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今日のジャズ: 6月30日、1985年@図書室/ストックホルム

June 30, 1985 “Bye Bye Blackbird”
by Chet Baker, Michel Graillier & Jean-Louis Rassinfosse at Sonet Library in Stockholm for Sonet Record (Candy)

本作は、刺激の少ない落ち着いたドラムレスのトリオ演奏。80年代、チェットベイカー晩年(演奏時56歳)の北欧ストックホルムにおける欧州ミュージシャンとの作品。

ストックホルムは、欧州でもジャズに縁のある場所で、1980年から始まったジャズフェスティバルや著名なジャズクラブもあり、その名を冠した”Dear Old Stockholm”というジャズスタンダード曲もある。

チェットは甘い歌声が人気だが、トランペッターとしての力量があってこその歌であって、ここでは歌心と哀愁に満ちた滑らかで求心力のあるメロディーを温和に奏でる。

ピアノもベースもチェットのまろやかなトーンを踏襲して意を汲んだ明るくて優しいタッチの演奏で仕上がっている。フランスの大御所マーシャルソラール以来のフランス出身ピアニストと形容されたミシェルグライエと、レッドミッチェルや北欧を代表するベーシストのニールスヘニングオルステッドペデルセンがアイドルというベルギー出身のベーシストのジャンルイラシンフォッスは、共にチェットとツアーを回った経験があるので相性も良い。

レーベルのSonet Recordはストックホルム拠点で主に著名演奏家によるジャズを扱った。知名度が低いために、アーティストに3、4回は電話して、時には一年近く時間をかけて収録を説得したとの逸話がライナーノーツに記載されている。初の電話相手は大物ディジーガレスピーだったそう。

本作はそのレコードレーベルの図書室での録音のようで、ライナーノーツに収められた写真や映像からリラックスした雰囲気が感じ取れる。その落ち着いた環境下で、内省的で親密なトリオ音楽を繰り広げる。因みに、その図書室での録音はチェットで二組目だそうで、初録音はズートシムズとのこと。

リラックス度合いはサンダルを履くほど

曲は1926年にヒットチャート18位を記録してから息長く歌われ続ける事でスタンダード化した。そのポピュラー度は、ビートルズのリンゴとポールもソロ作品でカバー収録する程。ポールによるとジョンも好んだ一曲でビートルズ時代に取り上げる検討をした事があるそう。そういえばビートルズの名曲にブラックバードという曲があり、共に黒人解放運動に関わっている歌との由。

今回の音源は、「今日のジャズ」初のライブ映像版。CDが発売されていて、今回紹介するにあたって音源を検索してみたら、そのライブ演奏が映像と共に出回っていて鑑賞出来ることを発見して驚いた。音質が良いので、音楽の収録だけかと思っていた。貴重な映像があるので様々な気付きが得られる。図書館の一角でビールを飲みながら、暖炉の前にある、ゆったりとしたソファーに腰掛けながら、リラックスした環境で演奏に没頭しているチェット。ちょうどこの年に、ソニーのビデオレコーダー「ハンディカム」がヒット、普及価格帯のレーザーディスクが発売されたように、映像系の電化製品が一般家庭に普及し始めた頃。

その映像に登場するビールは北欧でロゴが緑色なので単純にデンマークのカールスバーグかと思ったが、荒い映像をよく見ると違うと思しき文字とマーク。調べてみると全く同じものは見つからなかったが、その文字と五角形の形からスウェーデン産のプリップスとおもわれる。美味しそうだが、日本には流通していないようだ。

音的には、ベースのまろやかな鳴りに特徴があると思ったらボディの無いアップライトのエレキベース。因みにこの作品はデジタル録音で、80年代の電化、デジタル化の浸透が分かる。

若かりし頃のチェットの演奏はこちらから。メロディー重視のスタイルは、生涯を通じて一貫しています。

ズートシムズの演奏に興味を持たれた方はこちらからどうぞ。こちらの図書館というよりは、場末のスナック的な雰囲気の演奏。

最後に、チェットの歌声にも興味がある方は、こちらもどうぞ。

六月もお付き合い有難うございました!

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