なべさん

超短編小説を50音で一個ずつ書いております。気軽に読んで頂けると嬉しいです。

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最近の記事

【超短編小説.17本目】一般的な社会

 「ここは学校じゃないんだからな…ちゃんと事前に確認しとけよ。一般社会じゃ通用しないぞ。」 わからないことがあったので、先輩に尋ねたらそう言われた…。 「わからないことをわからないまま放置する奴の方が一般社会では通用しないと思います。それとも、先輩は後輩に何かを教えることもできない雑魚ってことですか?」 と言いたい気持ちをグッと堪える。こんなことを言ってしまったら、余計に先輩を怒らせてしまうだけだ。フィクションの世界やスカッとジャパンだったら、ズバッと言い返すと良い方向に物事

    • 【超短編小説.16本目】一色

       休日のお昼。俺は、近所の公園のブランコに腰掛けた。少子化の影響か、はたまたゲームの影響か…公園には一人も子供がいない…。俺の心の中は、真っ黒だった。  昨日、上司に叱られた。完全に俺のミスだったので、怒られたことには納得している。納得はしているが、やはり胸の中に黒々とした感情が渦巻く。最近、何も上手くいかない。ふと何者かの視線を感じ前を見ると、柴犬が俺を見つめていた。 「ヘッヘッヘッヘッヘ」という犬特有の息遣いをしながら、じっと俺を見つめている。なんて可愛いんだ。さっきの黒

      • 【超短編小説.15本目】一丸

         「チーム一丸となって頑張りましょうってよく言うじゃん…?」 「言うね。」 「一丸って言葉、それにしか使わなくない?」 という、クラスメイトの重岡からの、どうでも良い問題提起…。 「まあ、言われてみれば、そうかもね。」 「一丸って『なる対象』でしか無いんだよな…。」 「確かに…。」 「しかも、絶対に『一』丸なんだよな…。」 「ん?」 「二丸とか三丸とか聞いたことなく無い?」 「そりゃそうだろ。一つの丸になることが大事なんだから。」 「でもさ、もし一丸となったチームが2チームあ

        • 【超短編小説.14本目】一度無くした信頼

           「一度無くした信頼は、元には戻らないんだよ。」 そう言って、岡田先生は悲しそうに笑った。  俺は、岡田先生のことを本気で天才だと思っていた。先生の書く小説はどれも人間感情がリアルで、小説の登場人物の息遣いが聞こえてくるようだった。しかし、最近の先生の作品は、正直質が落ちているように思える…言葉を選ばずに言うなら、登場人物達が薄っぺらい。おそらく、出版の頻度が高まっているのが問題だと思う。出版社が多くの作品を先生に要求するせいで、一つ一つの作品に向き合う時間が取れなくなってい

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        • わをん
          3本
        • らりるれろ
          5本
        • やゆよ
          3本
        • まみむめも
          5本
        • はひふへほ
          5本
        • なにぬねの
          5本

        記事

          【超短編小説.13本目】一日警察署長

           レジ袋を片手にぶら下げて、いつものように自宅に向かっていると、後ろから声をかけられた。 「あの…。」 振り返ると、白髪のおじさんだった。 「はい?」 「私、警察署長をやっているものなんですが…。一日警察署長、やってみませんか…?」 「は?」 全く意味がわからない。 「え、一日警察署長ですか…?」 「はい、お願いしたいな…と思いまして。」 そう言って、おじさんは深々と頭を下げてきた。 「いやいや、なんで私なんですか…?普通芸能人とかでしょ…?」 「警察官というものを、より身近

          【超短編小説.13本目】一日警察署長

          【超短編小説.12本目】一人言

           「あーーー。しんどっ。」 一人の部屋で、つぶやいていた。社会人生活が始まって、まだ3日目だというのに、もう嫌になってきた。9時から18時まで働くという生活に、一ミリも身体が付いてこないのである。 「くっそ…。もっと大学時代にちゃんとしとくべきだったな…。」 こんなことをつぶやいても何の意味もないことくらい、自分が一番わかっている。しかし、やめられない。段々と上司や会社の悪口も湧き上がってくる。 「クソッ!」 つぶやくだけで、心が少しだけスッとなるような気がした。  次の日

          【超短編小説.12本目】一人言

          【超短編小説.11本目】一万円

           「好きです!付き合ってください!」 そう言いながら、先輩は一万円を渡してきた。 「え?」 戸惑う私に、先輩は深々と頭を下げる。 「なんで一万円?え、一万円払うから付き合えってことですか?」 「あ、違うよ。」 先輩は手をブンブンと振る。 「これは慰謝料。」 「はい?」 「俺に告白されるって、相当なストレスだと思うから、慰謝料。」 「は?」 「好きじゃない人に告白されるってストレスだろ?」 「いや、そんなことないですよ。」 「しかも、俺は君と同じ写真部に所属してるし、俺が告白す

          【超短編小説.11本目】一万円

          【超短編小説.10本目】一人しか来ない

           「え、ここで合ってるよね?」 「ここだって言ってんじゃん。」 「え、集合時間12時だよね?」 「12時だって…何回聞くんだよ。」 「今何時?」 「12時40分」 「え、なんで誰も来ないの?」 真夏は、だんだんと苛立ちを見せ始めた。 「私たちしか来てないじゃん。」 「俺に聞くなよ。てか、二人集まっただけでも十分だろ。」 「いやいや、言っとくけど私11時半から待ってたからね!」 「マジで?」 「まさか一人しか来ないとは思わなかったわ…。『絶対集まろうね』って言ってたじゃん!」

