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エッセイ:MOSAIC.WAVの"M"からはじめよう

iOSの更新によってUIが大幅に変更されましたね。
オタクっぽい曲を聴いていることが周りにバレるリスクが増えて戦々恐々としているみなさん、こんばんは。藤吉なかのです。

みなさんは迷惑メールを受信したことはありますか?普通は自動的にフォルダ分けされてしまうのであまり確認する機会がないかもしれませんが、私はよく確認しています。

具体的に言うと、1日に2回更新してしっかり全部に目を通しています。
こういう言い方すると、ラジオのMCがリスナーによく言うやつみたいですね。
(「お便りは全部読んでますよ〜」ってやつ。アレほんとに読んでたとしたら凄いな。一般人に輪をかけて多忙な芸人さんやらライターさんが、マジで全部に目を通してくれてたら聖人すぎる)

なんでそんな酔狂なことをしているのかというと、その理由はただひとつ。
先ほどの写真でも表示されていたMOSAIC.WAVの『迷惑メーリングGIRL』がめちゃくちゃブッ刺さっているからに決まってるでしょうが!!

2011年リリースのこの名曲、一言で歌詞の内容を説明すれば「ある女の子から、主人公の元に毎日とっぴな文面の迷惑メールが届く」というもの。
MOSAIC.WAV特有の電波ビンビンなサウンドと、えも言われぬ切なさが相まった歌詞が最高!


………というようにあらゆる話題から曲の話題に繋げようとする程度には私はMOSAIC.WAVというアーティストが大好きです。

以前の記事でもさんざ言及しておいて今更アレですが、読んでくださる方の中にはスーパーユニット・MOSAIC.WAVを知らない方もいらっしゃるはず。

今回は私なりにMOSAIC.WAVの魅力をより多くのオタクに伝えるべく筆を取った次第。
以下、分かりやすく魅力を伝えたいがためにオタク特有の安易なレッテル貼りとも取られかねない見出しが続きますがお許しくださいね。


MOSAIC.WAVはパンクだ!


まずはとりあえず公式サイトより、超痺れる彼らの活動理念…彼らが数々の曲で主張しているakiba-popという音楽的スタイルについての説明文を引用します。

音楽においてかつては異端とされがちだった二次元愛、コンピュータ、科学などをテーマにシンセサイザーを駆使したカラフルなサウンドで描く21世紀生まれのポップミュージック。

活動当初は、空想の世界に入り浸っているオタクは気持ち悪いという風潮やお洒落なものがいいものとされる音楽の世界など、世間の様々な偏見に対するカウンターパンチ、つまり「逆襲」が大きな原動力になっていました。

しかし逆襲というのは、立ち向かう敵がいないと成立しません。

今ではアニメもインターネットもパソコン一台で完結するDTMもすっかり当たり前になって逆襲という意味合いも薄れてしまいました。
それでもまだ世代や環境によっては偏見に悩んでいる方も多いと思います。

今は現実と空想とデジタルの狭間に立ってよりよい考え方や楽しみ方を見つけたい、まだ聴いたことのない刺激的な音楽を作っていきたいと思っています。
MOSAIC.WAVオフィシャルサイトより
(改行・太字は引用者による)


オタクを下に見る風潮、おしゃれさやモダンさ=良さと判断する「世界」への逆襲をモットーとするMOSAIC.WAV。

電波な曲調に乗せて大衆の偏見をアジテートする彼らは常に最新のカルチャーを吸収しつつも二次元・インターネットへの愛(と毒)に溢れた世界観を展開します。

単純に「ふぃぎゅ@のグループでしょ?萌え萌えで可愛い歌詞を書く人たちなんだよね?」と思っているみなさんには少々認識を改めていただく必要があります。

もちろん萌え萌えな曲もありますよ、『ローレグエンジェル夏到来!』とか『Magi★まじょ☆ココロ・ストロベリー』とか枚挙にいとまがない。

ただ、それらはMOSAIC.WAVの一側面にすぎないのです。
オタクたちが日々心に抱える言葉にできない不安と憂鬱を、ボーカルみ〜こさんが萌え萌えに歌い上げることで大きな「何か」へ抵抗する。


彼らのそんな姿勢に私はパンクの要素すら見出してしまうんですよね。
こんな質問はこの世に存在し得ないんですが、「MOSAIC.WAVの歌詞世界って、田村ゆかりとセックス・ピストルズのどっちに近い?」って質問されたら、頭抱えて数時間悩んでしまうかもしれない。

MOSAIC.WAVが作るのはあくまで電波ソングであり、アニソンに影響を受けたポップス。
しかしそこにはパンクの要素すら感じさせる「カウンター」要素が存在します。

伝説のパンクバンド「クラッシュ」のジョー・ストラマーは言いました、「パンクは姿勢であり、スタイルではない」と…
パンク史にその名を刻む御大のお墨付きとあらば敢えて言おう…
MOSAIC.WAVはパンクでもあると!!!


