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#17 夜を彷徨う

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琉球新報取材班(2020).夜を彷徨う──貧困と暴力 沖縄の少年・少女たちのいま── 朝日新聞出版

本書紹介 from 朝日新聞出版

SNSで寝床を探す少女、大人に騙され売春の網にかかった少女、仲間との関係から窃盗を繰り返す少年……。夜の街をさまよう沖縄の少年・少女たちの姿から、日本社会全体が直面している「子どもの貧困」の実態が浮かび上がる。

本書感想

本書の元となったのは琉球新報(沖縄の新聞)で掲載された連載「彷徨う──少年少女のリアル」。

沖縄の少年少女が直面する問題──貧困,暴力,売買春,薬物,若年出産──を本人たちへの取材を通して紹介している。もともと新聞紙上での連載だったということもあって,約50の話題が話題1つにつき2-3ページで紹介されていく。

そこから見えてくるのは,沖縄の少年少女に突きつけられた”闇”,あるいは”社会のひずみ”。「何も知らなかった」では済まされないような,目を背けたくなるような現実があった。

たとえば,「ストーカーアプリ」の話(p.33)。同じアプリを持っている人同士の位置情報が互いに分かるそのアプリは,相手の位置情報が瞬時にわかるので「遊ぶのに便利」らしい。位置情報をオフにすることは,「友人に知られたくないというサインになり,仲間の信頼を裏切ることにもなる」(p.35)。...友人が目の前にいないときでさえ一挙手一投足を気にしなければいけない。苦痛しかないのではないかと私なんかは思うのであるが,それが「普通」になっている。そしてその「普通」の背景には,実生活での問題──暴力,いじめなど──があることがうかがえる。

本書では取材した少年少女全員を紹介できたわけではない。むしろ,その多くは紹介できていないようである。だから本書はあくまで入り口でしかない。少年少女に突きつけられた問題を,わずかではあるがその重大さを知るための手がかりとして,本書は貴重な状況を照らし出してくれていると思う。

自戒の念を込めて言えば,気になったのは1点。少年少女の言葉を「問題」に引きつけて解釈していないかということである。「大人の方がきっと悪いってことも,子どもたちのせいにされていることって多いんじゃないかって思ってて,10代の子が学校や家の外でどんな気持ちでいるのか知って大人に伝えたい」(p.186)。この取材目的を達成するために,少年少女の言葉をそのまま受け止められていないのではないか,取材目的に沿う言葉として解釈してしまっているのではないかと思ってしまう箇所もあった。

本書は入り口でしかない。だから,この本をきっかけに歩みが進むといいなと思う。本書を読んだ後に以下の2冊を読むと,より少年少女を取り巻く状況への理解が進むと思う。

少女側の背景として:上間陽子『裸足で逃げる──沖縄の夜の街の少女たち』
(高知大学学術情報基盤図書館広報誌『あうる』に書評を書かせていただきました)

少年側の背景として:打越正行『ヤンキーと地元──解体屋、風俗経営者、ヤミ業者になった沖縄の若者たち』

ページ数から見る著者の力点

本書は6章から構成されていました。ページ数は以下の通りです。

夜を彷徨うページ数

概ねどの章も同じようなページ数で綴られていました。第1章「SNSの闇」のページ数が他に比べて若干多いですが,SNSに”ひずみ”を見ているからかなと思いました。

たとえば,第1章では,売買春のことも,友人関係のことも,クスリのことも取り上げられ,少年少女が直面する問題の多くがSNSで生じやすいと捉えており,そのために同章のページ数が多くなったのかなと思いました。

思考のための備忘録1

 社会では,買春に関わる男たちへの批判よりも「売る方が悪い」という声が大きい。連載掲載後,編集局には「法律違反をした少女の話を載せてもいいのか」「一部の子の話のために,沖縄全体がこうだという印象を持たれる」といった意見も寄せられた。
 児童買春も未成年者雇用も,子どもは「被害者」であり,少年法に関係なく罪に問われることはない。被害者を「犯罪者」として見る感覚が問題の根源にある。「安全圏」にいる大人が,危険な場所に追いやられた子どもを批判し,彼女たちの口を閉ざす。(p.80)

