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ランドマーク(72)

「海良ってさ、暗いよね」

 中学の時に仲がよかった友達の言葉。たしか帰りの通学路。わたしはクラスの中で目立つ方だった。成績はいいし、まあ人当たりも悪くなかった。ときどき口を滑らせて他人を傷つけてしまうことはあったけど、それはたまの癇癪みたいなものだった。今からしてみれば、もっと上手く立ち回ることはできたと思う。でも、当時のわたしはじゅうぶんに必死で生きようとしていた。言葉も経験も行動の選択肢も、ずっとずっと少ない中でやりくりしていた。別に戻りたいとは思わない。だけど、悪い思い出はそんなに多くない。

 そこでこの言葉。結局その友達とは別々に進学して、それ以来連絡は取っていない。いくらでも手段はあるのに、なぜか億劫になっている。

 どうしてあの子は、当時のわたしを見て暗いと言えたのだろう。恐れ知らずで社交的だったあの頃のわたしに。まるで未来を見透かしていたかのよう。立派に暗くなりました。これからもたぶん暗いまま。若いうちはいくらでも変われるよ、なんて言われたって、わたしは能動的に変化する気がない。

 息が苦しかった。体力が落ちているのは自覚していた。休みに入ったらやろうと思ってた早朝のランニングは一日しか続かなかった。それ、続いたって言えないか。胸の奥に何かがつっかえている。痰かと思ったが違う。これが言葉か。わたしはそれを地面に吐き出した。山道に残る人間の痕跡。呼吸は楽になっても、妙な感覚は肺と肋骨のあいだに残ったままだった。

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