MOSAIC.WAVはオタクを泣かす天才だ!


荒木飛呂彦先生が「男泣き映画」を好むと著書で仰っていましたが、私にとってMOSAIC.WAVは「オタク泣き音楽」なんです!!

再三書きますが、電波で萌え萌えな曲のイメージが強いMOSAIC.WAV…………実は泣ける曲も沢山あるんですよね。
電波な曲の一節一節に不思議な魔法がかかっていて、アガる曲調に包まれながらもオタクならではの切なさに飲み込まれてしまう。

あの名作映画『映画大好きポンポさん』でも、「本来泣くとは一ミリも思ってないB級作品で感動させた方がお涙頂戴の映画で泣かせるよりカッコいいだろ?」(うろ覚え)というようなセリフがありましたが、完全に同意。
cv.小原好美のキャラは正義です。

この章では特に私が好きな曲の歌詞を題材に、MOSAIC.WAVのオタク泣かせの世界観についてガンガン語ります。


題材とするのはキャリア初期の大名曲……
『電気の恋人 /* I am Programmer's Song */』

頑張って書いているのでこのnote自体も読んで欲しいんですが、読むの止めてもいいんでとりあえずこの曲聴いてくれ!!!!

こちらの曲はPCやインターネットがまだまだほとんど普及していなかった時代、語り手のお父さんが買ってきた「黒い顔した未来の箱」と語り手が出会い、人生が動き出すというストーリー。

まず一番ではまだ幼い語り手と「未来の箱」の出会いが描かれます。以下は一番のサビ。

恐る恐るスイッチ入れたら 無愛想な"OK"の2文字

「konnnichiwa」って入力しても "Syntax Error"何それ? 読めない…

図書館で借りたハンドブックで 覚えたてのベーシック文法

0の世界に夢を描くよ 僕ら幼い電気の申し子

このサビが流れた瞬間、鳥肌がゾワゾワゾワッ!!!と立ちました。

自分は中学生あたりからスマホが当たり前にあった世代。インターネットにつながることもGoogleからちょちょいのちょいですし、それ以前に学校で情報の授業もある。

私たちの世代はオンライン授業なんて時代柄も影響して、ネットやpcとの距離が非常に近かった世代と言えるのではないでしょうか。

でもどうだろう。PCの中の「0の世界」に、夢を描いたことなんてあっただろうか。本と睨めっこして、やっとの思いでコンピュータを動かせた喜びなんてあっただろうか。

強烈なノスタルジーと、深い感動と、どこか気持ちの良いモヤモヤ。完全にK.O.されました。0と1で出来た世界のことなんぞ意識してこなかったオタクにこうしてMOSAIC.WAVはブッ刺さりましたとさ…


そんな市井の一オタクの感動をよそに、電脳世界とそれに魅せられた主人公の物語は続いていきます。振り落とされるなよ…

今じゃネットの世の中で オマケに僕はプログラマー

地球の距離が縮まって なぜか窮屈に感じてる

携帯・ネット・デスクトップ・ノートブック 無い生活はもう信じられない

けれども昔の人は立派さ 8bitで月まで飛んだよ

彼はプログラマーとなるも、どうも煮え切らない。
全てがネットで繋がりどんどん自由になっていく電脳世界に、却って窮屈さすら感じ始めていることが明かされます。

「8bitで月まで」飛ぶとか、あまりにオタク殺しの詩的な表現。


『月世界旅行』より
月ノ美兎委員長のMVでもパロディされていましたね


映画史における劇映画の確立を促したジョルジュ・メリエスの『月世界旅行』を想起させるこのフレーズ、インターネット黎明期に生きた「彼ら」と映画黎明期を作り上げた「彼ら」への深い敬意が感じられてものすごく好きなんですよね。

たとえ技術や世間の理解が追いついていなくても、執念や愛情で月までだって飛んでみせる。

映画史を作ったメリエスのように、また我らも「確かに在ったオタクの歴史」をここに記そうという強い意志が鼓膜をビリビリと灼く。
最高すぎるぜ〜!!!MOSAIC.WAV!!!

これは脱線ですが、「月」っていうモチーフってやっぱり強すぎる。筋少の『ペテン師、新月の夜に死す!』『僕の宗教へようこそ』『少女の王国』とかもそうだけど、あまりにも抒情的な詩に向いているな…


閑話休題。ここまでも恐ろしい歌詞が続いていますが、『電気の恋人』における最高の瞬間は、ラスサビで訪れます。

膨大な知識の電波は すべてを知ってるわけじゃないから

新しいことまだ見つけられる 宇宙の果てに広がってゆける

2003年4月7日に 未来のロボが生まれなくても

2112年9月3日は まだまだ分からないのさ

たった60年の昔から 幾度となく夢積み重ねたね

夢と科学で未来を変える
僕らはみんな電気の恋人

…この良さたるや!!!!

