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あなたの職場に無能だと感じる上司はいますか?
「無能な上司などいない」と思う方は非常に稀かもしれません。

これは日本に限ったことではありません。
南カリフォルニア大学の教授を務めた階層社会学者、ローレンス・J・ピーター氏の「ピーターの法則」によると、企業や政治、教育などあらゆる業界において階層社会が存在し、階層社会は「無能」な人々を生み出すとされています。

「階層社会では、すべての人は昇進を重ね、おのおのの無能レベルに到達する。」

ローレンス・J・ピーター著「ピーターの法則」より

ピーターの法則を証明する事例

有能な自動車の修理工

ある自動車修理工場に、有能な自動車の修理工がいました。
修理の技術が群を抜いており、車の不具合部分を発見する能力も高かったので、有能と認められ、作業班長に昇進をしました。

しかし、作業班長になった途端、彼の機械好きと完璧主義な部分があだとなります。どんなにスケジュールが過密であっても、面白い案件は引き受ける。また、高度な修理は自らが担当してしまうため、他の修理工への仕事の振り分けができず、修理案件がどんどん溜まっていき、納期が遅れお客様からのクレームを招いたのです。

結果として、修理工として有能だった彼は、無能な作業班長となってしまいました。

有能な軍隊の将軍

力強い物腰や話し方、くだらない規則を鼻で笑う大胆さを持ち得た高名な将軍がいました。彼が部下にとってはカリスマのような存在でした。彼は部下を率いて数々の勝利を収め、陸軍元帥の地位に昇進しました。

元帥になると、今度は対峙する相手が一般の兵士ではなく、政治家や連合軍の他の元帥になりました。彼はそれらの人々へのロビー活動が得意ではなかったため、彼らとよく衝突し、やけ酒を飲んで発散するしかなくなってしまいました。結果、戦いでの指揮は彼の部下に委譲されました。


これらの事例のほかにも、営業職としては有能だったビジネスパーソンが、管理職に昇格した途端に部下のマネジメントが不得意だったため、無能になってしまうことがあります。
皆さんも周りでこのような現象を見たことがあるのではないでしょうか。


昇進すると求められるスキルが変わる

ピーターの法則の事例を見ていくとお分かりのように、昇進をすると、求められる能力(スキル)が変わることで無能さが発揮されてしまいます。
昇進に伴う求められるスキルの変化は、まるでスポーツにおいて競技が変わるようなもの。これまで野球を毎日練習していた人が、急にサッカーで結果を出さないといけなくなるようなものなのです。

カッツ・モデル

人は昇進することによって、どのようなスキルが求められるのか。
これは、アメリカの経営学者であるロバート・L・カッツ氏によって提唱された、マネジメント層に必要な能力を階層ごとに明示した「カッツ・モデル」を見てみるとよくわかります。

カッツ・モデル

ローワーマネジメント
プロジェクトリーダーなどの立場を指し、業務遂行能力(ワードやエクセル、互角、営業など、プレイヤーとして必要な能力)が求められます。

ミドルマネジメント
課長・部長など中間管理職と呼ばれる役職を指し、部下と上司と間に立ち、相手のことを配慮しながらの橋渡し役となります。コミュニケーション能力が求められます。

トップマネジメント
社長や役員などの経営者層を指します。対峙する相手は株主などのステークホルダーに変わり、経営状況の把握、結果に対する責任が発生します。
この役職に上り詰めるとコンセプチュアルスキル(概念化能力)が必要とされます。つまり、ものごとの状況を客観的に分析し、本質を見抜く力です。


このように、昇進するに従い、これまでとは異なるスキルが求められるため、それに対して適性がある人とそうでない人が分かれます。
適性がある人は、最初は不慣れであっても、慣れてくれば能力を発揮し始めます。一方で適性がない人は、その時点で「無能」となり、それ以上昇格することはなく、不得意なポジションに置かれたままになってしまうのです。


ピーターの法則に陥らないために

階層社会にいる限り、ピーターの法則に沿って無能になる役職で留まってしまうことになりますが、これを避ける方法もあります。
最後に避ける方法をご紹介します。

  1. 昇進先の役職が自分に適性があるかを見極める
    自身が現在の立場の中で能力を発揮できている人は、昇進の可能性があります。昇進の打診が来る前に、あらかじめ自身に昇進先の役職が合っているのかを、上司の仕事を観察したり、友人から客観的な意見を聞くなどして見極めましょう。
    自分には上の役職が合わないと感じた場合は、「昇進しない」という選択肢もあるでしょう。
    また、重要なのは、一つ上の役職だけではなく、もう一つ上の役職まで見極めておくことをおすすめします。

  2. リベラルアーツを学ぶ
    カッツ・モデルにあったように、トップマネジメントにおいては、コンセプチュアルスキルが必要とされています。
    ものごとの本質を見抜くことは、社長や役員になる以前からも必要であり、鍛えておくことが重要です。
    この能力は、実体験からも身につけることができますが、全ての経験を網羅することは時間と労力を考えると効率的ではありません。

    そこで役立つのが、リベラルアーツです。
    リベラルアーツは、古代ギリシャのプラトンが推奨した教育が原型とされており、欧米の大学では重きを置いている「教養」です。
    歴史的偉人と呼ばれる人々の知恵を学ぶことにより、正しい答えを出すことではなく、ものごとの本質を見抜くための課題発見力を養うのに有効です。
    リベラルアーツについては、また別の機会で解説したいと思います。

有能な人であるほど、昇進のチャンスがあり、つまりそれはピーターの法則に陥ってしまう可能性が高いとも言えます。
将来、無能な上司に自身がならないためにも、今から準備をしておきましょう。



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