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映画「湯を沸かすほどの熱い愛」

見てきました。ホームドラマだし劇場に行くかどうかは少し迷ったんだけど、レディースデイにちょっとすきま時間があったので。祝日の新宿バルト9は激混みで、あらためて今年は邦画が熱いなぁ、と思った。

ストーリー的にはコッテコテなので、好き嫌いはあると思う(私も通常はこの手の話は好きじゃない)んだけど、とりあえず杉咲花ちゃんをはじめとする子役がうますぎて震えた。宮沢りえさまの美しさについてはわざわざ書く必要もあるまい。女神。そしてオダジョーが相変わらずのダメな人役。

オダジョーはダメ男俳優として、もはや中堅の域に達してると思うので、「恋文」のリメイクとかやったらどうかと思った。綾野剛の演じるダメ男には過去の暗さみたいな屈折感がつきまとうが、オダジョーの演じるダメ男は心底真っ直ぐにダメ男で、一周回って憎めないみたいなうまいところをついてくる。

あと、近頃「酷い映画だったが松坂桃李だけはよかった」的な妙な枠が定着しつつある松坂桃李くんが(特にどれとは言わないけど秘密とか秘密とか秘密とか)、久しぶりに普通に良作に出てて安心しました。シンケンレッド時代から応援してるので頑張って欲しい。

子役の素晴らしい演技でちょいちょい泣かせつつ、人情ものとしてキレイな落とし所に行くのかなと思いきや、リリィさん出演シーンでは痛みもある。というより全般的に、女性と男性で感じ方違うんじゃないかなぁ…と思ったんですが、実際はどうなんでしょう。

男性や子どもの目線でみて、りえさま演じる双葉さんの強さ、優しさ、包容力に甘えまくって、そのあたたかさに涙するのがスタンダードだろうなと思う。でも、世の「お母さん」という立場の人たちは、同じスッキリ感では泣けない気がするんだよなぁ…自分だけだろうか。

私は双葉さんの愛の大きさに泣く、というよりは、こっちは病気で死にますカードまで出してるのに、それでも「お母ちゃん」という人種は、かかえた問題に自力でぶつかってもがいて闘わないと、なんにも変わらないんだ、たとえ病気になっても、ってことに軽く絶望しながら泣きました。それ正直、日々の暮らしの中で実感してる残酷なリアルだもの。誰も交代してくれないんだよー。

映画の評価としては、泣けて心温まるファンタジーみたいに語られてる感じだけど、双葉さんの立場からしたらこれ、超絶現実的な死に支度なんだぜそこんとこわかってる?と言いたい。

私も40過ぎたらあちこちポンコツになってきたので、いつ何があっても困らないように死に支度はしとかなきゃ、と時折思いつつも、後回し、先送りにしてることが山ほどある。部屋の片付けも、人間関係の整理も、子どもの本当の自立を見届けることも、やってみたいなと思いつつやり残したことも、会いに行かなきゃ、と思いつつ手紙も書いてない人と連絡とることも。なんとなーくタイミングをなくしたものほど腰は重くなる。毎日の生活で手一杯だし休んで体力維持するのも大事だしねぇ、なんて自分で自分に言い訳しつつ。

だから余命宣告を受けてから、スイッチ入ったみたいに猛然と動き始める双葉さんの気持ち、わかる気がする。さあ最後のネジがまかれた、腹括ってやらなきゃ。という気持ち。

あと、本当に居場所を必要としてたのは双葉さんなんだぜ…!とも思った。能天気な男たちが川べりで「あの人にはなんでもしてあげたくなる」「何倍もしてもらってるからでしょうねぇ」的なことを語り合ってなんか通じあっちゃってたけど、もー、してもらう前に自分が動けコラ!って思う私はスレているのだろうか、いやスレてないぞ(反語)。

この男たちの役立たずさ加減が監督の狙いなのか、特に意識もせずナチュラルにそう描いてるのかはわかんないけど、2人の娘たちが、彼女たちの周囲にいる大人の男たちよりはるかに現実的に世界に適応していくさまを見ながら、この女神さまを慕い、「凄い人だ」「凄い人だ」と感心ばっかしてる男子のお気楽極楽さ加減をちょっとだけ呪う。

それでも双葉さんが繋ぎ合わせた「家族」は、双葉さん自身が求めた作品だった。母親を慕い、家族を恋う(乞う)双葉さんが、自力で組み立ててきたパズルだ。押しつけられたものじゃなく、双葉さんが欲しかったもの。

だけど自分というピースがそこにおさまる前に死んでいくことの無念さ、天国に母親が待っていないという現実、生きたいよう、という叫びの壮絶さが刺さる。

あのラストは、あれは救いだったのかなぁ。双葉さんの、諦めきれない思いだったのかなぁ。なんていうことがチクっとひっかかったり。だから、周りの人たちが皆すすり泣いてたラストでは、私は泣けなかったのでした。途中で子役の名演にちょいちょい涙してたんだけど。

それでもあの熱い、真っ赤な情熱の炎を燃やして愛することができるのっていいな、と思う。お前は生きている日々を全力で愛しているか、後悔なく愛しているか。そんなことを問われているような気もする。タイトル通り、熱い映画でした。

星は3つです。あの子役たちの中からまたりえちゃんのような名女優さんが育っていくことでしょう。りえちゃんは相撲部屋のおかみさんとかならずに女優さん続けてくれてよかったなーと思う。ホント、しなやかな、いい女優さんになられました。

#映画 #湯を沸かすほどの熱い愛 #宮沢りえ #杉咲花 #オダギリジョー #松坂桃李



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