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【新宿伊勢丹90周年】め組の「咲きたい」を100万回聴くべきだよ僕たちは

現在伊勢丹新宿店で90周年記念事業が行われているのをご存知でしょうか。

伊勢丹が新宿に出店して今年で90年。それを記念し100年目に向けたこのタイミングでのキャンペーンでは、「このまちを、ステージに」をメインコピーに、新宿にゆかりのある90人の方を起用したスナップ写真が撮影された。


これがすご~く良い。新宿ってとにかく雑多だし治安が悪かったりして、昔から「良い街」というイメージはないと思う。しかも近年トー横キッズとか立ちんぼの存在が表面化して、新宿とくに歌舞伎町のイメージはスラム街とほぼイコールになってしまった。

新宿という場所は、日本の嫌~な部分が東京で最も早くにじみ出てしまう街だと思う。渋谷や銀座、あるいは京都や沖縄がどんなに取り繕っても私たちの国の変化は新宿から漏れていく。新宿の話をすると、いつも大森靖子さんの「新宿」という大好きな曲を思い浮かべる。

あの街を歩く才能がなかったから
私新宿が好き 汚れてもいいの

新宿/大森靖子

ダサい田舎の高校生だった頃、東京なんて片手で数えるほどしか行ったことがなかった。でもこの曲を聴いて、あ~新宿ってこういう街なんだろうなと思ったし、東京に住むようになった今でも、新宿ってまあ大体こんな感じだと思う。新宿にはいろんな人がいる。いろんな嫌な人や見たくないものも、新宿は隠せない。

私はみんなの中の「東京」の一面には、必ず新宿があると思っている。漫画で漠然と東京だとされている場所や、田舎者に染み付いた「東京」の景色。それらは正確でなくともかなり多くの新宿成分を含んでいるはずなのだ。私たちの中にある東京は新宿。そんな特殊な街、新宿を「普通の街」として描いたのが今回の新宿伊勢丹90周年キャンペーンなのかな思う。

スナップ写真は私たちの新宿の穏やかな部分をすごく真摯に映していた。写っているのは芸能人ばかりではなく、伊勢丹で働いている方や新宿区の小学生(すごい)、新宿駅で働く方もいる。そこにはその人たちの等身大の新宿が写っている。暮らしたり、働いたりする街としての新宿。もちろん大森靖子が歌った新宿とは全然違う色をしていて、それが伊勢丹のブランドイメージとも合致していて、素敵な企画だなあと思った。ぜ~んぜん頓珍漢なことを言っていたらすみません。



でも個人的には、本当に個人的な気持ちなんだけど、この曲がなければ伊勢丹新宿店の企画は完成しなかったんじゃないかと思っているんだ。すごく偉そうな言い方になってしまったけど今日は伊勢丹の話がしたいというより、め組というバンドの曲を聴いてくれっていう記事です。

咲きたい/め組

伊勢丹新宿の90周年企画、そのイメージソングを担当したのは、め組というバンドだった。この曲を語るということはめ組のフロントマン、菅原達也さんの話をしなければいけない。

菅原さんはめ組を結成する前、「さよなら、また今後ね」というバンドを組んでいた。なんて美しいバンド名なんだ。私は高校生の頃このバンドに見事に撃ち抜かれた。

ミルクアイスという曲、本当にいい。この曲は佐伯香織さんというベースの女性もとても魅力的で、冬なのにアイスを買ってきてしまうような恋人のことをふと思い出すような曲だと思うんだけど、個人的にはこの歌詞が本当にすごいと思っている。

ミルクアイスに思い出はないぜ
しょんぼりすんなよ、離れ離れさ

ミルクアイス/さよなら、また今度ね

別れた直後の強がりにも聞こえるし、ずっと昔の恋愛を思い出した時のちょっとした後悔や未練にも聞こえる。そういう歌詞を書けることがすごすぎる。これを菅原さんと佐伯さんのちょっと叫ぶような声で歌われると、なんか、いつでも胸がキュッとなるのだ。

この曲はさ〜〜名曲だよ。失礼だけど、別に彼らはそんなに楽器が上手くなかった。とくにこの曲は構成も結構シンプルでかなり素人感がある。

でも歌詞が、菅原さんの作る歌詞がべらぼうに良い。バンドの技術レベルや雰囲気ともズレていないのに菅原さんらしさ、さよ今らしさもきちんと組み込まれている。菅原さんが作る曲は全部少し切なくてキュッとなる。

やったらやりっぱなしの僕だけどさ
君が夕方なら僕はカミナリを打てるくらいの
才能を、努力を、情熱を放ってやる

夕方とカミナリ/さよなら、また今度ね

良すぎるーー!!!

