今日のジャズ: 7月29-30日、1981年@東京
July 29-30, 1981 “Who Can I Turn To”
by Wynton Marsalis, Herbie Hancock, Ron Carter & Tony Williams at Shinanomachi, Tokyo for Sony (Wynton Marsalis)
70年代に電化音楽の影響を受けて低迷していたアコースティックジャズに息を吹き返した立役者、ウイントンマルサリスのデビューアルバム。
18歳でジャズメッセンジャーズに抜擢され、その翌年に本作が録音された。この曲では、録音当時、既に一流の大御所となっているマイルスの旧リズムセクションを従えて堂々たるバラードの演奏を繰り広げているように抜群のテクニックを誇り、一躍大スターに躍り出て、ウィントンを起点に電化ジャズから原点回帰の流れが生まれてアコースティックジャズが復権していく。
演奏は、如何にもハービーハンコック的なモード、複雑な和声のメロディーから始まる。このハンコックが、若手のウィントンを相手に容赦無くトリッキーなリズムや和声を交えるが、びくともしないところが大物たるところ。普通、ここまでやられたら、引き込まれるか崩されるかだが、後半になるにつれて、ハンコックに対して逆転現象を起こし、むしろ演奏をリードしていくのだから恐ろしい。
家電のソニーが映画や音楽といったエンタテインメント産業に積極的に進出していった拡大期に本拠地の東京で録音したもの。プロ用の音響機器を手掛けるソニーだけに解像度が高くバランスの良いクセのない音質で仕上がっている。スタジオは東京の信濃町スタジオとある。調べてみたらトムヒドレーの音響設計とある。ヴァーヴレーベルのバルバレンティンのスタジオに関わり、フィルラモーンのA&Rスタジオに従事した方だそう。その組み合わせの傑作がこちら。
本録音スタジオは建物が解体されて存在していないが、貴重な財産が遺されている。それは、このスタジオ向けにソニーが製作した、今でも現行モデルとして発売されているプロフェッショナル向けのスタジオ用ヘッドフォン。
原音に忠実で味付けが少ない生真面目な印象を受ける音質は、欠点のない優等生で精密機械のようなスタイルを売りとするウィントンマルサリス同様。裏を返すと、生真面目過ぎて面白みに欠ける側面もあるかもしれない。
この約一年後、1982年10月1日に商用化されたCDが初販売され、その後レコードを凌駕し、アナログからデジタルに音楽のフォーマットが転換していく。因みに記念すべきCD販売第一号は、このソニーCBSによるビリージョエルの「ニューヨーク52番街」だった。
本曲は英国発のミュージカルに向けて作曲され、先日天に召されたトニーベネットの歌で1964年にヒット、ベネットの生涯の持ち歌の一つとなった。実はこの英国人作曲者の二名は、同年公開の007「ゴールドフィンガー」の作詞家だったりする。
因みに本アルバムは、以下書籍の最後のコラム「1980年代以降のレコーディングについて」で紹介されているので、ご興味のある方はそちらもご覧ください。
さて、同リズムセクションによるマイルスバンド所属期のファンキーな名演奏はこちらからどうぞ。ここでコルネットを吹くフレディハバードとウイントンとの対比が興味深い。
最後に、こちらの演奏では大人しいトニーウイリアムスがドラマーとしての本領を発揮した爽やかな演奏をどうぞ。本アルバムにも収録されている名曲です。
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