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トランジスタが出来るまでとその作用について

ゲルマニウムトランジスターの作り方について解説した、1959年のソニー寄贈の貴重な巻物です。最初本当に簡単にすませるつもりだったのですが、結局、結構な力作になってしまったので、内容を見てよろしければクリエイター支援頂ければ幸いです(^_-)。

半導体はゲルマニウムから始まった

半導体はシリコンではなく、ゲルマニウムから始まりました。下は上の巻物を開いた写真です。ちょっと細かい字は見えにくくなってます。

ゲルマニウムのゾーンリファイニング(ゾーン精製法)

巻物の上の方にあるゾーン精製法(ゾーンリファイニング)とは、不純物の多いゲルマニウムの塊から純度の高いインゴットを精製するための不純物分離法で、このゾーンリファイニングがアメリカで登場した頃、日本の研究所では木の枠にゲルマニウムの入った石英ガラスの管を縦向きに固定、それに高周波コイルをくぐらせ、その高周波コイルを動かす木の重りをバケツの中の水に浮かせて水を水時計の如く徐々に減らしていくという方法で下から徐々に熱していくという、ゾーンリファイニングに似た方法でゲルマニウムの精製を行っていたそうです😅

成長型(グロン型)トランジスタ

その後、シリコン単結晶棒引き上げと同じ方法で、高熱のるつぼに溶けたゲルマニウムに種結晶を接触させ、徐々にゲルマニウムの単結晶棒を成長させ引き上げるのですが、その作業の前に微量アンチモンやヒ素を混ぜてよく溶かしておきます。これをドーピングといい、これにより本来電気を通しにくい半導体に自由電子が生まれ、電気を通しやすくなります。下の図ではゲルマニウムに微量ヒ素を混ぜることで自由電子(図では伝導電子となっています)が生まれています。これをn型ゲルマニウムと呼んでいます。

こうして単結晶棒を引き上げていく途中で、今度は自由電子が1個足りないインジウムやガリウムを微量溶かします。

すると今度は電子が1つ足りないゲルマニウム合金の層が出来上がります(この電子が足りない部分を正孔と呼んでいます)。これはp型ゲルマニウムとなります。また今度は再びアンチモンを混ぜて、n型ゲルマニウムの層を作ります。これが成長型(グロン型)ゲルマニウムトランジスタの作り方で、図の中ほどで説明されています。

巻物の図ではpnpトランジスタですので、本来はインジウムを微量添加したp型ゲルマニウムの単結晶からn型にするヒ素やアンチモンを添加して行きますが、話を分かりやすくするため、npn型の成長型トランジスタの説明にしました。

合金型(アロイ型)トランジスタ

図の下では、p型ゲルマニウムの単結晶の上側と下側にヒ素の小粒を熱して接着してあります。成長させながら作るのではなく、ゲルマニウムの結晶にヒ素やアンチモンを熱して引っ付けているので、合金型(アロイ型)トランジスタと呼ばれます。こうすることで比較的簡単にトランジスタが製造出来るのですが、pnpの接合面にバラツキが多く、また薄いn型層を作りこみにくく、高周波は苦手で、主に低周波領域に使われました。

トランジスタの前に基本のダイオードの働きについて

いきなりトランジスタの話をすると、とっても難しいので😅、まずざっくりとトランジスタの前にダイオードの話から行きます。ダイオードは、交流から直流にする整流素子としてよく使われます。pn接合のゲルマニウムダイオードは電圧をかけていない状態では真ん中の層は電子が余った部分と足りない部分がお互い打ち消し合い、丁度電子が全くない真空地帯になっており、これを空乏層と呼んでいます。

下はp型層にプラスの電圧を、n型層にマイナスの電圧を加えてます。

こうすると、p型層の部分はプラスの部分(正孔)が、n型層の部分はマイナスの電子が豊富になり、空乏層が消失、めでたくp→nの順に電流が流れます。

今度は反対に、p型層にマイナスの電圧を、n型層にプラスの電圧を加えてます。

こうすると、p型層の部分はマイナスの電圧にプラスの部分(正孔)が引き寄せられ、n型層の部分はプラスの電圧に電子が引き寄せられ、空乏層がより拡大してしまってます。これでは電流は流れません。

