見出し画像

再來!!好好台灣旅行 台北編 5/5

タブー(禁忌)はねじ伏せるためにあり

台北最後の日、僕たちは九份へ向かった。台湾では電車内での飲食が固く禁じられている。日本でも電車内でムシャついてたら白い目をされるだろうが、台湾はそんなノリではない。車内でペットボトルの水でも飲もうものなら警察にしょっ引かれるレベルで禁じられているそうだ。(諸説あり)

少なくとも周囲の乗客から叱責されそうだと、ネットの情報を得て僕らは戦々恐々としていた。つい日本にいる時のノリで飲み物とか飲んでしまったらどうしよう、と…。

目を疑う光景に遭遇したのは九份へ向かう途中の電車内だった。
九份へ進むにつれ、高層ビルも姿を消し徐々に緑が増える車窓をどえらい体勢で眺める。日本と同じロングシートだったので、上半身を180°近く捻じ曲げて背後の車窓を覗いていた。

割と長い間電車に揺られウトウトとしていたその時である。突然、向かいのシートに腰掛けていたおばさん達が弁当を食べ始めるではないか。CM映像の如く喉を鳴らしてお茶を飲んでいる。車内で驚愕しているのは日本人である僕たちだけのようだった。周囲の乗客は皆気にしていない。

果たして、ネットの情報は正確ではなかったのか、それともおばさん達がタブーをパワーでねじ伏せただけに過ぎなかったのか。
真相を知るために、また台湾に来ようと思った。

目の前でねじ伏せられた禁忌をまだ捨てられずにいる自分が嫌い

山の中に突如、高層ビルが出現するなど九分までの道中の景色が面白かった


九份は赤く 海は青い

九份では思っていたよりもずっと日本人が少なく、東南アジア諸国の観光客が多くて日本の貧困化を感じられた。また、いわゆる「観光地価格」をこの旅で最も感じたのもここ九份だ。
僕は、近年台湾の物価が上昇していることを報じるニュースで耳にした「安いから台湾に行く時代は終わる」というフレーズを思い出していた。これから先台湾へ足を運ぶ日本人は、選りすぐりの台湾マニアになっていくのだろうか。

僕が一番感動したのは九份から見下ろす海の景色で、思い返せば外国の海を見るのはこれが初めてだった。この遥か向こうに、僕が置いていった日常が続いていると思うと不思議な感覚を得られる。

置いてきた日々を恋しく思うには九份はやや賑やか過ぎた

小銭撒き散らし人生

何やら良い香りが漂ってくると思ったら、香木?を売っている店がある。記念に一つ買って行こうとおばさんにお金を渡そうとしたところ、誤って財布に入っていた小銭を全て撒き散らしてしまった。

このように僕は至る所で小銭をよく撒き散らす。キャッシュレス化の時代に生きていて本当に良かったと思う。

おばさんは軽く笑いながら商品の袋詰めのために店奥へと消えていった。僕は観光客が行き交う中、棚の下にまで散らばった小銭をかき集める。

友人たちは助けに来ないどころか笑いながら僕の写真を撮っていた。

散らばった小銭を一緒に跪き拾う行為を愛と定める

エンドレス飲茶

急傾斜を乗り越え、へとへとになった僕たちはチョット良いお茶屋さんに入店した。その名も「九份茶坊」。素晴らしい景色を眺めながら、自分たちで美味しい台湾茶を淹れて飲み、特製スイーツを楽しむ贅沢な時間を決め込むことができる。

ただ、メンバーがよくなかった。僕たちはワイワイと騒ぎながらジャバジャバお茶を無造作に注ぎ散らかし、綺麗な景色を堪能しつつ日本で話すのと変わらない話題でゲラゲラと笑っていた。非常に穏やかでない。

ここでピシャリと「お茶に集中しようよ」等と声がけしてくれるような人物はいなかったので、そのまま時間が許す限りお茶を20杯ほど(茶碗が小さいため馬鹿みたいに飲みまくった)嗜み、お腹をタプタプにして九份を締め括った。

その後迫り来る尿意に怯え続けたのは言うまでもない。  

ただ僕を通過してゆくだけだったお茶もあなたも苦味を残し


さらば台湾、また会う日まで

九份から台北に戻り、友人二人は一足先に帰国した。僕は空港で夜を明かし明朝のフライトに乗り込まねばならない。…辛い。

追い討ちをかけるように、もうとっくに上空にいると思っていた友人達から連絡が入る。彼女らのLCCの便も数時間遅れになったとのことだ。これも貧乏旅行の醍醐味なのだと、僕たちは自分自身を納得させるよりなかった。

非常に疲れていたので、マッサージを受けてみようと思いたち台北駅近くの店へ向かった。料金を見ると台湾だからと言ってもそこまで安い印象は抱かなかった。(後日日本で見かけたマッサージ屋の方が安かった)
グレードの高いコースを勧める受付のおばさんの話術をかわし、最も安い背中、肩のマッサージを注文する。

おじさんとお兄さんの中間のような年齢不詳の男がやってきて椅子に座っている僕の肩の筋肉を思いっきり抉ってゆく。痛い痛い痛い____。これは正解のやり方なのだろうかと、失礼なことを考えつつ無言で耐えまくっていた。この苦悶に歪む顔を彼に見せつけたいと思うものの、後ろを振り向くことはできない。彼が思い切り僕の首根っこを掴んでいるから。

そんな地獄を見たマッサージだったが、終わった後は体も軽く感じられポカポカする。まるでお風呂に使った時のようだった。

台湾のチェーンの飲食店

夜は台湾のチェーン飲食店で済ませる。お兄さんがセルフサービスであるはずの箸をわざわざ僕のテーブルにまで届けにきてくれたり、「很好吃」(美味しかったです)と伝えると本当に嬉しそうにしてくれるおばさんを見て、台湾から離れる寂しさを確かに感じた。



台湾も日本も島国で、似たような風貌の人が街を行き交い、漢字を使い、箸を使ってお米を食べている。日本の店もいっぱいあるし、共有する文化も多くある。
その中で、日本と違うところがあるとそれが際立って感じられるのだ。
温暖な気候、雑踏から聞こえてくる異言語、漂う香り、押しの強い温かさ、スーパーで並んでいる商品。今でも鮮やかに想起できるほど僕にとってはどれもが新鮮で、刺激的だった。

日本へ戻ってから台湾との違いを見つけようとしたが、魔法が解けたみたいに、(または魔法にかかったみたいに)何もかもが違うと思うようになった。文章や写真では掬いきれない無数のキラキラは、より一層東京に住む僕の中で輝きを増している。

今、この瞬間にも。

思い出は時間とともに輝度を増し希望に変わる法則を知る



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?