IF ONLY 第3話「ファストスリーパー」

 大輔の寝室の真ん中に大きく置かれていたのは、重厚なカプセル。一瞬の時間で睡眠できるその「ファストスリーパー」は、「猛烈社員」の異名をとる彼にとって、今は欠かせない。それで浮いた時間を仕事に回すことをしてきたからこそ、若くして係長の座を手に入れる程までになった。
 大輔はいつものように、無言でハッチを開こうとした、その時だった。
「おじさん……」
 廊下からの声の方を向くと、そこには少女がいた。姉夫婦から今晩世話を頼まれた甥の聡が、寝かしつけたはずなのに起きている。
「どうしたんだ?」
「一人じゃ眠れないの。一緒に寝て。お願い」
「ここはアパートの一室だから、オバケなんかでないぞ」
「でも、でも、この間ね、すごく怖い夢を見ちゃったんだ」
「夢」という久しぶりに言葉を聞いて、大輔は思わず黄昏てしまった。
「夢か……。最近見てないな」
 当然、「ファストスリーパー」では夢をみる時間はない。寝て起きるまで一瞬の時間だから。脳へある程度の負担が行われるため、小学生の聡はこの機械を使えない。そのため、
「え? どうして?」
と、キョトンとしていた。でも大輔は、ハッチを閉じ、そんな聡の頭を撫でた。
「……なんでもない。今晩、一緒に寝るか?」
 聡に続いて、大輔は久しぶりにベッドに入ることになった。久しぶりの布団の感触は、確かに心地よかった。

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