【あのこは貴族】

わたしの階層からは、東京タワーを見上げている。
首が痛くなるくらい見上げた空にある赤いそれは、いつだって飄々としていて。

【あらすじ】
同じ空の下、私たちは違う階層(セカイ)を生きているー。
東京に生まれ、箱入り娘として何不自由なく成長し、「結婚=幸せ」と信じて疑わない華子。20代後半になり、結婚を考えていた恋人に振られ、初めて人生の岐路に立たされる。あらゆる手立てを使い、お相手探しに奔走した結果、ハンサムで良家の生まれである弁護士・幸一郎と出会う。幸一郎との結婚が決まり、順調満帆に思えたのだが…。
一方、東京で働く美紀は富山生まれ。猛勉強の末に名門大学に入学し上京したが、学費が続かず、夜の世界で働くも中退。仕事にやりがいを感じているわけでもなく、都会にしがみつく意味を見出せずにいた。幸一郎との大学の同期生であったことで、同じ東京で暮らしながら、別世界に生きる華子と出会うことになる。2人の人生が交差した時、それぞれに思いよらない世界が拓けていくー。


この映画はとても魅力的な女の子と一緒に観た。
渋谷のミニシアターで、ゆるりと観に行く日程を決めて、カフェラテを片手に観た。
始まって早々、背筋が伸びた。
軽く足首で組んでいた足を直して、膝をしっかりとくっつけ、もたれていた背もしっかりと伸ばして、軽く深呼吸をして整える。
なんだかとても、『適当』には観ることができなかったのだ。

あまり、男女についての違いを話すのは好きではないけれど、とても、なんというか、「女性」による、「女性」が描いた、「女性」のお話だったと想う。
世の中の、恐らく大半の女性が向き合うような、ぐっと身につまされるような要素がぎゅっと煮込まれていて、
それぞれの生まれ、見た目、考え方、価値観、それはふたりがそれぞれ身に着ける服のひとつにまで可視化された、ある種とても醜い気持ちが沸き起こる、とても美しい映画だった。


華子はいわゆる「カースト」の高い人間だった。
スクールカースト、とかそういう、人としての人気ではなく、単純に生まれや育ちが高い人間だった。
それ故の息苦しさや、身動きのとれなさ、それ以外の世界への乖離、そういったものになんの疑問を持たず…とはいえ途中から、どこかチグハグさを感じながら、彼女はそれでも芯をもって、自分が望む幸せについて考えている。
その考えが、自分が本当に望むものではなく、外的要因について刷り込みされた幸せであるにも関わらず、だ。

華子というお嬢様育ちのおしとやかな、一見恵まれている女性と、美紀という、田舎出身、東京に出てきてもがきながら生きて、最終的には大学を中退して東京でなんとなくの日々を過ごす、両極端な二人が出会うお話。
ふたりは同じ男性に好意を寄せ、勝ち取ったのは何もかもを手にしている、と言えるような華子で、
「幸せ」であるはずだったのに、どんどん足枷が重くなる華子に代わって、颯爽と街を駆け抜ける美紀。
その対象さはタクシーの中から眺める世界と、自転車を二人乗りして駆け抜ける世界で、まったく色が違って見える。
「こちらの世界」と「あちらの世界」を、道路を挟んだ先、笑いあって二人乗りする少女達と自分に分ける表現、だったり、とか。
胸がきゅうと音を立てて締め付けられた。
 
自分で言うのも変な話だけれど、私は生まれや境遇は美紀で、若干の華子のニュアンスを含んでいると想う。
田舎で自由に育てられた反面、規律や、四季の変わり目のイベントや、礼儀や習い事を学ばされてきた。
だからどちらの気持ちも、世界も、覗けば覗くほど「私はこれを知っている」という気持ちになる。
それでもやっぱりどこかで「華子」にはなれない自分を感じるので、たぶん私は美紀に近いんだろうと想う。
多分この映画を見た人も、華子と美紀のどちらかの中に自分を見つけると想う、それは性別関係なく。
見つけてしまうからこそ、階層が分かれているという現実を、改めて見せつ けられている気になる。

…と、自分をどちらかの女性に当てはめてはみるものの、生まれや、結婚や恋人に求めるものの価値観、お金や仕事の価値観…広くいってしまえば年齢や性格も含めて、誰一人として同じ人間はいない。
私だって田舎町から出てきて、東京のビルを見上げながら「私には遠いな」と涙ぐんだけど、いまは結局、割と、それこそ地に足をつけて、東京の街を闊歩している。
でも中身は何も変わらない田舎者で、そういう人間が、きっと東京にはうじゃうじゃいるんだろう。
自分の生まれや境遇、そういったものはどうしたって自分を形成するエッセンスやレッテルになったりもするけれど、結局は自分の息のしやすい場所は変わっていくんだと想う。
求めるしあわせのかたちも、華子の身に着ける服が最初はフォーマルだったのが、どんどんカジュアルになっていくのも、見ていてとても共感できるし、その気持ちを汲み取りたくて、華子にも美紀にも手を伸ばして抱き締めたくなる映画だった。
 
タクシーの中から眺める東京の夜、キラキラと光る世界が揺れるのも、髪の毛を揺らして、風を感じながら走り出す世界も、すべて感じていたい。
景色が移り変わるように、季節が移り変わるように、心の赴くままに自分のしあわせな、息のできる場所を探していたい。
そういうものをあらためて、優しく手渡ししてくれる映画でした。

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