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映画『BLUE GIANT』と「勝つ演奏」の選択

 上映開始からまだ間もない2月22日(水)(関係ないけど、ネコの日)に、石塚真一原作(小学館「ビックコミック」連載)のアニメ映画『BLUE GIANT』を見て来ました。

 高校卒業して間もない若手3人のジャズバンド“JASS”の活躍を描くアニメ映画ですが、主人公のテナーサックス奏者、宮本大を山田裕貴/馬場智章(サックス)、凄腕のピアニスト、沢辺雪祈を間宮祥太朗/上原ひろみ(ピアノ)、宮本大から刺激を受けてドラムを始めた玉田俊二を岡山天音/石若駿(ドラム)が、それぞれ担当し、ものすごい熱量で、ジャズ・シーンを描いています。

 宮本大は、高校時代からサックスを始めて、3年の経験ですが、その音を聞いたピアノ沢辺雪祈は、自分は4歳からピアノを始めているのに、何ということだと驚きます。

 宮本大が、毎日毎日、サックスの練習に励むのに刺激を受けて、玉田俊二は未経験ながら、ドラムを担当することとなり、かくして、ジャズバンドの“JASS”は結成されます。

 ストーリーも、若手ジャズメンの栄光と挫折を描く内容で、非常に共感を抱くものでしたが、何よりも、この映画のために書き下ろされた上原ひろみ作曲の音楽(ピアノも担当)と演奏のインパクトがすごいのです。

 コミック連載時も、絵から音楽が聞こえて来るようだとの感想があったそうですが、この映画では本物の“音”が入ったのですから、そりゃすごいのです。

 アニメの作画の力と相まって、強烈なインパクトを受けました。

 上演時間120分の作品でしたが、ほぼほぼ全編にわたり、上質なコンサートに行っているかのような作品でした。

 冒頭、宮本大は、「オレは世界一のジャズプレーヤーになる。」と言い、この劇中、ずっと口にし続け、自分ならではの演奏-例えば、ソロ演奏部分-を目指しています。

 一方、凄腕ピアニストの沢辺雪祈は、名門ジャズクラブでの演奏に至るまでに、「勝つ演奏」と称して、ある意味、無難な演奏になってしまい、ジャズクラブの元締めに「つまらない」と酷評されます。

 その後の内容は、映画を見ていただくとして、この2人のジャズ演奏家の生き方は、どちらも共鳴できますが、私などは、凡人なので、凄腕ピアニストの沢辺雪祈の演奏スタイルであるとにかく、コンスタントに勝ち続け、実績を上げていくという生き方に親近感を覚えてしまいます。

 ただ、このような演奏では、「世界一」にはなれないのでしょうね。

 大学時代、同級生に、「オレはジャズピアニストになる。」と言って、はばからないヤツがいました。

 父親は、東京大学卒の医者で、北海道大学教授、母親は、東京藝術大学声楽科卒という学者と芸術家のハイブリットの生まれと育ちでしたが、卒業後は、結局、工学系の研究者になってしまいました。

 よく家に泊まらせてもらいましたが、立派なステレオで、当時、出て間もないCDプレーヤーから、有名なジャズピアニストのビル・エヴァンスを始め、さまざまな名演奏を聴かせてくれました。

 家には、ピアノが4台もあり、母親の在京時には、音楽の解説付きで、ピアノを鳴らせてくれました。

 卒業後、彼の結婚式に出席しましたが、国際線の客室乗務員だった新婦と新郎で、ピアノの連弾をし、会場を沸かせていました。

 彼とは、今も年賀状の付き合いは続いていますが、もう何年も会っていません。

 彼が「オレはジャズピアニストになる。」と思っていたのは、決してウソではなかったと思いますが、私にはうかがい知れないレベルで、プロとしての「勝つ演奏」ができていなかったのかもしれません。今日の映画を見て、ふとそんなことを思い出しました☆。

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