心理的安全性の高い組織とは?

「心理的安全性」という言葉が使われ出したのは、Googleが優れたチームに共通する性質をリサーチしたプロジェクトアリストテレスで一気に広まったと思う。
このプロジェクトアリストテレスによって、優れた結果を残すチームにはチームメンバーの仲の良さ、ヒエラルキーの有無、バックグラウンドといった個人の性質は関係なく、一様に「チームがどのように協力できる状態になっているか」が必要であるということが示されている。

なお、プロジェクトアリストテレスでは、心理的安全性に加えて、以下の4つもパフォーマンスの高い組織には必要。
相互信頼  :個々人が自分の仕事に責任を持っている
構造と明確さ:自分のやるべき仕事とそのプロセスが明確である
仕事の意味 :仕事や成果自体に意味を感じている
インパクト :個人の仕事が組織の目標達成に貢献することがわかる

この4つを満たすために、その土台となるものが「心理的安全性」である。

本書はその心理的安全性について、生みの親であるエドモンドソン教授が書いた本となる。

本書では、
- そもそも心理的安全性とは何なのだろう?
- 心理的安全性の高い組織を作るのにどう向き合うべき?
というのが私が学んだテーマ。

1. 心理的安全性 (Psychological Safety)とは?

心理的に安全というのは、結構あいまいです。
例えば、「チームミーティングではあまり発言しないし、上司の言ったことに疑問があっても流して従ってしまうことが多いが、チームの上司を尊敬している状態」は心理的に安全な状態なのだろうか?
本書では、心理的に安全な状態を以下のように示している。

心理的安全性とは、「みんなが気兼ねなく意見を述べることができ、自分らしくいられる文化」のことである。

心理的安全性が高い組織では、「自分が間違っているかもしれない、無知で無能と思われるかもしれない、相手に嫌な思いをさせてしまうかもしれない、といった対人関係リスク」を恐れずに働けることができる。

つまり、心理的安全性とは、自分の考えることをチーム内で率直に話しても大丈夫だと思える、組織の状況であり、個々人間の信頼関係とは切り口が違うのである。心理的安全性が高まるとチームメンバー間で信頼関係が生まれやすくなるが、チームメンバー間の信頼関係があるからといって、心理的安全性が高い組織であるとは限らない。(以下の図)
そして、この心理的安全性の高い組織を作るというのが本書を読むととっても難しいことがわかる。

心理的安全と信頼の関係

2. 心理的安全性を作るのが難しい理由(人間の性質)

そもそも人はリスクを取りたくない生き物であるという前提で物事を考える。つまり、率直に意見を言って上司との関係を悪化させるリスクを取ったり、自分の誤りを認め無能であると思わせるリスクを取ったり、することはしたくないのである。

まさに、「波風を立てず、沈黙は吉」なのである。

そういった意味では、居心地のよいぬるま湯は、心理的安全性の高い組織と違うのだろう。

なので、何もしない場合は必ず心理的安全性が高くない組織が出来上がっていきます。上司がいい奴だろうが、同僚がいい奴だろうが、傷つけないために、面目をつぶして嫌われないために、思っていることを話さないのは至極当たり前になっていく。
その流れを強制的に変えて、積極的に発言をし、率直に意見を言うことを当たり前にするためには、制度化・組織化をする必要がある。

3. 心理的安全性の高い組織作りのポイント

本書ではピクサーやブリッジウォーターアソシエイツなどを取り上げている。Netflixも似ていると感じた。

共通しているのが、以下の3つである。

- 率直なフィードバックを徹底
- 他者の意見を受け入れる
- 賢く失敗し、そこから学ぶこと

個人的な意見だが、Netflixの本を読むと1-3を徹底しすぎることで、逆に心理的安全性を下げないのかなと思った。


でも、それは組織を構成するメンバーがどういう状態であることが心理的安全性を高く保てるかなので、それを含めて組織文化の設計なのだろう。

リーダーの役割
言わずもがなかもしれないが、リーダーがどのように振る舞うか、どのような仕組みを作るかが非常に重要なファクターとなる。

大きくは、3ステップで進めていく。
1. 土台を作る(意味づけ)
2. 参加できる場を作る(きっかけ)
3. 問題にフォーカスする(文化作り)

1. 土台を作る(意味づけ)
なぜ全員が積極的に参加する必要があるのか。
仕事とは失敗する前提という意味づけ、でも目的を達成するために重要なものは何か。
(例)"仕事とは不確実なものが多く、失敗をするのは当たり前になっている。しかし、私たちはxxxx業界の課題を解決するために、高速で学んで進んでいかないといけない。そのためには皆が考えることを率直に話せる場を作っていく必要がある。”
というのが意味づけで、
その意味づけをするためには、全員が同じ情報を見ることができるようにしなくてはいけないなど、やることがでてくる。

2. 参加できる場を作る(きっかけ)
例えば、意見を募るプロセスを作ったり、リーダー自身が完璧ではないことを認め、積極的に質問をしていく状況を作るなど。

3. 問題にフォーカスする(文化作り)
失敗が起きた時に、報告した人に感謝をする。事象ではなく原因にフォーカスするなど。

色んなアプローチは本書で提案されている。

最後に、心理的安全性を保つのはマスト
心理的安全性は一回取り組んだら終わりではない。ビジネス状況の変化や組織の変化によって絶えず変化していくため、定点観測を繰り返し、メンテナンスをする必要がある。

そのためには、会社のメンバーと向き合うこと、心理的安全性を高めることができる仕組みを構築し続けることが不可欠になる。

4. 心理的安全性を高めるだけでは会社は成功しない

言わずもがなであるが、心理的安全性を高めることは必要条件であるものの十分条件ではない。
不確実性に晒されながらも会社が成功するために組織には、多様性も重要だし、能力の高さも重要だし、優秀なマネージャーもいなくてはならない。

でも、いくら多様性(人種やバックグラウンドや性別)を充実させても、優秀な人材を獲得しても、心理的安全性の高い組織でない限り、全員の強みを掛け合わせてエクセレントカンパニーを作れない。

つまり、「誰をバスに乗せるか」の前に「どんなバスにするべきなのか」が本書で伝えていることなのだろう。

2022年8月30日追記(馴れ合いの組織との違い)
心理的安全性の高い組織を目指すと馴れ合いが生じる恐れがある。と考えさせられることがあった。
しかし、本書においては、馴れ合いと心理的安全性の高い状態は別物としている。
その違いは、目標水準が高いか低いか、の違いである。
馴れ合いの状態とは、組織の目標水準が低く、お互いが相手を傷つけないように感じよく振る舞っている状況で生まれる。
一方、心理的安全性が高い状態とは、組織の目標水準が高く、お互いが相手を信じ、率直にフィードバックをすることでお互いに高め合える状況で生まれる。
ぱっと考えると混乱するが、馴れ合いと心理的安全性が高いのでは組織の状態が全く違うのである。

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