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ATC21sとは

今回はビジネスマン個人のスキルにとって哲学的思考がどの点で関係するのかを紹介していきます。

21世紀型スキル

みなさんは「21世紀型スキル」ATC21s (Assessment and Teaching of 21st Century Skills)を知っていますか。研究者や政府、企業が協力した国際団体が2009年〜2012年にかけてまとめたもので、これに関する英語の本も日本語の本も沢山出ています。企業によっては実際に人の「評価」にも採用しているみたいですね。

そもそもの団体のリンクはこちら

この記事では、内容を詳しく解説するというよりも、ビジネスで哲学的な考え方がどのように役立つかの例として見てみたいと思います。とはいえまずは、ATC21sについてから……。

上位項目としてのKSAVE

ネットで検索するとスキルの中身についてばかり出てきますが、まずそれらの前提となる5つの項目があります。
  知識(knowledge)
  スキル(skills)
  態度・ものごとにのぞむ姿勢(attitudes)
  価値観・ものごとの判断基準(values)
  倫理(ethics)
こういった観点から21世紀型スキルを整理したんだよ、ということですね。

10のスキル

内容理解のために意訳しています。興味がある方は、英語を参照したり、Wikipediaや他のサイトの訳と比べてみてください。

4つのグループ

10のスキルは4つのグループに分けられています。それぞれ、「考え方の方法」「仕事のツール」「仕事の方法」「世界で生きる方法」です。「方法」というのはwaysですね。「道」というニュアンスも含めて理解してください。

考え方の方法

創造性とイノベーション

1つ目の創造性とかイノベーションは、正直マジックワード(結論として万能に使える言葉)のような気もしますが、まぁいいでしょう。

クリティカル・シンキング、問題解決、意思決定

哲学的思考が関連するものとしては「クリティカル・シンキング」ですね。こちらは過去の記事を参考にしてください。

単なる問題解決能力とか、意思決定する能力というわけではなく、それらがクリティカル・シンキングにもとづいているということが大事なんだろうと思います。

学ぶことを学ぶ、メタ認知(認知プロセスに対する知識)

学びについてですが、これは「新しいことを学ぶ」というぐらいの意味でしょうね。ただ、実は、知らないことや分からないこと、専門外のことを学ぶことって、一つのスキルなんですよね。これはけっこう大事なポイントです。ちょっと私のテーマに引き寄せすぎかもしれませんが、哲学の本を読むというのは、結果としてこの「学ぶことを学ぶ」自体の経験を積むということだと思っています。そしてそれは、ぶっちゃけ日本のビジネスの場では軽視されていると思います。読みやすさ、分かりやすさ、時間をかけずに伝えること、こういったことはとても大切ですが、大事にすればするほど「学ぶことを学ぶ」のに時間を使うのは損だ、と思ってしまうものです。
メタ認知というのは、どちらかというと心理学の用語です。哲学でも「自分の思考について、そもそも認識のレベルから枠にはまっている」ということがテーマになります。この無意識レベルのできごとを知識として知っておかないと、「仕事の方法」「世界で生きる方法」グループのスキルが身につかない、それぐらい大事です。

仕事のツール

情報に対するリテラシー 
ICTに対するリテラシー

これは、ツールとしてはまぁ、そうですよね。協力した企業がIT企業だという背景もありますけど、たしかにリテラシー(読み書き能力、読解力、使いこなす力)はスキルといって間違いではないですよね。

仕事の方法

コミュニケーション

でましたね、コミュニケーション。殿堂入りのマジックワードが採用されています。もう、これを言っておけば間違いないみたいな。コミュニケーションが大事でなかった時代ってあるんでしょうか?
とはいえここは好意的に、メタ認知からの、より深い他者理解の上でのコミュニケーション、と捉えておきましょう。

コラボレーション(チームワーク)

コラボレーションに括弧でチームワークという組み合わせは新鮮ですね。この意味は、ようするに一人で完結型、あるいは完全に役割分担された仕事というより、(社内、社外の人たちと)協力したり提携していく、そういうスキルが大事だよね、ということだと思います。まぁ、哲学とは直接関係ないかな。

