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ランドマーク(27)

「海良は星座、分かるか」
「概念のはなしですか」
「違う、どの星とどの星で、こういう星座ができますってやつだよ」
「形は見たことありますけど、写真で」
「そうだよな、わかんないよね」
「わからないわけではないです」

 そう言ってわたしは空を見上げる。雲はない。にもかかわらず、そこに星はなかった。うっすらと月明かりがわたしと先生を照らすばかり。

 〈塔〉が倒壊したとき、その頂点はすでに宇宙空間へと達していた。周囲には静止衛星がひしめき合っていて、交換日記のように日夜地球と情報をやり取りしていた。気象、GPS、観測、所狭しに並ぶ姿は土星の輪みたいだった。そして、倒れた〈塔〉はそのほとんどを壊して回った。損害額はあまりにも大きく、国の経済状況は悪化の一途をたどった。

 しかしさらに大きな問題があった。空から星が消えたのだ。破壊された衛星の残骸は互いに衝突し合い、より小さな破片へと姿を変えた。その破片はまた衝突し合い、繰り返して塵となった。〈塔〉によって発生したこのスベースデブリは国の上空を覆い、星の光を遮った。気候を根本から変えてしまうほどの影響はなかったものの、夜はよりいっそう黒々としたものとなった。

「海良、知ってるか・・・・・・」
「何をですか」
「星は、神様が世界を覗くために針で開けた穴なんだよ」
「じゃあ神は、わたしたちに興味をなくしたんですか」
「バベルの塔を作っちゃったわけだからね」

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