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ジョブ型雇用とは何であって何でないのか

テレワークが普及してから、「ジョブ型雇用」がにわかに脚光をあびるようになりました。メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用に移行しなければ競争に置いていかれる!という論調もよく見ます。

しかしどうやら、「ジョブ型雇用」の定義が明確に定まっておらず、それぞれが「ぼくのかんがえたさいきょうのジョブ型雇用」について話をしているため、議論が空中戦になってしまっているようです。
そこでこの記事では、ジョブ型雇用とは何であって何でないのか?をわたしなりに整理してみました。

ジョブ(=ポスト)で雇用を定義するのがジョブ型雇用

まず結論から。ジョブ型雇用とは何なのか?を一言でいえば、「ジョブ(=ポスト)で雇用を定義すること」と言えます。人ベースではなくジョブベースで採用や給与を定義することがジョブ型雇用なのです。

人ベースとジョブベースのちがいについて、よく例に使われるのが、英会話教室の事例ですね。

(英会話教室講師を例にしたジョブ型とメンバーシップ型のちがい)
AさんとBさんは同じ英会話教室で同じ英語のクラスを受け持っている。Aさんは英語だけ教えられて、Bさんは英語に加えてフランス語も教えられるとしたら、2人の給与はどうする?
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【ジョブ型】
2人とも「英語のクラス」というジョブは変わらないので、給与は同じ
【メンバーシップ型】
Bさんの方がスキルが高いのでBさんの方が給与が高い

ジョブ型はジョブに給与が支払われ、メンバーシップ型は人に支払われるわけです。

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採用についても同様で、ジョブ型は必要なポストベースで採用し、メンバーシップ型は人ベースで採用します。
このように、ジョブ型雇用は雇用をジョブベースで考えることと言えます。

ジョブで給与を規定すると、会社が異動権を持ちづらくなる

ジョブ型雇用を理解するうえでもう1つポイントになるのが、会社がどれだけの人事権(以降は異動権と記載)を持つか?です。

一般にジョブ型雇用では、会社が異動権を持ちません。多くの日本企業のように配属先や異動を会社が一方的に命じることができないわけです。
なぜかというと、ジョブ型雇用では異動……つまりジョブの変更がそのまま給与の変更に結びつくわけで、会社都合で異動させると労働条件の不利益変更となってしまうからです。

一方でメンバーシップ型では人に給与が支払われるため、異動しても待遇は変わりません(厳密に言えば変える必要がありません)。そのため、会社が一方的に異動を命じても労働条件の不利益変更にはあたらず、結果的に会社の持つ異動権が強くなります。

なお余談ですが、本人の希望を考慮しない転勤や経験が全く生かされない部署への異動は、賃金が変わらなくても労働条件の不利益変更にあたり得ると思っています。"異動権が強い"の定義も歴史とともに変わっていくのでしょう。

”ジョブ型雇用とは”へのアンサー

以上のとおり、異動権の有無はジョブ型雇用そのものを指すわけではありませんが、”労働条件の不利益変更”の観点でジョブ型雇用とセットで理解するべきものです。ジョブによって待遇が変わる以上、会社の持つ異動権は必然的に弱くなるわけです(逆に、”会社が異動権を持たないメンバーシップ型雇用”はあり得ると思います)。

これまでの話をまとめると、「雇用や給与をジョブベースに設計すること」「結果的に会社が持つ異動権が弱くなること」がジョブ型雇用と言っていいでしょう。

【ジョブ型雇用とは何なのか】
・雇用や給与をジョブベースに設計すること
・結果的に、会社が自由に異動を命じられなくなる

逆に言えば、巷で話題になっているジョブ型雇用に関する上記以外の話題……例えば「ジョブディスクリプションの厳密化」「成果主義」「解雇自由」などはジョブ型雇用そのものではありません。

以下に、ジョブ型雇用は何でないのか、を明らかにしていきます。

ジョブ型雇用はジョブディスクリプションを厳密に定義することではない

「ジョブディスクリプション(=職務記述書)で職務を厳密に定義することがジョブ型雇用だ」という説明を多く見かけますが、これは誤りです。

まず、メンバーシップ型雇用であってもジョブディクリプションを定義することは可能です。先に説明した、「雇用を人ベースで設計すること」と「ジョブディスクリプションを定義すること」は相反しません。実際、メンバーシップ型雇用であっても、エンジニア職を中心にしっかりしたジョブディスクリプションを定義するケースも増えてきています。