天才。すごい。ラブソングってもう100億曲作られていて、多分曲を作る人って愛とか恋とかを360度いろんな角度から見まくって歌詞を書いているんだと思う。それでも被るし、二番煎じだのなんだの言われてしまう。だって自分が生み出す前にもう100億曲あるのだから。

でもさ、この歌詞はすごいじゃん。ああ恋してるんだな。その子のことどうしようもないくらい好きで、居ても立っても居られなくて、カミナリだのなんだの考えちゃうような可愛い男の子なんだなって、そういうことがちゃんと分かる。100億曲に埋もれない。ずっと前から菅原さんという人はそういう、確かな才能がある人だった。


といっても私が彼らを大好きになった時には彼らは既に解散していた。悲しくて悲しくて仕方なかった。でも菅原さんは音楽を辞めないでくれた。さよ今の活動休止期間中にめ組というバンドを初めて、メンバーチェンジを経たりしつつも現在まで続けてくれている。

め組もまた、菅原達也イズムがギャンギャンのバンドだった。たださよ今の頃よりもオシャレになった感じはする。その違いは正直さよなら、また今度ねファン達の中では好みが分かれるものであるとは思う。でもめ組になっても、菅原さんは菅原さんで、彼の作る曲はずーっと変わらず私の気持ちをぎゅっとさせた。

「あなたのことがずっと好き」って
さり気なく真面目になったら
その時は天使だったり、春の風みたいな顔してて

ぼくらの匙加減/め組

ミルクアイスもそうだけど、菅原さんは終わりの形をいくつも知りたがるような人なんだろうなと思う。いつも物事のおしまいのところを見てる人。菅原さんが作る曲に最高!ハッピー!ずーっと幸せ!みたいな曲は少ない。ゼロじゃないけど。

どんな曲にも歌詞やメロディラインに負の感情を混ぜる。悲しいとか切ないとか離れたくないとか、死にたくないとか売れたいとか。多分根が暗い人なんだろうな。私もそうだから分かる。ネガティブな訳ではないけど、心の根っこのところを悲しいとかで湿らせておいた方が楽なのだ。だからこの曲も最後はこう締められている。

元々こうなる運命だったってことくらい
僕も君もなんとなく気付いてたっていうことに
しちゃえば、しちゃえばいいよ

ぼくらの匙加減/め組



そんなめ組というバンドが、この伊勢丹新宿90周年プロジェクトでテーマソングを担当しているわけなのだけど、正直、初めて知った時は異例の大抜擢だと思った。これは全て個人の感想なので業界の人とかめ組のもっともっと熱狂的なファンの方に言わせれば全然違うのかもしれない。でもやっぱり「め組がテーマソングやるんだ〜」ってなる人はそんなに多くはないと思う。誰?ってなるよ。

でもだからこそ、というのはだいぶ語弊があるけれど、伊勢丹新宿の企画にもめ組が、そしてこの「咲きたい」という曲がハマりにハマったのだと感じている。

前述した通り今回の企画であるところのスナップ写真は、新宿の穏やかな部分を限りなく真摯に映したものだった。それが伊勢丹のブランドイメージとも合致する素晴らしい企画だったのは間違いない。完全に素人評価だけど。

でも多分それだけじゃ足りない。 

穏やかで健やかな新宿など、新宿の全てではない。それは田舎者でも分かる。新宿ってところはもっと汚くて混沌としていて、ドンペンのクロックスで溢れているのだ。

そういう新宿の苦い部分、これをめ組がうまいこと補完できていて、め組というバンドがそういう役割を任されていることがめちゃくちゃ嬉しかった。

「咲きたい」というこの曲、MVにはランジャタイのお二人が出演している。新宿で夢を追い、もがき苦しむもうだつの上がらない自分。もう若くない。人の忠告も上手いこと受け入れられない。そうこうしているうちに売れたい、成功したいと叫ぶことも憚られるような年頃になってきてしまった。

MVでは新宿駅の地下で、国崎さんがぼんやりと暗い顔で歩いている。人とぶつかればひたすらにへこへこと頭を下げ、そんな自分がどうしようもなく情けないという顔をするシーンがある。

それでも結局のところ諦められない。それが悔しい。夢を叶える技量もなければ潔く諦める度胸もない。だから明日も明後日も歯を食いしばって生きていくしかない、「咲きたい」はそんな曲である。

冴えないよな 嫌になるけど
咲きたいのさ 夢見てるから
最愛なるこの町で咲きたいよな

咲きたい/め組

め組らしい、なんともほの暗い応援歌だ。

でもこれが東京を、新宿を歩いている人たちのところにちゃんと届く歌だと思う。自分が情けないことなんてとっくの昔に分かってて、でも何か、人生で何か1つでもやってやりたい。そういうじっとりとした気持ちが入り込んでくるサイコーのファイトソングなんだよな。

「咲きたい」はめちゃくちゃ売れてるとは言い難いバンドが、ずっとずっと音楽を続けてきてくれた菅原達也という人間が歌うことで届く人がいるのだ。

だからめ組の曲が新宿と伊勢丹のテーマソングになっていることを知った時もこのスナップ企画にこのテーマソングありというか、何もかもがいい感じにハマっているすごいプロジェクトですわと素人も素人ながらすげ〜と思った。

私は別にこういったプロジェクト等に精通しているわけではなく、ただ単にめ組が新曲を出したと思ったらなんか大きめのプロジェクトのテーマソングでびっくりしただけの人間である。

でも菅原達也というもっと爆発的に売れてもいいのに長い間そうではないところに居た人を一番良い形で起用してくれたことがかなり嬉しかった。伊勢丹くん分かってんじゃん〜って感じ。

これを機会に全然知らない人がめ組やさよ今を聴いてくれればいいなと思っています。さよ今どこかで一夜限りの復活ライブやってください。本当に。

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