多様性の科学〜多様性は何で必要なのかわかる本

女性の管理職を増やす、人種やバックグラウンドの多様な組織を作る。多様性の話題は盛り上がっている。
では、なぜ多様性が必要なのだろう。
本書はその問いに答えるのにすーっと腑に落ちる視点をくれる。

冒頭からはっとさせられる

"我々はみな、自分自身のものの見方や考え方には無自覚だ。誰でも一定の枠組みで物事をとらえているが、その枠組みは自分には見えない。結果、違う視点で物事をとらえている人から学べることがたくさんあるのに、それに気づかずに日々をすごしてしまう"

同じ水槽を見ても、アメリカ人は泳いでいる魚を詳しく描写するし、日本人は水槽のレイアウトなどの背景を詳しく描写する。
つまり、同じものを見ていても視点が違うのである。多様でない組織とはこの視点が偏ってしまうことを言う。

また多様性は意識しないと抜け落ちてしまう。みんな一生懸命考えており、善意の失敗は非常に多いのである。

これは人間の性質である。人は同じような考え方をする仲間と一緒にいると、自分の意見を否定されず、みんなで一致団結でき、有能である気がする。そのような環境は、安心するため、意識しないと同じ考え方を持った組織となってしまう。

心理的安全と信頼の関係+多様性

中高年男性ばかりの組織で、若者や女性にとってはありえない意思決定が行われるのは、あえてそうしているのではなく、若者や女性が持っているような視点が欠落しているのである。
これは能力関係なく、どの視点でものを見ているかという人間の特性である。

なので、まずは問題の枠組みを捉え、その枠組で自分たちがカバーできていない点はどこなのか、無意識に視点が偏っていないかという検証が重要である。

以下、多様性についての留意点。
多様性と言っても、ただ闇雲に多様な人材を入れればよい、というわけではないし、多様性について

1. 多様性であればいいわけではない
ポイントは3つ。能力とバックグラウンドと目的。

(能力)
ある問題に直面した時に、その問題解決のための知識を持ち合わせないメンバーで構成されてしまっていると、全員の視点がどれほど多様であっても問題の解決に貢献できない。
(バックグラウンド)
同じ教授のもとで同じ考え方で実験してきた学生は、例え人種・性別が違ったとしても、ある事象に関して多様性が担保できない
(目的)
同じ目的を達成するというモチベーションがない限り、異なる意見や視点の合意は望めない。結果として、場が荒れて、結論が出ないまま失敗してしまうことも起こり得る。
参加者全員がミッション・ビジョン・バリューに共感できていることがとっても大事である。

2. イノベーションが起きるのは、色々な人と交わる環境
なぜシリコンバレーは成功し、(ボストンの)ルート128はうまくいかなかったのか、を本書で分析している。
イノベーション=新しいことを生み出すには、様々な人と交わる必要がある。シリコンバレーでは、人々は会社の垣根を越えて、レストランに集まり様々な意見交換をしており、ルート128では秘密保持のために会社を超えた付き合いはほとんどなかった。
つまり、能力(天才であること)よりも社交的で色んな人と交わることが物事をうまくいかせるために重要であった。
スティーブ・ジョブスもピクサーを作った際にトイレを真ん中のみに置き、強制的に他のスタジオの人たちが交流できるような仕組みを作った。

コロナで集まりづらい世の中になっている中で、この社交的で色んな人と交わるという点ができない。今後もリモートで仕事をし続けることで世の中にイノベーションを起こしづらくなるのかもしれないな、とも思う。
何か別の形で集まりを起こす必要があるのかもしれない。

3. リーダーは心理的安全性を作らないといけない
ヒエラルキーが高いことで、プロジェクトが失敗する確率が高まる。言わずもがなだが、HiPPO(High Paid Person's Opinion)→もっとも高給の偉い人の存在が組織に及ぼす影響は非常に大きい。
心理的安全性に関する書評でも似たようなことを述べたが、支配的なリーダーがいると、みんなはそのリーダーが聞きたいことを言うようになり、多様なバックグラウンドが全く活かせない結果になる。

心理的安全と信頼の関係+多様性 (1)

リーダーは支配するのではなく、メンバーの尊敬を獲得することが重要。

4. 組織内の多様性は時とともに失われていく
いかに多様な組織であっても、時とともにその多様性は失われていく。
なぜならば、その組織ごとに文化があり、長くその組織で過ごすことでその文化に沿ったものの見方で考えてしまうようになる。
定期的に多様性が乏しくなっていくという前提で組織設計をするのも、(とっても大変だが)よいなと思う。
それか、多様性が乏しくならないような組織文化を設計するか。それって、どんな文化だろう。毎年1ヶ月気持ちをリセットするためにどこか別のところに行く?新しいメンバーを常に入れ続ける?
難しい問題。

最後に本書で紹介されていたイギリス人起業家キャサリン・ワインズの言葉。この言葉があらゆる組織に多様性がいかに必要かを示していると思う。

"問題の本質を見抜くには、当事者にとって当たり前になっている物事を第三者の視点で見つめ直さなければならない。新たな視点に立って取り組めば、チャンスや可能性が明確に見えてくる"

ここでは紹介していないが、思想の偏りとエコーチェンバーの問題、平均値の嘘・標準化の不都合な真実、そういったものも多様性の視点を持って見つめるのが大事ということがわかり、非常に面白い本であった。

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