見出し画像

2020年ジャイアンツのシーズン総括と日本シリーズの戦い方

10月30日、ヤクルトに引き分けながら2位阪神タイガースに8.5ゲームの差をつけて2年連続のセ・リーグ優勝を決めたジャイアンツ。


シーズン序盤はコンタクト力が向上し逆方向への長打力も備わった岡本が打線を引っ張り、投手陣に関しては狙っても打てないスライダーと試合終盤でもパワーが衰えないストレートを操る菅野、そして成長著しい高卒2年目の戸郷を中心にスタートダッシュに成功。

中盤は一時停滞し、7月には投手力を中心に好調だったヤクルトに首位を明け渡し、また再び首位をキープしていた8月には2位DeNAに一時期ゲーム差2.5まで詰められる場面もあったが、9月1日からの13連戦で10勝1敗1分(1試合雨天中止)、続く9月15日からの9連戦で6勝3敗と息を吹き返し、独走状態に。72試合目でマジック38を点灯し、2位以下がそれぞれ星のつぶし合いをしていることもあり、そのまま順調に(10月はもたついたが)マジックを減らし、結局は首位争いをすることなくセ・リーグ連覇を達成した。


今回は、今シーズンの戦い方を振り返り、日本シリーズでの注目点について考えてみたい。


レギュラーシーズン総括

ここまで岡本が10月30日時点でホームラン数29、打点84とそれぞれタイトル争いをリードし、菅野は13勝でハーラーダービートップに立ち、増田も代走での出場がメインであるものの盗塁数22でリーグ2位。ただし、序盤は坂本、丸が打率.200前後で不振が長引き、終盤は岡本から、なかなか長打が出ず、昨年打線を引っ張った主軸が必ずしも本調子ではなかった。また、投手陣に関しても開幕から1年間ローテーションを守ったのは菅野、戸郷のみであり、こちらも盤石ではなかった。

そんな中、結果的に今年のシーズンを独走できた要因は吉川、松原、大城といった若手野手がレギュラーとして成長し、また中川を中心に、トレードで獲得した高梨、鍵谷やサイドスローに変更した大江といった充実したリリーフ陣の活躍、そして原監督の采配によるところが大きい。


特に今年の原監督の采配については、以前から注目しており、以下にもまとめてある。

今年に関してはベンチワークで勝てた、もしくは負けなかったという試合が多かったと考えている。その中でも特に印象に残った4つの采配を振り返りたい。

8月12日 ヤクルト戦(東京ドーム)

この日の試合前、坂本は18打席連続無安打の打率.226、丸は23打席連続無安打の打率.224と低迷し、2019年からそれぞれ2、3番に固定していた2人の並びを”解体”し、坂本を1番、丸を2番で起用した。

結果的に狙いは的中し、坂本は2HR、丸は猛打賞とあっさりと本来あるべきパフォーマンスを発揮したのである。

その後、坂本、丸ともに復調し、坂本は9月に3打席連続HRを放つ試合もあるなど2000本安打達成に向けて順調にヒットを積み重ね、丸はHR数リーグ2位タイと昨年のように中盤以降のジャイアンツの打線を引っ張っており、そのきっかけとなる采配だったと言える。


8月13日 ヤクルト戦(東京ドーム)

以前の記事でも述べたが、今シーズンは中川、増田、亀井の使い方が抜群に上手く、それがまさしく機能したのがこの試合である。

初回に先発メルセデスがヤクルトに3点を先制されるも、丸、中島のソロ、岡本のタイムリーで3−3の同点とした9回オモテ、対するヤクルトの打順はクリーンアップ。

そこで中川が青木、村上、西浦を三者凡退し、流れをジャイアンツに引き寄せる。

そのウラ、ヒットを打った中島に変わり、代走増田。相手バッテリーに警戒される中でも盗塁を決め、最終的には代打亀井が初球をセンター前に弾いてサヨナラ勝ち。

まさしく、それぞれの選手が最適なタイミングで投入され、期待される仕事を果たしたことによって掴んだ勝利であった。


9月7日 阪神戦(甲子園)