次に、ジョブ型雇用だからと言って必ずしも厳密にジョブディスクリプションが定義されているわけではありません。欧米企業のジョブディスクリプションをみると、一般的な職務内容の記載の他に、「その他必要な業務」とか「その他上司の指示に従う」などのあいまいな記載があるのが一般的なようです。

(欧米企業のジョブディスクリプションのゆるさについて言及された記事)

以上から、ジョブ型雇用ではジョブディスクリプションを厳密に定義する・メンバーシップ型雇用では定義しない、というのは誤りだと分かります。

ジョブ型雇用は成果主義を表すものではない

”成果主義”もジョブ型雇用とセットで語られています。テレワークに移行したことも相まって、「これからは成果で評価すべきだ。だからジョブ型に移行しなければ」という論調を多く見かけます。

しかし、これまで述べたとおりジョブ型雇用とはジョブベースに雇用を定義することであって、成果で評価することではありません。メンバーシップ型でも成果で評価することはできるはずなのに、なぜか成果主義はジョブ型の専売特許のような語られ方をしています。

なぜジョブ型雇用=成果主義と勘ちがいされてしまっているのか。おそらく、ジョブ型と対比になるメンバーシップ型を旧来の日本的雇用慣行(=年功序列・終身雇用)でイメージしているために起こっている誤解なのだと思われます。”メンバーシップ型(年功序列)⇄ジョブ型(成果主義)”という誤ったイメージがそのまま使われてしまっているのですね。

下記の記事でも、「日本的雇用慣行 VS 米国的雇用慣行」の文脈で、米国的雇用慣行をジョブ型と捉えられた背景が説明されています。

メンバーシップ型雇用は旧来の日本式雇用慣行そのものを表すものではありませんし、ジョブ型雇用は米国式雇用慣行そのものを表すものではありません。この区別ができると、ジョブ型雇用とは何なのかを理解しやすくなります。

ジョブ型雇用は自由に解雇できることではないが……

「ジョブ型雇用では自由に解雇できる(メンバーシップ型ではできない)」これもよくみる主張です。これについては、”メンバーシップ型に比較すれば解雇しやすい”という意味では正しいと言えるかもしれません。論点を整理してみましょう。

まず、「メンバーシップ型では解雇できない」というのはそもそも誤りです。労働契約法には「使用者の解雇の自由」が定められており、会社には解雇権が認められています。
そうはいっても本当に自由に解雇できるようでは労働者の生活が守られなくなってしまうので、「解雇権濫用の法理」によって”社会通念上の相当性”がないと解雇は無効となります。

つまり、メンバーシップ型だろうがジョブ型であろうが”社会通念上の相当性”があれば解雇はできるし、なければ解雇はできないのです。よって、「ジョブ型雇用では自由に解雇できる(メンバーシップ型ではできない)」という主張は誤っていることが分かります。

しかし、「ジョブ型雇用の方が解雇を行う際の”社会通念上の相当性”を主張しやすい」とは言えそうです。
なぜなら、先に述べたとおりジョブ型雇用では会社の持つ異動権が弱いためです。会社の一存で異動させることができないとなると、そのポストの仕事が必要なくなった・そのポストに見合わない成果だった、などの理由で解雇するのは比較的受け入れられやすいと言えます。

逆に、メンバーシップ型では会社の持つ異動権が強いので、そのポストがなくなったりそのポストに相応しくないと判断されても解雇ではなく異動によって雇用を継続させることが”社会通念上”求められます。会社の命令にしたがって異動してるのだから雇用は継続するべき、という”社会通念”もあるのでしょう。これらのことから、メンバーシップ型雇用はジョブ型に比較して解雇しづらいと言えます。

導入を検討する際は、ジョブ型雇用の本質をみる

こうして整理してみると、「本来の言葉の意味(=ジョブで雇用を定義すること)」と「それに伴う副次的な効果や変化(=異動権・成果主義・解雇自由)」を混同してしまうことが混乱の元になっているようです。

例えば「これからは年功じゃなく成果で評価する。そのためにジョブ型雇用に移行する」と判断するのは早計でしょう。成果主義はジョブ型雇用から生まれる副次的なものであって、ジョブ型雇用そのものではないからです。メンバーシップ型雇用を保ったまま成果主義を導入することもできるはずです。

ジョブ型雇用への移行を検討するのであれば、言葉本来の意味である、”雇用を人ベースに設計するかジョブベースで設計するか。自社の戦略実現にはどちらが相応しいか”で判断するべきだと考えます。

以上、ジョブ型雇用は何であって何でないかを整理してみました。記載した内容や解釈にもし誤りがあれば、コメント欄で教えていただけるとうれしいです。最後までお読みいただきありがとうございました!

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