世界で生きる方法

シティズンシップ――ローカル/グローバル

これは無理に日本語にして「市民としてのあり方」などにすると、逆にわからなくなります。シティズンはシティの住民なので、市民にはちがいないのです。ただ、私としては、ちょうどギリシャ哲学の紹介中ですから、その類比で整理してみます。古代ギリシャで国というのは城塞都市です。それで、市民というのは政治に参加できる人のことですが、兵隊というのが別にいるわけではなく、この政治に参加できる人=戦争になったときに戦う人です。つまり、住んでいる場所(地域社会でもいいし、小さくは会社と考えてもいいです)の政治の面でも国防の面でも「当事者」、というのがシティズンシップの意味です。ただ、この言い方だとローカルしか説明できていません。グローバルの方は、私なら「コスモポリタン(世界市民)」と表現します。コスモは世界。ポリタンは、ポリスに住む人(=市民)です。グローバルなシティズンシップって、英語圏の人でも混乱しているんじゃないでしょうか。
さて、哲学との関係ですが、公共圏の哲学(フランクフルト学派やアーレント)などは、まさにダイレクトにシティズンシップをテーマにしていました。一方で、哲学というのは普遍性を大事にする特性から、伝統的にコスモポリタン的な発想が底流にあります。もっとも、それが西欧スタンダードの押しつけになっているのも事実なんですが、そういう価値観の押しつけではなく、あえて抽象的にコスモポリタン的発想で考えることは可能で、それはどちらかというと倫理に関係します。倫理的(エシカル)という言葉は、ビジネスでもよく目にするようになりましたが、哲学の根幹は倫理学といってもいい、と私は思っています。

人生とキャリア

この記事を読むような方は人生におけるキャリアというものを、広く捉えているでしょう。つまり、年収だけが尺度ではないということです。もっと端的にいうと、一人の人間として人生を「いかに生きるか」ということです。積んできた経験、人脈、これらを誰に、何のために使うか。これがキャリアを考えるということです。このように人生とキャリアをセットで考えれるというのは、スキルなのです。

個人の応答責任と社会の応答責任――異なる文化への配慮と適応能力

原文では一番複雑な項目です。ただ私は、単純に多様性の話だと思います。自分と違う価値観の人を、尊重する。あるいは、違う文化に適応する(自分を変えていく)、そういうことです。
とはいえ、それはとても難しいことです。自分の価値観(認識の枠)をメタ認知することができないといけません。そして、私がもっとも重要だと思うのは、他者を認めるといったときの「他者」の範囲についてです。これを「人間だったらみんな」というのは、実際はウソのはずです。
現実にはある境界線、これをどこまで広げることができるのか。あるいはどこに限界点を定めるのか。これに真っ向から立ち向かった哲学者たちがいるわけですが、おそらく紹介するのは先のことになるでしょう。ここで私がいいたいのは、これこそが倫理の頂点であり哲学が世界に必要とされる最大の理由と、私は思っているということです。ちょっとシリアスになり過ぎましたか。でも、そんなに深く考えないとしても、多様性への配慮と適応というこのスキルなしでは多くの人から共感を得ることは、今後ますます難しくなっていくでしょう。

おわりに

このようにATC21sの10のスキルを個別に見てきましたが、前提となるKSAVEが、しっかり切り口になっており、さすがによくできているなと思いました。
項目の中には、雑に扱ったものもありますが、読んでいただいて何か一つでもビジネスと哲学とのつながりを見つけていただけたら嬉しいです。また、ATC21sについて書かれたものは、ネットにも沢山あります。私が大事だと思っている部分が、さらっと流されていたりして……ようするに哲学は役に立たないんだな、と思った人。それが現実です。

いくつもあるので一つだけサイトのリンクを貼っておきます。これは良い例ですよ。大変分かりやすくまとめてある、良い例です。

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