          【超短編小説.10本目】一人しか来ない

          【超短編小説.9本目】一口

           「あの…一口貰っても良いですか?」 「え?」 一瞬、聞き間違えかと思った。 「あ、こういうの嫌でしたか?」 男は、恥ずかしそうに笑う。 「いや……結婚の挨拶をしに来た奴に一口ねだられるとは思ってなかったよ。」 そう言って、私は自分を落ち着けるために、とりあえずお茶を一口啜った。 「あ、で、結局、どっちですか?」 「は?」 「そのハンバーグ、一口貰えたりしますか?」 「貰えるわけないだろ!」 私は思わず声を荒げた。 「お父さん、落ち着いて。お店の中だから。」 と隣に座っていた

          【超短編小説.9本目】一口

          【超短編小説.8本目】一日一善

           「一日一善って決めてたんで……。」 私が弁護していた被告人は、そう言ってヘラヘラと笑った。 「それが、あなたが犯した罪とどう関係があるんですか?」 検察官が、眉間に皺を寄せる。 「いや、その日、間違えてゴミを二つ拾ってしまったので、一日二善になっちゃうじゃないですか。僕は、一日一善って決めてたので、マイナス一善しないとな…と思って。」 「だから、罪を犯したんですか…?」 被告人は何も言わずに、ニッコリと笑った。  その後、私の弁護により、被告人は責任能力がないとみなされ、無

          【超短編小説.8本目】一日一善

          【超短編小説.7本目】一室にて

           「大丈夫ですか…?」 目を覚ますと、メガネをかけた綺麗な女性が、俺のことを覗き込んでいた。周囲を見回すと、真っ白な天井と壁に囲われていた。 「ここは…?」 俺が尋ねると、俺の背後に立っていた男性が口を開いた。 「わかりません。僕も、気がついたらこの部屋に居ました。」 「私も…。会社からの帰り道に、突然後ろから襲われて…。」 すると、どこからか声が聞こえてきた。 『みなさん…お目覚めのようですね…。』 「誰だ…!」 男性が声を上げる。 『みなさんには今から、生き残りをかけて、

          【超短編小説.7本目】一室にて

          【超短編小説.6本目】一番星

           「見て見て!一番星!」 小学1年生になる孫の洋平が、夜空を指差して言った。「一番星」という言葉を、久しぶりに聞いたような気がする。 「本当だね…綺麗ね…。」 と言うと、洋平は 「お母さんの星かな…?」 と言ってきた。  洋平の母…私の娘は、洋平が5歳になる頃に亡くなった…ということになっている。本当は、息子と夫を残して失踪したのだ。どうやら、他に男を作っていたらしい。「自分の育て方が悪かったのだろうか…?」などと考えてしまう。当時、「お母さん…どこ行ったの?」と洋平が尋ねて

          【超短編小説.6本目】一番星

          【超短編小説.5本目】一歳

           「ちょっと一回冷静になろうか。」 一歳の息子が、ハッキリとそう言った。俺と嫁は、息子の方を見て、呆然とすることしか出来なかった。    今日、俺が女性の部下とランチを食べていたのを、妻の友達が目撃したらしい。俺が家に着くなり、妻に問い詰められた。 「浮気じゃないにしろ、周囲にそういう風に勘違いされたらどうすんのよ。」 「別に昼飯くらい良いだろ。」 「てか、本当に下心がないのかどうかも怪しいしね。」 「いや、そういうんじゃないって。」 「ならなんで、私にその話しないのよ。」

          【超短編小説.5本目】一歳

          【超短編小説.4本目】一杯のコーヒー

           会社を辞め、退職金と貯金を使ってこの喫茶店を開いた。そして10年が経ち、常連客も増えた。最高の一杯をお客さんに提供することだけが、今の生きがいだ。店のドアが、勢いよく開き、女性客が入ってきた。 「いらっしゃいませ」 
「ハァ、ハァ、ハァ…すみません。コーヒ一つ。ハァ、ハァ…」 
「ホットですか、アイスですか」 
「あ、アイスでお願いします。ハァ、ハァ」 その女性は、席につき「ふぅ」と息をつく。 「お待たせしました。アイスコーヒーです。」 丁寧にじっくりと淹れた一杯を、女性客

          【超短編小説.4本目】一杯のコーヒー

          【超短編小説.3本目】一応

           「一応…一応書いとくだけ。」そう自分に言い聞かせながら、「オシャレなカフェで水分補給する奴。」とメモ欄に書いた。  芸人の夢を諦めてから、3年が経とうとしていた。自分が面白くないということを証明するためだけに費やした15年間は、無駄以外の何物でもない。諦めてよかったのだ。俺の人生は、これで良いのだ。そう自分に言い聞かせていたのに…。  娘が、俺の手をギュッと握ってきた。 「パパ?どうしたの?」 眉間に皺を寄せてスマホを見ていた俺に、娘が尋ねる。 「あぁ、いや、何にもないよ。

          【超短編小説.3本目】一応

          【超短編小説.2本目】一途

           「高校時代は、人気者だったんだけどね…。」 そう寂しそうに笑い、彼女は白米を口に運んだ。 「いや、今も人気でしょ?」 と俺が言うと、彼女は首を横に振る。 「もし人気なら、この歳で独り身なのおかしいでしょ。」 「理想が高いんだろ?」 「そんなことないって。」 「じゃあ、俺は?」 「無しでしょ。」 そう言って、再び白米を頬張る。物凄くダサいことをしてしまった気がするし。物凄くダメージを受けた。 「どうすれば、あの頃の人気が取り戻せるんだろうね。」 「俺に聞くなよ。」 「確かに。

          【超短編小説.2本目】一途