トランジスタの働きについて

トランジスタはダイオードと違って、 例えばnpn型トランジスタでは、下のような三層構造になっています。ここで、p型層は大変薄いことがポイントです。

ダイオードの時と同じようにnp、pn接合部分(p型層は大変薄いのでつまりp型層全体)は空乏層になってます。ここで、エミッタにマイナスの電圧を、コレクタにプラスの電圧をかけてみます。

エミッタ側のn型層は電子が溢れてくれましたが、コレクタ側のn型層の電子達はコレクタ側に吸い寄せられ、ベースのp型層の空乏層は狭くならず、電流は当然ながらコレクタ-エミッタ間には流れません。

ここで、ベースにプラスの電圧をかけてみます。

するとどうでしょう?。ベース部分のp型層のプラス部分(正孔)がエミッタ側の電子とくっ付き始め、まず、ベース-エミッタ間に電流が流れ始めます。移動した電子はまずベース内の正孔と結合しますが、ベースは非常に薄い層であるため、ベース内の邪魔なプラスの正孔は電流がベース-エミッタ間に順調良く流れているおかげで存在しなくなり、エミッタ側の大部分の豊富な電子達はそのままプラス側のコレクタにぐぐーんと引き寄せられてしまい、関所であったベースを通過してしまいます。これで、めでたくコレクタ-エミッタ間に電流が流れました🎵

つまり、ベース部分の電圧のかけ方によりコレクタ-エミッタ間の電流を流したり止めたりが自由にでき、またコレクタ-エミッタ間の電圧を高めにしておけば、ベースの電圧が小さくてもその変化をコレクタ-エミッタ間で大きな変化として取り出すことが出来ます。これらがトランジスタのスイッチ作用や増幅作用と呼ばれているものです😊✨

つまり、水流に例えると上の図のような感じですね😉🎵

日本初の高性能トランジスタラジオ「TR-55」

成長型トランジスタを使ったトランジスタラジオ「TR-55」は1955年7月にソニーが日本で初めて、世界で2番目に作りましたが、npn型の成長型トランジスタ2T5型を使用していて、当初2T5型トランジスタの品質のバラつきに常に悩まされていました。なお、1954年末に世界で最初の成長型ゲルマニウムトランジスタを使ったトランジスタラジオを作ったテキサスインスツルメント社(TI社)は同じトランジスタ品質問題が解決できず、1955年中に生産を中止して撤退しています。これは、ゲルマニウムトランジスタのn型層を成長させるために使用するアンモチンが、既に作られたp型層を浸食し、品質のバラつきを発生させていたのです💦。つまりアンチモンを溶かしたときにp型層に拡散しやすいことが大きい原因でした。ベル研究所が作成したTransistorTechnologyという教科書には、アンチモンもリンも拡散係数はほぼ同じと記載されていましたが、試しにアンモチンの代わりにリンを使ってみようということになりました。まずリンをアンチモンと同じ投与間隔で投入するとベースとなるp型層が厚くなりすぎて使い物にならないことが分かりました。これはリンの拡散係数がアンチモンよりもずっと小さいことを示していました。つまり、ベル研究所が作成したTransistorTechnologyという教科書の記載がどうやら間違っていたようなのです。リンを特に高濃度で早めに投入することでベース部分のp型層への浸食もなく、p型層も極めて薄く、くっきりと明瞭になり、高周波特性及び品質のバラつきが劇的に改善しました。そこで、製造工程を変更、リンの使用に全面切り替えしました。これで生産歩留まりも改善してめでたしめでたし😊🎵

