来年

恐れていた台風14号は、本土には上陸しなかった。小笠原諸島周辺を中心に、相当な雨を降らせた。がけ崩れなどあったようで、被害に遭われた方々には心からお見舞いを申し上げたい。

私の住む周辺地域においては、雨は連日降ったが、風は少なく、幸いにして台風による直接の被害はなく過ごせた。人智は自然災害には到底敵わない。それを思うと、神仏とご先祖様には、この幸運を感謝しなければならないだろう。

私自身は、でも、ちょっと違う意味で緊張感があった。先日記事にした、ベランダ掃除である。


私自身は、今回は、ベランダ掃除をしなければなるまいと、覚悟していた。ただ、もしも、上陸せずに風雨の激しい夜が無ければ、ベランダ掃除は引退するつもりでいた。


金曜日の夜、帰宅途中で、通勤路線は大幅に遅延していた。長蛇の列が出来、かなり手前の駅で家内に相談すると、車で迎えに来てくれるという。

持つべきものは、文句も言わずに車で遠出して迎えに来てくれる妻だと、ちょっと本気で思った。

車の中で、台風の話題になった。

ニュースを見つつ、家内に話しかけた。

上陸は、するのかな。

すると家内は、

進路は逸れるみたいよ。

という。

ヨッシャー!

とうとう、ベランダ掃除は、引退だ。そう、心の中で、ガッツポーズしながら叫んだ。

すると、家内が続けた。

最近、朝晩も寒いし、もう、秋と言うよりは、晩秋。冬に近くなってきたね。寒いものね。

なかなかに、私の家内は、優しいのだ。心の中で、私は少し微笑みつつ、家内への感謝の念がふつふつとわいてきた。

こんなに寒いのに、デッキブラシで掃除してなんて、言わないわよ。

ああ、なんて優しいのだ。家内は。私は、心の中で、ひざまずき、手を合わせて家内に感謝を捧げた。

家内は、続けた。

また温かくなったらね。

……?

また、来年ね。

……えっ?

思わず、心の声が漏れ出た。

家内は、今年で私が引退しようとしていることを、知っていたのだ。そして、確かに、

今年やったら、それを最後に引退する。

と、私は、宣言していた。だが、その機会は、幸いにして、無かった。


家内が本気で、来年と言ったのかどうかは、今は、怖くて本心を確認しようが無い。私に残された道は、他の手立てで、ベランダ掃除をして、実際に綺麗にすることだけだ。

台風一過で、結局、私には、大きな宿題が、残った。

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