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【短期連載】100万円 第3話

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10月1日、願書受付開始。BIHビジネス専門学校の入試は、書類選考と面接のみ。よっぽど内申点が悪い子でない限り、落ちることはない。だから願書出願数で入学者、つまり売上がほぼ決まる。

「去年より出が悪いねぇ。」
願書受付開始から一週間。今井がまとめた出願者に関する資料を見て、武村がつぶやいた。
少し考えこんでから、私用のスマホを手に席を外した。
数十分後、戻るや否や。
「植田さん、僕しばらく出勤時間が1-2時間遅くなると思う。直行ってことにしておいて。」
「了解でーす。あ、タケさんもいかがですかー。」
植田から差し出されたハッピーターンを「ありがとう」と言いながら武村が受け取る。
今井には、何のことだかさっぱり理解できなかった。だから、小さな声で話しかけた。
「植田さん、どういうことですか。」
「あぁ、今井君は初めてだよね。タケさん流の営業が始まるんだよ。」
今井は、ますます理解できない、と言わんばかりの表情になった。

11月、武村はコーヒー片手に出願数に関する資料の最新版を見ている。そして、小さくつぶやいた。
「虹ヶ丘高校から順調に願書が出てるねぇ。」
外回りから返ってきた植田が、武村の様子に気づいた。
「タケさん、何か良いことありました?顔がにやけていますよ。」
「営業の成果が出てよかった、と思っただけだよ。さぁて、もうひと踏ん張りしますかねっと。」
武村は、私用のスマホを片手に事務室を後にした。
入れ替わりに、今井が戻ってきた。
「植田さん、外回りお疲れ様です。」
「今井君お疲れー。今井君は何していたの?」
「さぼりじゃないですよ。ビューティビジネス学科の倉庫整理の手伝いに駆り出されていたんですよ。」
そう言いながら、今井は肩を回した。こき使われたようだ。
「あー、ビューティビジネス学科は女の先生が多いもんね。力仕事とか押し付けられるよねぇ。」
植田は苦笑いした。
「さぼりといえば、タケさんはどこに行かれたんですか?」
「今日の営業先との調整をしてるんじゃない?時間とかお店とか?」
今井は不服そうな表情でため息をついた。
「植田さん、いい加減その『営業』について教えてもらえませんか?何のことだかサッパリ理解出来なんですけど。」
植田は平然とした様子で答えた。
「高校の先生と飲んでるんだよ。」
今井は、予想外の返答だったのか目をパチクリさせている。
気にせず、植田は続ける。
「そこで『就職希望の子で良いトコへの就職が難しそうな子を回してほしい』てお願いするんだよ。高校としても進学実績が作れる。弊社は入学者数が増える。win-winだよね。
今頃、進学校とは言い難い中堅校の先生と予定の調整をしてるんじゃない?で、居酒屋で『大学進学希望の子に、滑り止めとして出願させてはどうか』てお願いするんだろうね。」
ー学生の夢を叶えるサポートがしたいから、ここに就職したのに。
今井は目を伏せた。
ー夢を叶えるために進学した子ばかりではないのか。

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