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ジャズ記念日: 10月26日、1956年@ニュージャージーRVG

Oct. 26, 1956 “If I Were a Bell”
by Miles Davis Quintet (John Coltrane, Red Garland, Paul Chambers & Philly Joe Jones) at Van Gelder Studio, Hackensack, NJ for Prestige (Relaxin’)

マイルス、30歳にして自らのスタイルを確立して量産体制に入った時期、僅か二日間で4枚を収録したマラソンセッションの一枚、”Relaxin’”の冒頭曲。録音ブース内部から「演奏した後で曲名を言うから」“I’ll play it and tell you what it is later.” とマイルス独特のダミ声で、外側で待機するスタジオエンジニアに話しかけて指スナップでリズムを取ると、ピアノが8月27日紹介曲と同様の「ウェストミンスターの鐘」のメロディーを裏拍子から弾き始めて、バンドがテーマに入るという粋な演出。

この冒頭のやり取りで、マイルスがリーダーシップを発揮してバンドを仕切る姿が窺えるが、バンドメンバーは分かり切ったかのようにいとも簡単に追随してレベルの高い演奏を繰り広げる。ソロがマイルスからコルトレーンにバトンタッチされると解放されたかのようにのびのびとバンドが更に躍動する。

マイルス独特の緊張感と規律を促す睨みは相当怖いが、それがクオリティの高い演奏を生み出した要因の大きな一つである事は間違い無い。バンドメンバーは、マイルスの一挙手一投足に神経を集中しながら演奏を繰り広げるので、大きなサインを出さずとも演奏に統制が効かせられるのだそう。演奏者にとっては、たまったものでは無いだろうが。

マラソンセッションとはいえ、同年の五月と十月の二回に分けて行われていて、四枚に分散する形で収録されている。本作を含む後者の方が明らかに演奏の質が高く、各メンバーの円熟味とバンドによる演奏の場数と経験値が、多分に影響しているというのが総論。本アルバムも四曲目までが十月収録、残りの二曲が5月収録なので、そちらの比較をしてみても面白い。その五月収録の別アルバム紹介曲は、こちらをご覧ください。アルバムジャケットの写真にも触れています。

本演奏の伴奏者の中でも、特にベースのポールチェンバースのブレない躍動感に満ちた演奏は素晴らしい。この前月のチェンバースの活き活きとしたケニードリューとの演奏は、こちらをどうぞ。ドラムも本曲と同じフィリージョージョーンズです。

曲はミュージカル『野郎どもと女たち(Guys and dolls)』の挿入歌で、まさにこのマイルスの演奏からジャズのスタンダードとして定着して行く。それが数あるマラソンセッションの収録曲の中から本曲を選んだ理由。そして本曲が、10月26日セッションの最初の録音曲でもあって適度な緊張感が良い結果をもたらしているのも一つの理由。

リハーサル無く、ぶっつけで録音して、スタジオ内でのやりとりまでリリースするのがプレスティッジらしさ。だからこそ短期集中録音が成立したし、演奏者もそのやり方が分かっているがだけに一発取りに集中してクオリティの高い演奏を繰り広げた、という結果オーライの作品群と言える。

このマラソンセッションの四枚については、その好みも含めて、かなりの考察があるが、総論はコルトレーンが飛躍的な成長を遂げた10月のセッションの方に軍配を挙げている。然るに10月収録曲の含まれる割合の高いアルバムの方が評価と人気が高いと言うが、どうだろうか。実はその割合の高い順番で四枚のアルバムは発売されている。

‘57年7月発売、全4曲’56年10月26日録音
ジャケットはBlue Noteを代表するReid Miles
‘58年3月発売、2/6曲が’56年10月26日録音
‘60年1月発売、1/7曲が’56年10月26日録音
‘61年7-8月発売、1/6曲が’56年10月26日録音

個人的にはフレッシュで若干荒削りながら飾り気のない純粋な5月セッションの内容に心を惹かれる。そしてこれら四枚のジャケットも一貫性が無いように思われるが、実は本作も先の5月11日紹介の”Workin’”も同じエズモンドエドワーズによるもの。エズモンドは、アフリカ系アメリカ人にして才能を発揮してプレスティッジのコルトレーン諸作等のジャケットを手掛けた。

‘57年5月31日録音

そして、ジャケットのみならず、オーナーのボブワインストックの右腕となり、レコードレーベル業界初の黒人エグゼクティブ、マーキュリーレーベルのクインシージョーンズに次ぐプレスティッジでのバイスプレジデント職となり、プレスティッジを離れた後もヴァーヴやインパルス等のレーベルでプロデューサーとして活躍した。

Argoレーベル時代にはラムゼイルイスのヒット作、
“The In Crowd”もプロデュースした
左がラムゼイルイス、右がエドワーズ

そして何よりもエリックドルフィー初期のプレスティッジ諸作品、”Out There”、”Far Cry”、”Live at the Five Spot”をプロデュースした功績は大きい。

‘61年7月16日収録

ブルーノートの共同創業者でフォトグラファーのフランシスウルフやカバーデザインを手掛けたリードマイルス、コンテンポラリーにフォトグラファーのウイリアムクラクストンが居たように、プレスティッジにエズモンドあり、と言えそう。最後に、エズモンドがアルバムジャケットを手掛けたこれまでのプレスティッジレーベルの紹介曲をお送りします。どれも一捻り効いたセンスが光ります。

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