【超短編小説.10本目】一人しか来ない

 「え、ここで合ってるよね?」
「ここだって言ってんじゃん。」
「え、集合時間12時だよね?」
「12時だって…何回聞くんだよ。」
「今何時?」
「12時40分」
「え、なんで誰も来ないの?」
真夏は、だんだんと苛立ちを見せ始めた。
「私たちしか来てないじゃん。」
「俺に聞くなよ。てか、二人集まっただけでも十分だろ。」
「いやいや、言っとくけど私11時半から待ってたからね!」
「マジで?」
「まさか一人しか来ないとは思わなかったわ…。『絶対集まろうね』って言ってたじゃん!」
「俺は寧ろ誰も来ないかと思ってたよ。真夏が居てビックリしたくらい。」
「いやいや、来ない方がおかしいでしょ。てか、三十人で待ち合わせして、二人しか集まらないのヤバ過ぎるでしょ。」
「いや、約束したの『20年前』だぞ。」
俺は、鞄から卒業アルバムを取り出し、例のページを開く。1ページ、クラス全員で自由に作ることができたのだ。そのページには「20年後の4月1日12時に、3丁目公園のブランコの前に集合!」と大きく書かれている。20年前の約束なんて誰も覚えていないだろうと思いつつ、帰省のついでに来てみたのだった。
「え、もう誰も来ないかな…?」
と真夏は寂しそうにする。
「来ないんじゃない?」
と俺は笑う。この時、俺の心はものすごく踊っていた。心の中でリオのカーニバルが開かれていたと言っても過言では無い。初恋の相手と、こんな最高の形で再会することができるとは思っていなかったからだ。
「どうする?ご飯でも行く?」
と聞くと、真夏は20年前と同じ、可愛い笑顔を俺に向けてきた。
「ごめん、私彼氏居るから、二人きりでご飯は無理かも。どうする?駅まで歩く?」
そうだ…20年前も、この溌剌とした笑顔で俺の誘いを断ってきたのだ。
「あ、いや…俺は、もうちょっとここに居ようかな。」
「え、まだ待つの?」
「あ、いや…待つっていうか…うん…。」
俺は、公園のブランコに座り、2時間ほど一人でゆっくりと揺れた。

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