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ジャズ記念日: 7月18日、1961年@ニューヨーク

July 18, 1961 “Easy to Love”
by Sarah Vaughan, Mundell Lowe and George Duvivier at RKO-Pathe Studio, NYC for Roulette (After Hours)

7月5日紹介曲に続いてコールポーターが音楽を手掛けたミュージカル、“Anything Goes”からの一曲。

女性ジャズボーカリスト御三家の一人、サラヴォーンが、ソロで指を鳴らしながら、しっとりと歌い始め、ランニングベースによる伴奏で並走して、侘び寂びの効いたギターが加わる構成で、アルバム名の”After Hours”の言葉通り、夜分にぴったりの渋いドラムレストリオ曲。

サラヴォーンの作品の中でも少ない編成で親密な雰囲気があり、素の歌声が艶かしく記録されている。歌唱力とベースの力量が試される演奏ながら、難易度を感じさせる事無く、聴く耳を奪う力量は、流石と言うしかない。

僅か二分強の、この演奏にサラのボーカリストとしてのあらゆる技術が、鼻歌的なスキャットを除いてギッシリ詰まっている。丹田から出てくるような深い低音から裏声を含めた高音、多種多様なビブラートの掛け方や声の使い方等々、本人は意識していないのかもしれないが、喉が絶妙にコントロールされている。

もう一方のベースは、経験豊かなジョージデュビビエによるもので歌の伴奏に徹してスイングするウォーキングスタイルが、これまた耳心地良い。ジャズ演奏におけるベースの重要性を改めて認識出来る。

この二人が作った流れにマンデルロウのアクセント的なギターが波に乗るようにふわりと加わると、サラのノリが一気に加速して、その歌う歓びを感じ取ることが出来る。

その証拠として、最後にまたフィンガースナップとアカペラに戻るも、冒頭のそれよりも明らかにスイングしている。途中のトリオ演奏でスイングして温まったからに違いない。

ニューヨークに拠点を置いたレーベルのRouletteによる作品。その創設者の一人、モリスレビーは1949年設立の名門ジャズクラブ「バードランド」の経営者の一人でもあった。

パーカーやコルトレーンのライブ録音もある老舗

モリスは、ジャズのみならず、ロックンロールの新曲をラジオのDJを使ってプロモーションするという当時最先端のマーケティング手法を生み出し、音楽界のドンとして君臨したそう。この方もまた他の老舗ジャズレーベル創設者同様にユダヤ系。自身が所有していたロックンロールの神様、チャックベリーの楽曲が盗作されたとして、ジョンレノンを訴えて和解した逸話もある。因みにその楽曲は、あの屈指の名盤”Abbey Road”の冒頭曲”Come Together”。著作権侵害されたという楽曲はこちら。

確かに曲調も似ているが、決定打となったのが、この49秒に登場する"here come old flat-top"という”Come Together”にも登場する歌詞。改めて同曲はこちらから。

如何でしょうか。盗作か否かの意見は分かれるかもしれません。しかしながら、レノンが和解したというのは、敗訴が濃厚だった可能性が高そうです。面白いのは、その和解の条件としてモリスが著作権を所有する楽曲の収録に合意、その中で、盗作の原曲とされる”You Can’t Catch Me”をレノン本人が歌っていること。ここまで来たら開き直りなのか、二つの曲の中間的な演奏をパロディ的に披露。そもそもこの二つの曲名が対極的なのも恐らく意識してのものだとすると、如何にも皮肉家のジョンレノンらしい。

この和解に起因して制作されたアルバムに、あの「スタンドバイミー」の有名なカバーが含まれてヒットしたから、レノンの心情は複雑だったかもしれません。

さて、話を戻して、サラは1962年に同レーベルで本フォーマットの第二弾を収録、その際は、バーニーケッセルのギターとジョーコンフォートのベースという別の組み合わせで、異なる趣向の演奏が楽しめる。

女性ボーカルとウォーキングベースの組み合わせによる曲の導入部分の展開は相性も良く定番化している。現代の女流ボーカリストの主流派の一人、ホリーコールのドラムレストリオでも象徴的に採用されている。例えば、こちらのアルバムの冒頭曲。

女性ボーカルの御三家のエラとギターのジョーパスによるデュエットは、こちらからどうぞ。

重厚なデュビビエのベースに興味がある方は、こちらもどうぞ。

最後に、デュビビエの太いベースが象徴的なジャズファンクの名演をどうぞ。

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