのではないのだろうか。まだ社会人の経験がない彼らに適性などは分かるはずもなく、大学や学部での期待から決めているに過ぎない。

○新卒採用でも強まる”ジョブ型雇用” 配属先はいつ決まる?
2023年05月15日

 人材サービス事業を展開するヒューマネージ(東京都千代田区)は、新卒採用における職種別採用に関する調査を実施した。新卒採用で職種別採用を実施する企業は60.6%で、そのうち、39.3%が「全て職種別採用で採用する」と回答した。

職種別採用ではない対象者の配属職種をいつ決定するか聞いてみると、「選考中から内々定時」(文系職種:35.9%、理系職種:37.2%)が最多となった。「内々定後から内定式の間」「内定式後から入社まで」を加えると、半数以上の企業が文系職種・理系職種を問わず、入社前に配属職種を決定することが見てとれる。

https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2305/15/news138.html

なぜこんなことがいつまでも続くかと言えば、人事に戦略がなく、したがって評価指標がないからである。採用が成功したかどうかは、単年度指標では分からない。したがって、戦略の時間軸が長くなる。

こうした視点がないので「新卒一括採用」から抜け出せなくなる。

■採用戦略の多様化のために

事業環境が大きく変わることの多い現代の経済社会では、より早い人材戦略の組み替え、あるいは人材ポートフォリオの組み替えが必要である。

正社員/アウトソース、未経験者/経験者、といった枠組みで考える必要があり、通年採用が常態化することが望ましい。しかし、実体がまだついて行っていない。

○「新卒一括」見直しへ半歩 政府、専門人材の採用柔軟に
2022年11月30日

新卒者をまとめて採用し、幅広い業務をこなせるように育てる日本型の雇用システムが時代にあわなくなってきた。職務の内容を明示し人材を配置するジョブ型雇用を導入する企業も増えた。採用を含めた人事制度の変革を迫られている。

経団連は多様な人材の獲得に向け通年採用の拡大を見据える。経験者(既卒者)の通年採用を導入する会員企業は9割超に上り、新卒は3割程度にとどまる。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA300YB0Q2A131C2000000/

人事施策を戦略的に行なうためには、戦略的な活動を長期的なマイルストーンの設定とそれぞれのタイミングでの評価指標を開発しなければならない。単に、4月になったから補充するという姿勢には戦略はない。

<閑話休題>

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