甲子園での阪神戦、3点リードの7回。この回からリリーフした大竹は1アウトを取るもランナー1、3塁で一発が出れば同点という場面であり、対するは左の長距離砲・ボーア。

ここで大竹がライトポールギリギリの特大ファウルを打たれ、ヒヤリとした瞬間に、左のサイドスロー大江にチェンジ。この決断が非常に早く、一発を浴びる気配が何かしらあったらいつでも変えられるようブルペンを準備していたと考えられる継投であった。

結局ボーアにはサードに内野安打を打たれるも、その後の打者を抑えてこの試合はこのまま逃げ切りに成功した。


9月10日 ドラゴンズ戦(ナゴヤドーム)

この試合、ドラゴンズの先発は福谷。

福谷を終盤まで攻略できず、0−1のビハインドで迎えた7回、1アウト後に亀井がヒットで出塁。ここで代走は増田ではなく、吉川大。7回で勝負を急がず、まだ終盤にもうひと山あると見越していたのである。結局、この回に点を取ることができなかったものの、続く8回に丸が内野安打で出塁後、満を持して増田を代走起用。相手投手は盗塁を最大限警戒する中で、バッター・ウィーラーは初球のストレートを狙い撃ちしチャンスを広げ、その後、吉川尚のタイムリーで逆転に成功。

次の回に中川での逃げ切りができず、引き分けに終わったものの、終盤でのベンチワークの上手さが凝縮された試合であった。


さて、今年のレギュラーシーズンでは敵がいなく、試合終盤では主力を積極的にベンチに下げたり、インターンシップのように阿部二軍監督を一軍に呼んだり、シーズン中は火曜日の登板を続けていたエース菅野を日本シリーズの開幕に合わせて中10日を開けて土曜日の登板に変更したりするなど、日本シリーズや来季以降も見越した戦いもしていた。

一方で10月は30日現在で9勝14敗3分と夏場の粘り強さがなく、連敗や大量失点をする試合が多く、特に現在5連敗中。30日に優勝を決めたものの8回に追いつかれ結局引き分けで優勝が決まった。日本シリーズについては不安が残るのが現状である。

次は、日本シリーズでの戦い方、注目すべき点を考えたい。


日本シリーズの戦い方:ディフェンス

今シーズンは菅野が13勝、戸郷が8勝と先発陣を引っ張ったが、あとに続く先発陣については常に安定して試合を作ったわけではなく、豊富な中継ぎ陣でなんとか試合を作り、逃げ切るというパターンが多かった。

日本シリーズは7戦まで行うことを想定すると、菅野、戸郷にはそれぞれ2先発ずつを想定していると考えられるが、菅野に関しては終盤スライダーの制球に苦しみ、相手バッター見極められ痛打を許す場面が多く、戸郷に関しても疲れが溜まっているようである。

また、菅野、戸郷以外の残りの3試合を今村、サンチェス、高橋、畠といった投手に託すことになる。しかし、彼らに関しては日本シリーズのような短期決戦、更に相手がソフトバンク・ホークスの可能性があるとなると1、2回で交代し、試合中盤までのゲームメイクができない可能性も大いにある。

このような状況において、フル回転を期待したいのは田口である。

高梨、鍵谷は勝ちパターンやピンチで投入するとして、田口は先発経験があることからロングリリーフも可能であり、また、短いイニングではパワーのあるストレートとスライダーで押すこともできる。

また、クローザー・デラロサに安定感がないことも懸念である。ここまで6HP、16Sであるものの、29.2イニングで21四死球と安定感に欠け、また、奪三振率も7.89とクローザーとしては物足りず、試合を締められずに交代する場面も目立っている。現状のままではデラロサの後ろに投手は残して置きたいところだが、それで試合終盤の適切なタイミングで適切な投手交代ができなければ本末転倒である。大竹が2軍で実戦復帰との報道があったが、彼と中川の復帰ができるかがポイントになるだろう。

