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ジャズ記念日: 6月17日、1964年@ニュージャージーRVG

June 17, 1964 “Cantaloupe Island”
by Herbie Hancock, Freddie Hubbard, Ron Carter & Tony Williams at Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey for Blue Note (Empyrean Isles)

名メロディメーカーでもあるピアニストで現代ジャズ界の大御所、ハービーハンコックによる名曲で、ジャズのみならず、ラップグループのUS3にサンプリングで取り上げられ、ビルボードヒットチャートでトップ10入りし、テレビCMにも起用された馴染みのあるフレーズが登場する。

当時のマイルスデイビスのリズムセクションにフレディハバードが入れ替わり、コルネットで若々しく煌びやかな、そして珍しくキレよりも粘りのあるソロを展開する。

本年の二月に本リズムセクションが加わったマイルスの名ライブアルバム、「フォアアンドモア」と「マイファニーバレンタイン」が収録されていて、そこでも感じられるようなフレッシュな勢いがある時期と言える。

ハービーのリーダーシップの下では、このリズムセクションの演奏は、緻密に練られてはいるものの、マイルスのバンドよりも自由度が高いため、メンバーの個性がより多く発揮されている。

ハービーは名メロディメーカー、名アレンジャーでもある。「カメレオン」という曲も作曲しているが、柔軟に作曲や演奏のスタイルを七変化させる事が出来、ここでは、アルバムの流れとしてフリージャズの要素を含むゴリゴリの新主流ジャズのシリアスでストイックなトーンの楽曲が二曲続いた後に一転、様変わりしてファンキー調でノリの良い、気は抜けないが若干リラックスした音楽を奏でる事でアルバムのクライマックスとなっている。それは、サウナで黙々と耐え忍んだ後の水風呂に入った時の恍惚感、桃源郷に辿り着いたような感じ。

この曲の聴きどころは、メインテーマとその味付け。一度聴いたら頭を離れないメロディーと、冒頭の「テテッ」の部分でコルネットに加えてピアノが陰ながらユニゾンして音に厚みを加えているところが味付け。ドラムのトニーウイリアムスによる主旋律後半のシンバル「ジャーン」三連打の後の「スコーン」と高らかに響くスネア。もう、この冒頭の35秒だけでヒット曲ができたようなもの。

ハービーは、果物の名の付いた曲を幾つか作曲していて本作はメロンで、もう一つはスイカ。英語でスイカは”Watermelon”なので、余程のメロン好きなのかも。両方ともに夏の季節の果物で、曲もキャッチーなメロディーとファンキーなスタイルの掛け合わせとなっているのも、何か関係があるのだろうか。

正確に言うとメロンは、カンタロープという北米のマスクメロンの一種で、高品質なメロンが多数出回る日本では、残念ながら殆ど流通していない。

オレンジ色の果肉が特徴で香りが強い

本作は空想の世界を題材として、アルバム名となった神話に登場する未開拓で謎に包まれるエンピリアン諸島への冒険のストーリーを音楽で辿っていくというコンセプト。その中盤で登場するのが本作のカンタロープ島。その名の通り、芳醇な香りに溢れるカンタロープが至る所で大きく育ち、口にすれば不老不死になるという。それを神秘的に解説するミステリー小説家ノラケリーによるライナーノーツは、この次作の類似コンセプトアルバム「処女航海」でも採用されている。

アルバムジャケットも、そのコンセプトに沿った流れで、ブルーノートにしては珍しく、何処となく冒険を想起させるような自然の風景写真を素材としたものになっている。

改めて考えてみると、ブルーノートの写真系のアルバムジャケットには、大抵の場合、人物が登場するか人の気配、例えば人影や体の一部、人工の建造等が入っているので、このような人の気配の全く無い風景写真は異色で大変珍しい。確認した限り、ドナルドバードの鳥つながりの以下ジャケットだけかもしれない。

音質的には湿度の高い地下室のような湿り気の強い空気感が全体を覆っていて高音域にマスクがかかっている印象。キレの良いハバードのコルネットや鋭いウイリアムスのシンバルすら中音押しのために抑制されていて、ハードボイルドなジャズ感を演出している感じ。

ハービーハンコックを更に堪能したい方はこちらの芳醇な演奏をどうぞ。

トニーウイリアムスのキレの良いドラムに更に痺れたい方は、こちらをどうぞ。

フレディハバードの溌剌とした演奏が気に入った方は、こちらの名演もどうぞ。

最後に、6月25日迄の期間限定ですが、NHKラジオ放送の「ジャズ・トゥナイト」にて本アルバムの特集が組まれて全曲解説付きで取り上げられているので、興味がある方は是非。26:45から本曲が流れます。NHK所有の貴重なオリジナル盤レコードとの事で、その再生機器の能力もあり、かなりの高音質で味わえます。レコードとプレーヤーが欲しくなるレベル。

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