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もっとぼかして

先月カセットテープをネットで購入した。送料が安くなるので、まとめて5本も購入した。ネットには衝動買いの魔物が潜んでいることをあらためて感じる。

再生機を持っていなかったので、カセットプレーヤーも購入した。ポータブルタイプのカセットプレーヤー。スーパーに売っているエリンギが2本入った容器くらいのサイズで、スマホやmp3プレーヤーと比較するとボタンが出っ張っていてゴツゴツしている。ズボンのポケットに入れてしまうとパツパツになるので、カバンに入れてイヤホンを垂らして聴いている。

初めは付属のイヤホンで聴いていたが、音がこもりすぎてエモいにもほどがあると思い適当に安いイヤホンを購入。うん、音が良い。音が良いというのは、音質が良いという意味ではなく、聴きくたびれなくて良いといった意味です。さながら耳の中に1枚のレースカーテンがあるみたい。昼過ぎにぽかぽかした室内で、ゆらゆらしているカーテンを挟んで外の景色を眺めている快適さ。音の角がとれて丸くなった優しさがある。

良い買い物をしたなあと感じていたが、1ヶ月経った頃とある苦難が訪れる。

平日の昼間に、家事をしながらカセットテープで音楽を聴こうとするが外が騒騒しい、平日の日中は工事をしているみたいだ、知らなかった。休日は換気したいので、窓は開けておきたい。こうなるとオープンイヤー型イヤホンだと苦しい。ワイヤレスのノイズキャンセリングイヤホンは持っているが、あいにくカセットプレーヤーはBluetoothには対応していない。

Spotifyやyoutubeで探せば同様の曲は聴ける。だが僕はおびえていた。やっぱり良い音質、良いイヤホンで聴くのが最高なんじゃないかって。

少し緊張する中、ワイヤレスイヤホンをつけ、左耳のイヤホンの先を軽くつまむと、ポンッという音が鳴り外界との音を遮断される。いつもの静寂が、今日は張り詰めた雰囲気を感じた。やたら距離が近い知らない親戚と接する子供のような面持ちで、SpotifyのWi-Fiみたいなグリーンのアイコンをタップし曲を探す。

「んふふ」不適すぎる笑みを1人で浮かべこう思った。「ああ音はSpotifyのほうがいいな」嬉しいような悲しいような心情。ちびまる子ちゃんが笑いながら涙を流してる姿を想像していただくと分かりやすいと思う。

Spotifyは音の解像度が高い。カセットテープでは聴きもらしていた音がありありと聴こえる。耳がいいと自負しきれない僕がそう思うんだから、世の中総じてそうだと思う。やっぱりネットから聴いた音源のほうが良いと感じる。

いや、それにしてもだ。やっぱりカセットテープのほうがいい。もっとぼかして聴いていたい。厳密にいうと、ながら聴きしているので100%耳を傾けているわけではない。ただ休日にのんびりとした気分でパッキパキの解像度の音を聴いていてもくたびれる。

カセットテープを購入した意味が無くなるのをおびえてネットで聴かずに放置していたがやっぱり正しいことが分かり安堵した。そんな休日。

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