愛しの王に捧げる。

ごめんなさい、無茶振りされたので、
ショートショートを書きます。

noteマルシェの振り返りは、改めて。

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ショートショート
『土下座の王さま』

『なっちゃん！俺の通帳がない！！』

毎週土曜日の朝10時、
普通であれば心配するようなLINEが来る。

先週はキャッシュカードを折り曲げた、
先々週はキャッシュカードを悪用された、
先先々週は、通帳を失くした、
その前は、通帳を切り裂いた。

「またかよ……」と呟きながら、
いつもと同じように返信する。

『どうしたの？大丈夫？』

私は心配なんてしていない。

『と』と入力すれば、
この文章に自動変換されるように
単語登録してあるのだ。

『お』と打ち込めば
『おはようございます』と出てくるように。

『大丈夫じゃない！！！』
『銀行に行くからついてきてよ！！！』
『俺ひとりで行くの、寂しいよ！！！』

王さまは、世間の常識というものを知らない。

銀行は土日祝日がお休みなのに、
社会人なら知っていることなのに、
あぁ…彼は「王さま」だった。

『わかった、何時に迎えに来るの？』

『あと5分で着くよ！！！』

知っている。

彼は、いつも10時にLINEをしてきて、
10分後には家のチャイムを鳴らすのだ。

『わかった、待ってるね』

あらかじめ用意しておいた
着替えや化粧品を詰め込んだバックを持って、
鏡をチェックする。

かまってちゃんのくせに、
「デートに行こう！」とは言えない、
ヘタレな王さまの恋人になって
何年経つだろうか。

何度も別れようとした。

こんな面倒くさい男と付き合っていられないと
航空公園で怒鳴りつけたこともある。

その度に、彼は大泣きして
「別れたくないよぅー！ゔー！」と騒ぎ立てる。

こちらが悪者のような気がしてきて、
結局 別れずにズルズルと…腐れ縁だ。

ピンポーン♬︎

チャイムが鳴った。

ガチャッ

『よぉ、なちこぉぉぉ！！！！』

通帳を失くしたばかりとは思えない、
弾けるような笑顔の王さまが立っている。

『……今度は通帳を失くしたの？』

冷めた目で彼を見上げると、
王さまは !!!( ﾟдﾟ)ﾊｯ!!!! として慌て始める。

『いや、ごめんな！俺の勘違いだった！』
『車の下に落ちててさあ』
『車の下に何かあるから覗いたんだよ』
『たまたまだよ？たまたま覗いたんだよ？』

めんどくせぇ、こいつ、マジでめんどくせぇ。

でも、そんなことを言うと、
『なちこぉぉぉ！』
『なんでそんなこと言うんだよぉぉぉ！』と
玄関先で騒ぎ始めるので、グッとこらえる。

『そっか、そっか、良かったね。』

私は女神のような温かい笑顔を向ける。

彼はウソがバレずに済んだと勘違いしたようで
『せっかくだから遊びに行こうか！』と
目をキラキラさせている。

めんどくせぇ、こいつ、マジでめんどくせぇ。

車に乗り込もうとすると
助手席に某テーマパークのパンフレットが
10冊ほど積んであった。

よくも、こんなに集めてきましたね…？

『なんかさ、気分的にユ○バかなって！』

さっきまで銀行に行こうと言っていたのに、
たった数分で用意できるものじゃないだろう。

『たかつきが彼女とユ○バ行ったじゃん？
   なっちゃん、行きたいって言ってたからさ！』

たしかに、
昨日の夜 たかつき君とコンビニで会った。

その時に、私もユ○バに行きたいと行った。

私は、たかつき君に言った。

なんで、王さまがそれを知っている？

きっと、私がたかつき君に会ったと言ったから、
彼に電話をして問い詰めたんだろう。

『なっちゃんと何を話してたの』と。

…お巡りさん、ここにストーカーがいます。

昨日の今日で、
ユ○バのチケットやホテルを手配して、
何事もなく迎えに来る彼の行動力には
感動を超えた気持ち悪さを感じてしまう。

いつもの土曜日、
いつもの時間、
いつもの助手席に座り、
いつも用意されているお茶を飲みながら、
王さまに聞いてみる。

『土下座さん、今日も楽しそうだね？』

彼は、運転中にも関わらず、
私の方を向いて笑顔で答える。

『うん！！！超楽しい！！！！』

まあ、まあ、いいだろう。

いつもうるさい、かまってちゃんの王さま。

お得意の人たらしで、
たくさんの人に愛される王さま。

そんな王さまを独り占めできる私は、
実は世界でいちばん偉いのかもしれない。

以上。

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土下座さん、これでいかがでしょうか？

なちこさんはnoteマルシェの振り返りよりも
土下座さんのために記事を書きました。

たかつきさんも添えて。

noteアカウントを持っていない彼に、
リスナーからの愛を込めて、
ショートストーリでした。

じゃあな！！！！

なちこ