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ランドマーク(117)
猛烈な眩しさに引き戻される。はたと思い至る。わたしは宙に浮かんでいた。この表現は正しくない。だってわたしはさっきからずっと、意識を取り戻す前から、空を漂ったままなのだから。落下速度、それが唯一の違い。背中が何かに強く引き付けられるような感覚があった。
振り返ると、わたしの背中から生えていたのは、翼ではなくパラシュートだった。いったいいつ、わたしが非常用パラシュートを身に付けていただろうか。振り返る限り、それは記憶の中に存在していなかった。ふわりふわりと落下傘、わたしの身体ははらりはらりと葉のように、小さな螺旋を描きながら地面へ吸い込まれていた。
わたしは戻るのだ。夾雑物にまみれた地上へと。雲に覆われた世界へと。安堵も脱力感も、自分の予想とは裏腹に露出してくることはない。ゆるやかな減速はわたしを日常へ連れ戻す。このパラシュートが救助用具だとはとても思えない。
あれほどに望んでいた生が生温い。
こういうことを、今までに幾度となく繰り返してきた。死という概念が目の前からずるりと抜け落ちていき、わたしの中には空洞ができる。背筋を駆け上がる冷徹も、燃えるようなまなざしもそこにはない。わたしは死に損なったのではない、生き損なったのだ。
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