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日付変更線

帰宅時、事務所を出るとLINEでコメントのやりとりをするのが常だ。帰りの目安の時間を入れるのが暗黙の決まりになっている。家内に強制されたわけではない。むしろ家内は、そんなにこまめに入れてこなくても良いというほうだ。それでも私が勝手に入れているのだ。

先週のことだ。ちょっと残業して事務所を出た。晩御飯が少しだけ遅くなるかなと思いつつスマホを見ると、家内から先にLINEにコメントが入っていた。

乗って帰る?

家内が通勤帰りの車で最寄り駅待っているので、乗って帰るかという誘いだ。歩けば15分ほどかかる。家内は、時々、こうやって声をかけてくれる。

ありがたい優しいお言葉。

心の中で感謝をする。

LINEで、電車の乗り換えアプリを使って最寄り駅の到着時間をシミュレーションし、スクショしてLINEで送る。

よゆう。

言葉の使い方が少し違っていると思うのだが、翻訳すると、こうだ。

了解。最寄り駅で待っている。それくらい待つのは余裕で出来る。

ダイヤの繋がりがあまり良くない時間帯で直通が無い。途中駅で乗り換えねばと思いつつ、ついその駅での乗り換えを忘れていた。折り返すのは面倒だったので、少し先まで行って、違う路線で最寄りまで向かうことにした。当然、お金は余計にかかる。これは、家内には内緒だ。

LINEでは、乗り越してしまったことだけ入れる。到着がかなり遅くなった。20分以上、余計に家内を待たせることになった。


最寄り駅に着き、車に乗り込んだ。

ゴメンな。

と、伝えた。そして、こんな時間まで残業はあり得ないので、何か特別な買い物あったのかと少し不思議に思い、

何か買い物してたの?

と問うと、

グルグル、ちょっと探し回っていたのよ。

と、家内はさらりと返した。私は、特段、何を?とは、問わなかった。


帰宅して晩ご飯も食し、風呂にも入ってかなりゆっくりし、明日の準備もして、もう寝ようかと思ったときだった。家内が、

車に忘れ物をしてきたから、取ってくる。

と、言い出した。

時計を見ると、もう、日付変更線を超えようとしている。

何?大丈夫なのか?代わりに行ってこようか?

そう言うと家内は、

うん。私でないと分からないからね。行ってくる。

そう言ってひとり駐車場へ向かった。


ほどなく帰ってきた家内は、ちょっとした荷物を抱えていた。

お誕生日おめでとう。

え?

よく考えたら、日付変更線を超えたその日は、私の誕生日だった。

家内は、わざわざ、退勤後にそのプレゼントを買いに行っていたのだ。そしてそれを車の中に隠していて、日付変更線を超えた時点で取りに行ってくれたのだった。

それは、膝置きテーブルと、iPad用のクッションだった。前者が子供達から。後者が家内からのものだ。

聞くと、家内が中心になり、子供たちと連絡を取り合って、私の気に入る色を探し回ったらしい。膝置きテーブルは、残念ながら色を揃えられなかったという。

密かにみんなで連絡を取り合い、お金も出し合い、手を尽くして探し回り、仕事帰りに購入して私を駅で待ち、日付変更線を超えると同時に私の前に差し出して誕生日を祝ってくれる。そんな妻は、そうそう世の中は、いないだろう。

ちょっとびっくりしたと同時に、少し胸が熱くなった。

家内の誕生日は、一ヶ月半ほど前に既に過ぎている。私は、家内に何のプレゼントも渡さなかった。翌日に次女と3人で晩ご飯にうどんを食べただけだった。祝い合うことを、ここ何年もしていなかった。それが、どういうことだろう。


いつも、家内とのやりとりを記事にしている。結果的に、しっかりものの家内を皮肉ったような内容にしてしまっている。今更ながら、ちょっと反省した。

家内には、ちょっと敵わない。ここまでされてしまうと、日頃、少しきつく言われたくらいで機嫌を損ねたりするのは良くないのだと自分で自分を戒めた。

家内が、

これ、ちゃんと使ってよね。

と、言った。

ありがとう。使わせてもらうよ。

これからの私のnoteの記事は、家族の愛で支えられている。



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