…とは、行かず、なんとライン全滅❗️

つまり、トランジスタが作動せず、不良品となってしまう事態に見舞われました💦。アンチモンを使っていた2T5型を改良して多量にリンを混ぜて作った2T7型トランジスタは、結晶を引き上げて切り出したままで測定をすると良い特性を示すのですが、これにガリウム入りの金線をp型部分に電気パルスボンディングした途端、次々と不良品に化けてしまったのでした。良品は10%にも満たずでラジオの生産が間に合わないと、工場は大騷ぎとなりました💦

すぐにエンジニアが総動員され、連日、対策会議が開かれて知恵を絞るのですが、解決策はなかなか見つからず、特性も歩留まりも悪いこれまでの2T5型に戻すかということに一旦はなりかけたそうですが、不良となったトランジスタの特性をひとつずつ調べた結果、リンを入れ過ぎたため、ガリウム入り金線を電気パルスボンディングするとボンディングしたp型部分とゲルマニウムのn型部分に非常に髙濃度同士のpn接合部分できてしまい、その部分は通常考えられないpn特性に化けてしまっているらしい(後にこれは後述するトンネル効果によるものであることが判明します)、ということがようやく分かってきました。そこで、どこまでが限界かを調べるため、リンの濃度をいろいろ変えて特性の測定を行うことになりました。この測定にソニー研究課の江崎玲於奈も参加しました。

江崎ダイオードの発見へ

この測定を始めてから約1ヵ月が経過した時、リンの濃度が高い結晶に、異常な現象が現れるのに江崎ら研究員は気づきました。pn接合ダイオードは、順方向に電圧を加えると電流が流れやすく、逆方向では電流を流さないのは上に書いた通りですが、リンの濃度が高いと順方向より逆方向のほうが電流が大きく、しかも順方向電流の特性にコブのようなカーブが生じることが分かりました。

2T7型の不良は、リンの濃度をある値以下に抑えれば解決することが分かり、ようやく性能の良いトランジスタを量産できるようになりました。ソニーはリン投入による独自の成長型トランジスタの特許を申請、特性が良く、良品率も高い自社開発のトランジスタを独占的に使用することが可能となりました。これにより、ソニーはトランジスタ製造において強い優位性を獲得しました。

一方、江崎らは問題の異常現象の解明に引き続き当たることになりました。量子力学では、物質は波としての性質を持ち、そのためエネルギーの山があっても、この山をトンネルを通るように粒子が通り抜けて、エネルギーの山の向こう側に現れることができるという効果があり、この異常現象こそ「トンネル効果」ではないか、と思われたのでした。

実験を重ね、ついに江崎らは、加える電圧を増すと逆に電流が減るという、負の抵抗(抵抗は電圧と電流の比で表わされ、普通は電圧を増すと電流も増していく)を持つ新しいタイプのダイオードを作ることに成功、江崎ダイオード(トンネルダイオード)と名付けたのでした。

江崎らはこの成果を、1957年の秋に開かれた「物理学会」で報告し、翌年には米国物理学会誌に投稿、続いてベルギーのブリュッセルで行われた「国際固体物理会議」で発表しましたが、当初、日本での反響は全くと言っていいほどなかったようです💦

しかし、この江崎ダイオードは、負性抵抗を持ち、またトンネル効果が非常に速い現象であることから、高い周波数の発振、増幅、高速度スイッチングなどの回路素子に利用することができ、例えばコンピューターの演算速度を上げることに応用できることが分かり、アメリカの研究者達に後々大いに注目を集めることになりました✨

江崎玲於奈は、この半導体内のトンネル効果の発見を讃えられ、超伝導体内での同じくトンネル効果について功績のあったアイヴァー・ジェーバーと共に1973年のノーベル物理学賞を受賞しています。

最後まで諦めなかった者にのみ女神は微笑む

以上のことから言えることは、最後まで諦めなかった者が最後の勝利を手にするということです。早々に諦めて撤退したTI社はせっかくのトランジスタラジオの市場及び、高性能トランジスタの開発、トンネル効果ダイオードの発見という金脈を逃してしまっています。何事も最後まで諦めないということが今回のメッセージです。

内容は以上です。最後までお読み頂きありがとうございました。

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