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ジャズ記念日: 2月23日、1961年@ニュージャージー

Feb. 23, 1961 “Stolen Moment”
By Oliver Nelson, Eric Dolphy, Freddie Hubbard, Bill Evans, Paul Chambers & Roy Haynes At Van Gelder Studio, Englewood, NJ for Impulse! (The Blues & The Abstract Truth)

二月の夜の静寂に聴きたくなる大名盤。テナーサックス奏者でもあり、名アレンジャーのオリバーネルソンが全曲作曲を手掛けたモダンジャズ屈指のアルバムからのスタンダード化した冒頭曲。

ビルエバンスとポールチェンバースの組とみ合わせはマイルス最高傑作と言われる、本作の約二年前に録音された”Kind of Blue”の”So What”同様だが、それ以外のメンバーが次世代の新主流派を交えて、化学反応が生まれて、より新鮮な響きとなっている。

1:20のドラムのロイヘインズによる渾身のスネアの一撃を皮切りに、突撃の号令をかける軍隊ラッパのような勢いに満ちて斬り込むハバードのキレッキレのトランペット、変幻自在に舞い踊るドルフィーのフルート、落ち着きを取り戻すようなトリックのない旋律に専念したネルソンのテナー、エバンスの思索に耽るハーモニーと旋律。

この曲は、それぞれの演奏者が凄まじく高度な水準で融合している。それを纏めているのは、先ず後年にバンドアレンジャーとして大成するネルソンのリーダーシップと構成力。そして演奏においては黒人清音派ドラムの代表格、ヘインズが、個性的な各演奏者を一貫性のあるリズムで繋ぐ事によって、あわや崩れかけそうなスレスレの演奏を一つに纏め上げている。単純なリズムキープでは終わらずに、ソロ奏者が入れ替わるタイミングで、合図のように節目と異なるフィルインを入れて奏者を鼓舞、演奏を巧みに牛耳って、ベースラインを刻むチェンバースと共にこの名演の源泉になっている。

特に凄まじいのが、5:43-5:53の不規則なリズムの塊を繰り出して最後にシンバルで格好良く纏め上げるセンスと力量。普通、この水準まで崩したものを格好良く纏めたら、最後にガツっと叩きたくなる所を、こらえて良い塩梅の力加減で納める所作に感嘆する。

常日頃、この演奏のシンバルとハイハットを美しく鳴らしたいと願って音源や音響に手を入れ続けている気がするが、なかなか思い描くように綺麗にキレ良く響かない。これはオーディオ的には永遠のテーマ。

次にベースのチェンバース、多作家だけあって様々なアルバムに登場していて、レーベルによって音色の個性が変わっているように見受けられるのが興味深いが、ここではズッシリと奥深いベース音で、相性の良いヘインズとのコンビに加えて、”Kind of Blue”同様にエバンスに同期したかのような、その思索散歩的なラインが聴きどころ。

深夜にしっぽりと聴き始めると止まらずに最後まで聴き入ってしまう大傑作の一つ。レーベルはインパルスで、ルディバンゲルダーによる録音。このアルバムにサイドストーリーは不要。音楽にどっぷりと浸かりたい。

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