見出し画像

ショートショート:そんな二月二十二日だった

 二月二十二日。今日は『にゃんにゃんにゃん』の猫の日。
 せっかくだから、よくウチの庭に遊びに来る三匹の猫の写真を撮りたい。口笛を吹きながらカメラを持って庭を覗きに行き……私は首をかしげた。
 猫が一匹しかいない。三匹の中で一番のんびりしているブチ猫が、一匹だけ取り残されたように木の根元で寝転んでいる。

「あれ? 他の二匹は?」

 今日はまだ遊びに来ていないのだろうか。私につられて庭を覗きに来た母にたずねると「それが最近、一匹のオスを取り合って喧嘩しちゃったみたいなのよね」と苦笑交じりに説明された。
 そういえば猫たちは、メス二匹にオス一匹という組み合わせだった。両手に花だね、などとオス猫をからかったことがあるのを思い出す。三匹は仲良く過ごしているように見えたが、実は水面下で争っていたようだ。私は何も知らなかった。ただ、かわいいなぁとのんきに眺めていただけだった。

「せっかく猫の日っぽい写真を撮ろうと思ったのに」

 私ががっくりと肩を落とすと、母は取り残されたブチ猫を抱き上げた。優しく頭を撫でてやった後、今度は私に抱くように促す。

「別に一匹でもいいでしょ。カメラ貸して。お母さんが、あんたたちを撮ってあげる」
「ありがとう……」

 腕の中で、ブチ猫がニャアと鳴く。まるで私をなぐさめているように聞こえた。その小さい頭を撫でて、カメラを構えた母に視線を向ける。

「撮るわよ。さん、に、いち――」

 しかしシャッター音が鳴る前に、ブチ猫は私の腕の中からするりと逃げて……。結局私が一人でピースしている写真だけが寂しく残った。そんな二月二十二日だった。



―――――

※みんなのフォトギャラリーから素敵なイラストをお借りしました。ありがとうございます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?