見出し画像

映画字幕の人生を過ごされた太田直子さんを知っていますか?<字幕屋のニホンゴ渡世奮闘記>

字幕屋のニホンゴ渡世奮闘記 著者:太田直子さん

ついこの間、「キネマの神様」の小説を読んで映画の魅力を再認識したところに本書を手に取りました。

ボディーガードなどの作品を手掛けた映画字幕翻訳者である太田直子さんのエッセイ本は、字幕の世界に留まらず、仕事への向き合う姿勢について「私はこう思う!」とスッキリと伝える内容となっています。

太田さんご自身が称している「字幕屋」とはなにか。
字幕翻訳者や志望者への道のりと字幕制作工程と、仕事に対するプロ意識、文章力を高めるにはどうすればいいのかの具体的な指南があります。

まず、文字数とダイエットについて。

1秒を4文字という厳しい字数制限のもとにセリフをいかにまとめるかが腕の見せ所でもある最大のポイントであり難所があります。

そして、「ダイエット」という言葉は、本来は食べ物についてのみ用いるとのこと。訳語としてよく出てくるのは「食餌療法」のようですが、やせる方法すべてにおいて「ダイエット」という語がひとり歩きし始めていると述べられています。

著者は、言葉は時代によって変化するので目くじらたてなくてもいいのにと思う一方、言葉を伝える立場であるそうは言っていられない心情を素のまま語り、その語り口が妙に気持ち良いのです!

まったく接点がない方なのに、一緒に食事をしながら聞いているような感覚で「わかります、太田さんー」と思わず声をかけたくなってしまうぐらい。

そんな太田さんですが、実は2016年に56歳の若さで亡くなられたと今回知りました。本書で字幕の世界とお姉さんのような語り口に魅せられていたので大変残念でなりません。
2013年に発行された本書をもっと早く読んでいればと悔やまれますが、ご冥福をお祈りいたします。

最後に、私が感じた太田さんの力強いメッセージのここぞ!という箇所をお伝えします。

「うっかり」字幕屋になってしまったかまで、長々と書いてきた。(略)
実を言うと、参考にしてもらいたかったのは、この無計画さだ。
自分がイメージしていた「未来」と現実が違うからといっていちいちめげていたら人生いくつあっても足りない。(略)
「こんなのは自分のやりたい仕事じゃない」と苛立って、目の前にある仕事を見下しておろそかにし、それが「自分に正直に」生きることだと考えるのは、まちがっている。(略)
自分の道のモデルはどこにもない。己の足で地を踏みしめて道をつけてゆくのみ。映画や小説とちがって、人生に「わかりやすい物語」はないのだから。


映画字幕の道を切り拓き、突っ走った人生を過ごされた太田さんの言葉がぐっと沁みます。📕👏

画像1


この記事が参加している募集

推薦図書

書き続ける楽しみを感じています、その想いが伝われば嬉しいです~