#18 現実はいつも対話から生まれる
本マガジンの紹介はこちら。
Gergen, K. J., & Gergen, M.(2004).Social construction:Entering the dialogue. Taos Institute Publications.
(ガーゲン,K. J.・ガーゲン, M. 伊藤 守(監訳)(2018).現実はいつも対話から生まれる──社会構成主義入門── ディスカヴァー・トゥエンティワン)
本書紹介 from Discover
社会構成主義の基礎的な考えはとてもシンプルなようでいて、非常に奥深くもあります。私たちが「現実だ」と思っていることはすべて「社会的に構成されたもの」です。もっとドラマチックに表現するとしたら、そこにいる人たち が、「そうだ」と「合意」して初めて、それは「リアルになる」のです。
・・・中略・・・
一緒に話し、新しい考えを聞き、問いを投げかけ、別の(代わりの)メタファーを考えることで、新しい意味の世界の敷居をまたぐのです。未来とは私たちが「一緒に創造する」ものなのです。
(第1章より)
本書感想
社会心理学に社会構成主義social constructionismを浸透させたのが本書の著者の一人ケネス・ガーゲンです。
社会構成主義は色々な思想的伝統の流れが入り込んでいるので,なかなかに掴みどころが難しい立場です。社会構築主義といった社会構成主義と似たような立場もあることで(※),ますます社会構成主義の理解が難しくなっています。しかし,本書では,その難解な社会構成主義を入門書として分かりやすく解説してくれています。
※ 構成主義constructionismが構築主義と訳されたり,構築主義が構成主義と訳されたりすることがあることから,その混乱に拍車がかかっています。
本書における個人的な核心は,第5章「「批判」から「コラボレーション(連携)」へ」で述べられる「構成主義の考えは,『メタレベル』と呼ばれる段階で主に機能しています」(p.178)という点です。
社会構成主義の立場では,「私たちが『現実だ』と思っていることはすべて『社会的に構成されたもの』」(p.20)と考えます(※)。ここから,「すべての現実は存在しないということか」という誤解(批判)が生まれますが,社会構成主義は「現実がない」と言っているわけではありません。
※ 社会的に構成とは,「私たちが互いにコラボレーションを起こすことにより意味も創造が起こる」(p.13-14)ということです。
たとえば,「知能」と呼ばれるものがあります。知能=頭の良さと考えられていることが多いと思いますが,一般的にそれは人間に普遍的に備わっていると考えられています。社会構成主義では,この「知能=頭の良さ」と考えられているものが現実に存在しないと考えているわけではなく,その「知能=頭の良さ」が今現在どのように捉えられているのか,人間には「知能=頭の良さ」が備わっているという考え方にはどのような前提があるのかを説明するための立場が社会構成主義ということです。ちなみに,現在の知能という考え方は個人主義を前提としていますが(ある人に知能が備わっている),社会構成主義の立場にたてば,その知能観はおかしい(知能とは,個人のものではなく,関係の中で創発するものだ)となります。
「知能」の例だと分かりにくいかもしれませんので,すごく大雑把な例としてラーメンで考えてみます。社会構成主義では,ラーメンは社会的に構成されたものと考えますが,これは何もラーメンが存在しないと考えているわけではありません。ラーメンと名指されるものはラーメンと呼んでもよかったし,煮麺と呼んでもよかったし,シルスウトノビルでもよかったわけです。でも,ラーメンはラーメンと呼ばれるし,ラーメンといえば共通してイメージされるものがあります。それがなぜそうなっているのかを(関係の中での言語使用という観点から)考えるのが社会構成主義という立場なのです。
本書は訳書特有の読みにくさも若干あります。また,一般向けを意識したためなのかもしれませんが,原典にある参考文献リストが削除されています。入門書は次の読書への入り口であり,参考文献リストは次の読書への道標であることを考えると,参考文献リストは本訳書にも残しておくか,webサイト等で公開された方が望ましかったように思います。
ただ,「監訳者まえがき」にあるように,難解な学術書しか翻訳されていなかった社会構成主義の入門書としてはおすすめな一冊です。
ページ数から見る著者の力点
本書は5章から構成されていました。ページ数は以下の通りです。
第1章と第2章は,社会構成主義がどのように発展してきたのかについての主要点のまとめです。
第3章と第4章は社会構成主義が私たちの生活や仕事にどのように影響してきたのかの説明です。
第5章は社会構成主義に対する批判や誤解への応答を通して,改めて社会構成主義の可能性を紹介しています。
第5章以外は,概ね同じ程度のページ数でした。第3章「社会構成主義と専門行為」のページ数が最も多いのは,複数の領域(心理療法,組織,教育現場)で社会構成主義の立場がどのように貢献しているのかを説明(実例を説明)しているからかと思います。
思考のための備忘録1
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