このような「安全圏で被害者(少年少女)を非難する人」について取材した記事や書籍ってどこかにあるのでしょうか?もしあるのでしたら,そのような非難をする人たちの事情が気になるので読んでみたいです。

*目次*

── まえがき
第1章 SNSの闇
─ 中2,買春の網に 「仕事ほしい」に業者即答
─ 「援デリ」強要 拒否すれば脅し,「殺される」
─ 相手,スマホだけ 「ないと生きてけん」
─ 寝場所,LINEで探す 「家にいるよりまし」
─ 「友人関係」を更新 先輩とのつながりに疲れ
─ アプリで相互”監視” 位置情報は「信頼の証」
─ |「裏アカ」の使用 女子高生約7割
─ |SNS介し性被害 居場所,相談窓口足りず
─ 「クサ,買わない?」 同級生が購入迫る
─ |「興味本位」「勧められた」 高校生ら10人摘発
─ 売人,身近な所に 「普通の子」の手にも
─ |1グラム6500円 売人男性証言
──危機に直面する10代
─ 承認欲求つけ込む大人 被害防ぐ声掛けを 
第2章 消費される性
─ 「こんなはずじゃなかった」 生活の苦しさ変わらず
─ 親友にも話せない 「援デリ」,深い傷に
─ 誰も守ってくれない 補導され「ほっとした」
─ 店で「ピンサロ」強要 家,学校では孤立
─ 「親に言う」と脅され出勤 50,60代の客相手に
─ |風俗店,「囲い込み」多様化 スマホアプリも温床に
─ 家を出るため風俗に 父の暴力「殺される」
─ おなかの子,私が守る 「一緒に未来開く」
─ |追い詰めるのは大人 被害者に厳しい社会
──見過ごされる大人の責任
─ 「所属先」確保して 大人側の支援も必要
─ 私が心の居場所になる 「できることをやるだけ」
第3章 壊れた家族
─ 目に殺虫剤,視力低下 母の恋人から暴力
─ 生活費,全て自分で 育て方,分からぬ母
─ バイトで生活支え 母,風俗勤め勧める
─ 父の死後,生活一変 働かぬ母背負って
─ |児童虐待通告,最多 性的虐待も倍増
─ 俺,ここにいるよ 親の気引こうと万引
─ 非行エスカレート 施設脱走繰り返す
─ 認められる存在に 子ども時代を生き直す
──社会とのつながり切れ…
─ 無視しない社会を 「つながり」の大切さ強調
─ 助けを求められず,孤立し力尽きる親
第4章 「仲間」依存
─ いじめ機に非行 「青春は夜の公園」
─ 「怖い大人」消えた 家に帰らぬ生活
─ 窃盗に「うきうき」 関係断ち切れず葛藤
─ |「頼み買い」横行 酒やたばこ,容易に入手
─ 大人いない「居場所」 「自分でいられる」
─ 中1飲酒,2人昏睡 救急通報,人工呼吸も
─ |未成年,飲酒搬送43人 運転中の事故も
─ バイクは「相棒」 事故っても乗り続け
──傷つき,身寄せ合い
─ 周囲の大人に支えられ,非行から更生
─ 沖縄の「ヤンキー」調査 30代まで続く先輩支配 
第5章 母になって
─ 「若いから何?」 周囲の「偏見」感じ
─ 家計やりくり,家族守る 結婚後に借金発覚
─ 妊娠,学校を離れる 「マーマー,ごめん」
─ 娘の妊娠,親も苦悩 一緒に責任を背負う覚悟
─ 15歳「今度こそ産む」 中絶体験に「後悔」
─ 働きながら高校卒業 「堂々と生きる」胸に
─ |「妊娠」自主退学 学業両立が課題
──浮かび上がる課題
─ 早い段階から,継続的な学びを
─ 子ども守るための「親支援」
第6章 取材の現場
─ 「信頼している人なんていない」 「家族」にあこがれ
─ 「お前に話して何か変わるば?」 諦めたことの後悔
─ 「夜は外に出なくなったよ」 取り戻した母娘の時間
─ 「幼稚園まで幸せだった」 連鎖する暴力
─ 「前しか見てないんで」 10代で出産した母の奮闘
─── あとがき

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