投手陣ついては菅野、戸郷が登板試合それぞれで最低限試合を作ることが前提である。その上で、残りの試合をどのようにやりくりするのか注目である。


今年、ワールドチャンピオンになったドジャースはカーショウ、ビューラーを中心に、他の試合はゴンソリン、メイ、ウリアスを先発させるも短いイニングで交代させ、リリーフでつないでいった。特にウリアスについては先発だけではなく、安定感を欠くジャンセンに代わり、WS第6戦にはクローザーも務めた。

先発3番手以降の試合の柔軟な投手起用は参考にできるものがあり、原監督、ピッチングコーチ陣の手腕にかかっている。


一方、大きく注目されてはいないが今年のジャイアンツは守備が安定しており、失策数はリーグ1位の37個である(阪神はその2倍以上の80個)。特にショート・坂本、セカンド・吉川の二遊間の守備力が高く、二人でなければアウトにできなかったプレーも数多くあった。サード・岡本も非常に安定感があり、サード特有の強いあたりも難なくさばくことができている。

また、ジャイアンツの守備で特徴的なのがウィーラー、若林、田中俊太、増田といった複数のポジションを守れる選手が多く、柔軟な選手起用ができることである。ここは大きな強みであり、特に投手が打席に立つセ・リーグホームゲームの試合での守備も含めた選手交代の上手さは相手チームと差をつけられるところである。


日本シリーズの戦い方:オフェンス

前述したとおり、10月のチーム不振の原因のひとつに得点力の低下がある。

得点力低下の要因として考えているのが岡本の不振、亀井の離脱である。


今年の岡本はシーズン序盤は怪物級のバッターであった。ボールに逆らわず逆方向にも長打を打て、6月、7月は34試合で13HR。しかし、得意の8月は打率.218と調子を落とし、9月は一時復調したものの、10月は再び打率.263。特に打球がなかなか上がらず、変化球にもあっさりと空振り、ストレートには差し込まれる場面が目立つ。一時期はHRキングを独走していたが、阪神・大山やヤクルト・村上、そしてチームメイトの丸にHR数は1本差まで近づかれている。

ここ3試合で2HRを打つなど復調の気配があるのは幸いだが、まだシーズン序盤の右方向への長打は戻っていないままである。去年のクライマックスシリーズのように終盤の不調を帳消しするような活躍をするのか、もしくは現在の調子が続くのか。もし、日本シリーズの1,2戦でのパフォーマンス次第では、どこまで4番として我慢し続けるか判断を求められる可能性がある。

その際には本来の調子を戻してきた丸を4番に上げ、坂本とつなげなおし、相手に合わせてウィーラー、中島、大城をその後ろに置くなど、日本シリーズのような短期決戦では柔軟な対応が必要になる。


打線不振のもうひとつの要因は亀井の離脱である。昨年のようにレギュラーとしての役割ではないものの、相手に合わせて3番での先発起用、また終盤の貴重な左の代打としての貴重な存在であったが、9月21日の広島戦で本塁を狙ったスライディングで左脚を負傷。そのまま登録抹消され、まだ実戦復帰ができていないままである。

原監督の采配の紹介でも触れたが、亀井の存在は終盤のジャイアンツの選手起用に多くの選択肢をもたせることができ、また、相手にもプレッシャーを与える事ができた。

幸い、亀井の離脱で出てきたチャンスを若林、田中俊といった選手がものにし、しっかりと結果を出し、長打を打つ機会も増えている。亀井が戻ってくることが最も待ち望まれるが、彼ら2人がいかに亀井の代役を務められるかがオフェンスの鍵となる。



パ・リーグは終盤の戦いから、おそらく相手はソフトバンク・ホークスと考えられる。

昨年はあっさりと力の差を見せられ、走塁ミス、守備のミスが続き、普段どおりの戦いができず4タテを食らった。あの経験から、今年はどのような戦いを日本シリーズでみせてくれるのか、個々の選手だけではなく、ベンチワークも含めて注目点は多くある。

この記事が参加している募集

スポーツ観戦記

free