ただの懐古で終わらず、これからのインターネットだってまだまだアングラな魅力と発見のときめきに溢れているはず!と未来に希望を示すところまでは、まだ致命傷で済みます。

その後の意味深なフレーズ…自分は幸運なことに意味を理解することができました。


「2003年4月7日」は、鉄腕アトムの誕生日。

「2112年9月3日」は、ドラえもんの誕生日。


手塚治虫の産みだした、戦後日本人にとっての想像力の象徴であるアトム。彼の誕生日が過去の日付となった瞬間、彼の存在はまるっきりフィクションだったことが否応なく証明されました。

来るべき発展して未来への希望は、その象徴の生誕が過去となった時点で萎んでいくもの。
鉄腕アトムを誕生させ、希望と夢を成就させることはついぞ叶わなかったのです。


…でも、ドラえもんが本当に生まれるがどうかはまだ分からない。むしろ、これから未来を生きる私たち「電気の申し子」がそれを左右する。

たった60年で「8bitで月まで飛ぶ」ような状態から、なくては生活が成り立たないほどに「電気」を発展させた「電気の申し子」たち。

ドラえもんに代表される未来のテクノロジーへの無限の好奇心、そして鉄腕アトムのように失われたさまざまなシステムへの慕情…

これら二つの相反しながらも非常に似た複雑な感情の発露を、MOSAIC.WAVは丁寧に描き出します。


明るい未来の進歩的技術のメタファーである「ドラえもん」が生まれてきてくれるかどうかは、ひとえに「君」次第なんだよ…
聴衆にデスクトップいっぱいの愛とそれを覆うほどの未来への課題を残してこの曲は終わりを迎えます。


仲間と駆けた青春や甘酸っぱい恋愛なんていうありきたりな「稀有」を描いてセールスに魂売った名ばかりの青春パンクにはもう辟易してるんですよ、こっちは。

想像するしかありませんが、この歌の主人公の青春は間違いなく「未来の箱」との未知の体験で輝いていた。
よくある「普通」と違くったって、それでいいじゃないか!という優しさもこの歌には込められているような気がするんですよね。「普通」への圧力に反抗するAKIBA流パンクスピリットをやはり感じます。


話が少し脱線したのでここで軌道修正をば。

重ね重ね言いますが、私は全くネット黎明世代ではありません。そんなことを感じさせないほどに、MOSAIC.WAVの魅力には普遍的なものがあります。


彼らは確実に私が経験したことのない強烈な感動を、真正面から最高の歌詞でぶつけてくる。


少し前に公開した私の記事「自分が生まれる前の時代へのノスタルジーは、未知のものに触れた瞬間の感動という点において、未来への憧れと同種の感覚がある」と論じましたが、まさにこの曲がそう。


過去に対するノスタルジーを存分に描き切る懐古曲かと思わせておいて、その実は何よりもインターネットの「これから」を見据えた『電気の恋人』

この曲は圧倒的なノスタルジーを描くことで、当時を知らない私のような若者たちには想像のできない新たな「未来」のかたちを見せつけているのです。

ここまで広がりと解釈の余地を残すとは、後世の音楽評論家に「柏森進さんは人類史上最大の作詞の天才」と評価されること請け合いでしょう。



おわりに


…というように、MOSAIC.WAVの世界観には「パンク」と「オタク泣き」の要素がふんだんに散りばめられているのです。

あんまり萌えを叫ばなくなり、いつしかネットの流行を追うことに疲れがちになってしまっているそこのアナタ!!

失われたものに対する感傷にどっぷりハマってみたい、ちょっとマゾな貴方も!
生まれる前の時代へのノスタルジーを感じたい、そんな若い貴方も!

いつの世もどこか虐げられ続けるオタクたちが何年経っても聴きついでいくアーティストは、いつもオタクのために正面切ってパンクすら感じさせるパワーで創作し続ける…令和の世においても健在なスーパー・アーティスト!
MOSAIC.WAVをおいて他にないでしょうね。


もしこれを契機に「MOSAIC.WAVは聞いたことがなかったけど『ふぃぎゅ@』以外も聞いてみるか!」となってくださる方が少しでも居たら今生の喜びです。


……そうなってくださらなかった方の為にも、まだまだMOSAIC.WAVの記事は書き続けますからね!!!!


この次はモアベターよ!!!!!!!!!!!

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