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株式会社リストラ【ショートショートnote杯③】

道彦は、就活中だった。だが、内定をくれる会社がいつまで経っても現れない。もう、100社以上は落ちた。

項垂れて、ちょっとヨレたスーツのネクタイを緩め、夕日が照らす坂道を登って帰っていた。

すると、後ろから声がした。

「あなた、うちで働いてみませんか。」

振り返ると、初老の男がひとり、立っていた。そして名刺を渡してきた。

そこには、こう、書いてあった。

株式会社リストラ。


入社日、新入社員は、道彦ひとりきりだった。社長に、辞令を手渡された。その人は、いつぞやの、初老の男だった。そして着任したのは、採用部だった。

「この仕事は、君にしかできない、尊い仕事だ。」


道彦が採用したある人は、リストラされたのだが、転職してきて数年後に特許を取り、更にその10年後、ノーベル物理学賞を受賞した。

道彦には、そういう人を見抜く能力があった。選人眼とでも言うのだろうか。採用した人はことごとく、その人生を再構築し、世界中に絶大な貢献をもたらし続けた。


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