世間に広がる意味不明:欺瞞のESGと言われないようにする配慮はどこに(日本製鉄と電炉と高炉)
■不思議な報道
実は、以下の報道をみて二酸化炭素のツケを海外に移転させただけではないかと危惧したことがある。
○日本製鉄、インドで1兆円超投資 ミタルと高炉2基新設
2022年9月28日
日本製鉄は28日、欧州アルセロール・ミタルとのインドの合弁会社を通じ、現地で高炉2基を新設すると発表した。2025年以降に順次稼働させる。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC284SD0Y2A920C2000000/
真実はともかく、カーボンニュートラルという視点で立てば電炉は高炉より優れていると言われ、電炉への転換が進んでいると匂わせる記事もある。
○日本製鉄、高炉から電炉への転換に向けた本格検討を開始
2023年5月10日
日本製鉄は10日、高炉から電炉への転換に向けて本格的な検討を開始したと発表した。候補地は九州製鉄所八幡地区と瀬戸内製鉄所広畑地区としている。同社は広畑地区に新設した電炉による商業運転を2022年10月に始めている。
製鉄業界では二酸化炭素(CO2)の排出量が少ない電炉への転換が加速しており、JFEホールディングス傘下のJFEスチールも8日、2025年下期を目途に千葉地区でのアーク式電気炉を導入すると発表している。
https://jp.reuters.com/article/nippon-steel-idJPKBN2X10CW
しかし、ことはそう簡単ではないようだ。
○環境に優しいのは高炉?電炉? 鉄鋼業界、CO2算出巡り苦悩
2013年11月19日
世界の産業界で、温暖化ガスの大きな排出源になっている製鉄業。欧州などで製品の環境負荷を明示する動きが加速しており、地球温暖化対策が脱・鋼材の引き金になることを強く警戒している。そうした中、日本鉄鋼連盟が鋼材の環境評価を巡り新たな提案をした。製造時に宿命的に大量の温暖化ガスを放出する高炉材が、電炉材やその他の素材と比べて不利にならないようにする狙いだ。
https://www.nikkei.com/article/DGXNASDD150ID_V11C13A1000000/
■カーボンニュートラル戦略
日本製鉄の中期経営計画の中で気候変動問題に対応する旨を表明し、「カーボンニュートラルビジョン2050」が公表されている。
○「カーボンニュートラルビジョン2050」
2021年3月30日
https://www.nipponsteel.com/ir/library/pdf/20210330_ZC.pdf
詳細は省略するが、
2030年ターゲット
現行の高炉・転炉プロセスでのCOURSE50の実機化、既存プロセスの低CO2化、効率生産体制構築等によって、対2013年比▽30%のCO2排出削減を実現
2050年ビジョン
大型電炉での高級鋼の量産製造、水素還元製鉄(Super COURSE50による高炉水素還元、100%水素直接還元)にチャレンジし、CCUS等によるカーボンオフセット対策なども含めた複線的なアプローチでカーボンニュートラルを目指す
としている。
高炉にしても電炉にしても技術革新を行ない、それぞれの炉の特性を生かした製品作りに進まざるを得ないと言うことなのだろう。
■SDGsが進まない理由
SDGsは2030年までに持続的な世界を実現するためのゴールと個別のターゲットで構成されている。それらを実現するためには、「イノベーション」が必要であり、現在の活動の延長線上にはない。したがって、現状の活動を否定しない国や企業がいくら声を上げようがSDGsが実現されることはない。
企業は、その経営活動で経営資源の再利用と極大化を行なう。その評価指標の多くは売上などの利益であり、これを損なうことを嫌う。その結果何が起こるか?単純なことである。危険を冒さないことだ。今利益を生み出している高炉を手放すこともしないし、鉄鋼に変わるものを開発する気もない。
欺瞞なのではない。かれらは最初からSDGsを解決する気などはない。プライム市場の要請があるのでその要請を満たしているだけである。
彼らの活動を否定する気はないが、自己否定しない彼らには欺瞞以前の言葉が担う。つまり「無責任」だ。
<閑話休題>
(その他の参考記事)
○鉄鋼戦線異状あり 大手2社が〝シンボル〟高炉の火を落とす日
2023/5/19
鉄鋼業界は国内産業部門のうち4割の二酸化炭素(CO2)を排出している。両社は2030(令和12)年に13(平成25)年比でCO2排出量の30%削減を掲げる。電炉はCO2排出量が高炉の4分の1程度とされる。だから目標達成のため、電炉に転換しようというのだ。
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